八ツ場ダム建設中止の“公約”実現が、かなり怪しくなってきた。建設中止をブチ上げた当の前原国交相がここへきて、「住民寄り」のスタンスに態度を変えてきているからだ。
ダム建設に伴って高台に移る川原湯と川原畑の両水没地区を結ぶ「湖面1号橋」建設の凍結を、最近になって前原が解除し、「工事継続の判断」を明らかにしたのだ。就任当初、1号橋はダム本体の建設を前提にしたインフラ整備だとして建設を認めていなかった。
橋の建設費用52億円を住民の雇用や町おこしのために使うべきだと提案していた民主党群馬県連の提案を退けてまで譲歩したのである。“変節”の裏には、ダム建設を推し進めようとする「河川官僚」の計略が透けて見える。
「国交省河川局は八ツ場ダム建設で、局長から若手職員まで一枚岩です」
こう指摘するのは、八ツ場ダムを取材するジャーナリストの横田一氏だ。河川官僚は、八ツ場問題が浮上したときから、建設中止を声高に叫ぶ前原国交相をダム建設へ誘導する策をめぐらせていたフシがあるという。
●「1号橋」建設にゴーサイン
「最初の一手は、昨年9月の八ツ場ダム視察で、完成したトンネルを見学させたりして、工事がかなり進んでいてもはや止められない状況にあることを印象づけた。次いで、大臣の情に訴えた。60年近くに及び、国に翻弄(ほんろう)され、苦労を強いられてきた住民の心情に理解を示すよう仕向けたのです。2月に行った住民へのアンケート調査で、2地区の全世帯に代替地への移転を望むかどうかを聞き、8割に上る住民から移転を希望するとの回答を得た。代替地への移転もまた、ダム建設が前提になる。住民の意向を事前につかんでいるからできたことです」(前出の横田一氏)
2月には、群馬県が橋脚の入札を強行した。ダム以外の問題で発言がコロコロ変わる前原の優柔不断さを見透かした上で、先手を打ち既成事実をつくったのだ。1号橋建設にゴーサインを出した際、前原は「住民は最大の被害者」と言い、気持ちをできるだけ反映したと話している。河川官僚の術中にはまったのだ。昨年9月の視察から半年でこのザマである。このままでは「ダム建設中止」は掛け声倒れになりかねない。