徒然なるままに…なんてね。

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ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第八十話 予兆…宿命の子…。)

2006-09-23 22:42:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 西沢が予想した通り…警察は間もなく銃の持ち主を探し出した。
智明は三宅の痕跡を消したのであって銃を拭き取ったわけではないから他の指紋はそのままで…それがどうやらその筋のお方のものだったらしく…前があるらしいそのお方はあっけなく捕まってしまった。

 しかも…有名な超美人のお告げ師殺し…を自慢げに白状したという。
お告げを受けようとしたら断られた…政財界のお偉いさんばかりを相手にして御高くとまっているのが気に食わなかったとかで…。
勿論…そんなのは奴等がそう言わせただけのことだが…。



 人間…命が係っているとなると少しはやる気になると見えて…年末までにはかなりの族長が試案を提出してきた。
代表ひとりで作成したわけではなく…担当地域の族長たちと話し合いの上でのことだが…かなり大掛かりな組織を考えているものが多かった。

 無論…それが可能ならそれにこしたことはない。
ドカンと大きな組織を立ち上げて警戒・警備にあたるなんて…そりゃあ最高だけれども…意地と面子に凝り固まったてんでばらばらなものをようようひとつに纏め上げようとしている現状を思えば…企業をひとつ立ち上げる以上に難題がついてまわる。

 現在開かれている族長会議は…もともとは若手にトラブルの起きた一族からの要請によって招集されたものであるにも関わらず…裁きの一族の宗主の好意によってその開催費用が賄われている。

 これから先のことを考えれば族長たちもいつまでも宗主の好意に甘えているわけにもいかないから、族長会議の継続経費のことも連携組織の運営にかかる費用のことも早急に考えなければならない。
 宗主のようにポケットマネーで会議費用を賄えるような超富豪は別格として、家門によってかなり財力に差があるために、それぞれが負担できる費用がまちまちになることは避けられない。

 そんな中で…端から大掛かりな組織を作ろうとするのは無謀である。
出せるところが出せばいい…と言うのなら如何様にも出来ようが…それでは財力がない為に暗に発言を制限されてしまう家門が出てこないとも限らない…。

 経費のことだけではなく…あまりに大きい組織をいきなり作ってしまうと…組織がうまく機能するまでに時間がかかる。
目立った動きを見せたのはここ二~三年だが…HISTORIANはすでに十年近くこの国で活動をしている。
それを考えれば時間に余裕のないことも明白…。
 
 中央集中型の大掛かりな連携組織立ち上げ試案が多い中…地域の代表家門としての試案ではないが滝川一族は地方分散型を提案…。
さすがに滝川一族はこれまでも全国に独自のネットワークを作ってきただけあって…考え方は至ってシンプル…大仰なことは一切なし。

 中心となる常設の設備は…まずは事務所程度の規模で構わない。
新設が面倒なら…代表者の自宅に空いた部屋があれば…それで十分…。
各家門に代表の指令と必要な情報を発信することさえできればいい。

 常時にあっては地方分散型…の連携組織で構わない…。
非常時において中央の代表者の指令に即座に対処できるシステムさえきちんと作られてあれば…。

 何れは独自に展開するにせよ…先の分からない現時点では訓練・調査など大掛かりなことは…すでに体系的に整っている家門がお互いに割り振って引き受ければいい…。

 要は普段はまったく馴染みのない者たちが、家門の枠を越え、代表となる者の指令に従って素早く行動できるようなシステム…を早急に作り上げること。

 今の状況から考えれば…寄せ集めの緊急派遣部隊のようなものだから…各家門からこれはという逸材を選び…それを如何に効率よく機能させるか…が最重要課題。
それには…云々…。 

 同じようなシステム重視の試案を地域代表の西沢本家の当主…祥も提出した。
滝川一族とは同地域なので…相談の上で作成したのだろうが…祥はさすがに財界の人だけあって必要諸経費の試算まで添付してあった。

 全部の試案を族長会議だけで検討するわけにもいかないので…宗主は一族の中の専門家たちを集めて提出された試案の内容を検討させ…再構築させて3タイプほどの案に纏め直させた。
その作業も並大抵ではなく…急ぎの仕事と依頼してもかなりの日数を要した。



 両腕と脇に荷物を抱え…買い物から帰って玄関の扉を開けた途端…ノエルは思わず足を止めた。
上がり框のすぐ下の三和土の上に来人が転がっている。
どうやら落っこちたらしいが…床と土間との段差があまりないのと靴がクッションになったのとで怪我はないようだ。
靴箱にもたれていた吾蘭がちらっとこちらを見た。

 「紫苑さ~ん! 」

大声で呼ぶと西沢が慌てて仕事場から飛び出てきた。

 「どうした? おおっ? クルトくん…きみはなんでここに居るのかなぁ?
しまったなぁ…おむつ替えてサークルに入れとくの忘れてた。 」

 西沢がひょいと拾い上げ、居間の方へ連れて行った。
吾蘭がちょこちょこと後を追った。

 「玄関まで自力で転がってったんだろうか…? 」

ノエルが少し不安げに言った。

 「だろうね…多分…。 」

ふたりとも頭を掠めた不安は口にしなかった。

 いくらまだ…はいはいもできない小さな赤ん坊だとは言っても…吾蘭が抱えて運ぶには重過ぎる。
赤ん坊は転がって移動したり…足で床を蹴って背中で滑って移動したりするから…月齢がいってなくても自分で動いて行って落ちる可能性は十分ある。

 「あんまり神経質にならない方がいいかもな…。
アランにとっても逆効果かも知れないし…。 」

西沢がそう言うとノエルも…そうだね…と頷いた。

 吾蘭は来人の傍で絵本を広げ始めた。
何かぶつぶつ言っているところを見ると来人に絵本を読み聞かせているようだ。
 そんな仲の良いふたりの姿を見れば…親としては不安も何もすぐに吹っ飛んで…その微笑ましい光景に穏やかな気持ちになるのだが…。

 「アラン…おやつだよ…。 手洗っておいで…。 」

おっという顔をしてちょっとテーブルの方を覗いてから…とことこ洗面所に駆けて行った。

 それから数日経って…仕事が一段落した西沢は…この時期新入学生用の注文受付と発注で忙しいノエルに代わって吾蘭だけでなく来人も一緒に看ていた。

 お昼寝の時間…いつものように居間でふたりを寝かせていたが…仕事明けということもあって…ついうっかり西沢の方が先にうとうとしてしまった。

 何かが動く気配ではっと目が覚めた時…西沢の目にとんでもない光景が飛び込んできた。

 吾蘭が座ったまま後退りして…お尻で来人を押している…。
少しずつ少しずつ…来人は西沢の傍から離れ…だんだん廊下の方へ…玄関の方へと押しやられていく。

 西沢は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
上がり框のところまで行くと…吾蘭は玄関の方へお尻を向けて来人の身体を押し出した。

 ごろんっと来人は落っこちた。 並べた靴がふんわり受けた。
この前は泣かなかったが…今度は寝起きなのでびっくりしたらしく大声で泣き出した。

 西沢は吾蘭を現行犯逮捕…。
来人を拾い上げ…脇へ寝かせていい子いい子してから吾蘭に訊ねた。

 「アラン…今…来人に何したの? 」

吾蘭は答えずに俯いた。

 「アラン…ここにごろんしてごらん…。 」 

 西沢が上がり框を指差した。
吾蘭は素直に転がった。   

 「ごろんしたまま…お靴見てごらん…。 」

 さほどの高さではないが吾蘭の眼から見ると靴はかなり下の方にある。
西沢は吾蘭に背を向け…吾蘭が来人にしたようにそっと吾蘭をお尻で押した。

 ごろんっと吾蘭は靴の上に落ちた。
靴に当たったところが少し痛かった…実際の痛みよりもずっと痛く感じた。

 「アラン…どう…面白かった? 」

 吾蘭は俯いた。 面白くなんかない…。 怖かったし…痛かった…。
まだ二歳にもならない吾蘭では…言葉にはならなかったが…。

 「もっとやって欲しいと思った? 」

吾蘭は俯いたまま首を横に振った。

 「アラン…アランがやって欲しくないことは…クルトも嫌なんだよ。
クルトはアランより小さいし自分で起きられない。
 だから…もっと怖くて…もっと痛いんだよ…。
怪我して…血がでたり…骨を折ったりすることだってある…。
落っことしたりするのは…とっても危ないことなんだ。

アランは痛いのが好きかい…? 」

嫌々をして西沢を見た。

 「アランが嫌だと思うことは…クルトや他の人にしてはいけない。 
もし…アランが面白いと思ってもクルトや他の人には怖いだけかもしれないんだから…人が嫌がることはやっちゃいけないんだよ。

分かったかい…? 」

うんうんと頷いた。

 「よし…いい子だ…。 上がっておいで…。 」

 西沢が手を伸ばすと吾蘭も抱っこの手を伸ばした。
西沢はひょいと吾蘭を抱き上げて頬ずりした。
吾蘭はくすぐったそうに肩を竦めながらも嬉しそうに笑った。

もう片方の手で来人を抱えあげて西沢は居間に戻った。

 吾蘭は何事も無かったかのようにコルクの積み木で遊び始めた。
すぐ傍で来人がタオル生地のぬいぐるみを齧りだした。

 西沢は雑記用のスケッチブックにその様子をデッサンしていたが…やがて大きな溜息をついて手を休めた。

 ただの遊びか悪戯であって欲しい…。
そう願った。

 まだ…それほど言葉を話せない吾蘭に理由を問うても無駄なだけ…。
どれほどの考えもなく…やっていることかもしれないし…。

 アランはまだ赤ちゃんなんだ…。
赤ちゃんが敵を排除しようなどと考えるわけがない…。

 焼きもちかもしれない…そう…クルトに焼きもちをやいたんだろう…。
それなら…ライバルの排除を考えることも有り得るかも…。
よくあることだ…。

敵対するプログラムのせいだ…とは出来るだけ考えたくなかった。

どうか…ふたりが意味もなく相争うことのないように…。
西沢は天に祈るような気持ちで子どもたちを見つめていた…。


 







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