徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第六十七話 僕の女…。)

2006-09-01 10:30:40 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 ノエルも今度ばかりは行動が早かった。
ぐずぐずしていたらいつ西沢の気が変わるかもしれない…。
西沢の言葉を信用していないわけじゃないけど…また…ノエルの本当の幸せを考えたら…なんて言い出しかねないから…。

 翌日にはカンナ本人に…ノエルの知らないうちにもうひとり子どもができていたことを告げた。
勿論…自分が産むとは言わなかったが…責任があるからやっぱり前の人と別れられないなどと尤もらしい理由をつけて付き合いを解消した。

 カンナは残念そうだったけど…男の責任と言う言葉に納得してくれた。
ご免な…カンナ…ホントは母の責任なんだけどね…。

 言い訳するようだけど…カンナとはまだそこまで行ってないから…つうか…今となっちゃ行かなかったのがラッキーだった。
でも…気持ち傷つけちゃたのは事実だもん…ほんとご免な…。

 「父さん…悪いんだけどさ…実は…あの話…断っちゃった…。
話持ってきてくれたおばちゃんに謝っといてよ…。 」

出勤するや否や…智哉にも先制攻撃…。

ええっ…もったいねぇなぁ…いい子なのに…と智哉。
気に入らんかったか…あの子…?

 「じゃなくて…できちゃったんだ…ふたりめ…。 
カンナと付き合ってからは…紫苑さんとは…ずっとなかったんだけどさ…その前にできてたみたいで…。 」

 おおっ…! そりゃおまえ…なんだ…その…?
驚きのあまり…しどろもどろ…。

 「先生も紫苑さんも…カンナと付き合うなら早く始末した方がいいって言ってくれたんだけど…そんなの可哀想で…できないし…。 
だって…紫苑さんの赤ちゃん…なんだもん…紫苑さんの…。 」

 何だか分からないけど…わけもなく…やたら泣けてきた…。
この親父の前で泣くなんて…ありえんし…。

 「ノエル…わかっとる…ようわかっとる。 
紫苑さんの大事な赤ちゃんだからな…そりゃ切なかろうが…。
 泣かんでいい…泣かんでいいぞ…。
俺が紫苑さんにちゃんとお願いしてやるから…な。 」

 何をだよ…。
まるで失意の娘を気遣う父親のよう…薄っ気味悪いぞ…親父…って泣いてる俺自身が気味悪い…どうなってんの…?
しっかりしろよ…俺!



 いつもと違う自分に戸惑ったノエルは内緒で滝川に訊いてみた。
何かやたら涙脆くなって困ってるんだけど…と。
 
 「ああ…それは妊娠のせいでホルモンのバランスが崩れたんだな…。
妊娠初期にはよくあることさ…心配ない。
紫苑にいい子いい子して貰えばすぐに治るぜ…。 」

 滝川はそう言って笑った。
ノエルがお母さんを続けることに決めたので滝川はいつにも増して機嫌がいい。
そ…紫苑が幸せなら文句はないんだ…。

 笑い事じゃないのは西沢…少し気になることがある。
吾蘭が時々じっとノエルの御腹辺りを見ている。
それも赤ん坊とは思えない妙な視線を向けている。

生まれて七ヶ月弱…そんな時期に親の妊娠なんて分かるわけもなく…ノエルの御腹はまだ全然変わっていない…。

 さすがの西沢も赤ん坊や胎児の意識までは完全には読み取ることができない。
ここはやはりお義父さんにご登場願うか…。

う~気が重い…約束破っちまったしなぁ…。



 次の定休日…何やら山のように手土産を抱えて智哉はマンションに飛んできた。
西沢が…自分の不始末で約束どおりにノエルを手放せなくなって申し訳ない…と頭を下げると智哉はかえって恐縮した。

 「申しわけないのはこっちだよ…西沢さん。
俺が要らんことに縁談なんか持ち込んだものだから…かえってきみにつらい思いさせちまって悪かった。 
 アランも居るのに…分別のないことだった…。
堪忍してくださいよ…。 」

 俺も…もう…男だ女だには拘らねぇ…。
ノエルが幸せなら親父になろうとお袋になろうとどっちでもいいんだ…。
生まれてくるのは可愛い孫だし…な。

智哉はアランの方に眼をやった。
アランはみんなが相手をしてくれないので傍にいた滝川の方に手を伸ばした。
まるで抱けと言うようにウ~ウ~と声をあげた。

実は…さ…。 そのこと…なんだけど…。 

ノエルが少し躊躇いがちに西沢と智哉を代わる代わる見ながら言った。

 「この子と同じ頃に…もうひとり産まれるんだよね…。
今朝…連絡があったばかりなんだけど…輝さんが…できちゃったって…。 」

できちゃった…って…?
西沢と智哉の怪訝そうな視線がぶつかった。

えぇぇ~っ! できちゃったぁ~?

ぷっ…とアランを抱いてあやしていた滝川が噴き出した。

だって…約束したんだ…アランが無事生まれたら…輝さんに協力するって…。

 「あほか! おまえは…なんちゅう考えの無いことを…。 
片っ方じゃお母さんでもう片っ方じゃお父さんなんて…ややこしいことすな! 
このお調子もんが! 」

申しわけねぇ…西沢さん…。 智哉が困り果てたように項垂れた。

 あ…いや…別に…と引きつった笑顔で西沢は答えた。
輝のやつ…やってくれたな…。
お返しよ…紫苑…と意地悪くにんまりと笑う輝の声が聞こえたような気がした。

 「まあ…そのことは置いといて…。
実は…お義父さん…。 アランのことなんですが…どうも様子が妙なんです。
 しきりにノエルの御腹の方を見つめるんですよ。
僕には赤ん坊や胎児の意識をはっきり読むことができないので…お義父さんにお願いしようと思いまして…。 」

ふうん…前に調べたアランはともかく…御腹の子の方を調べてみようか…。

 智哉はノエルにソファに寝転がるように言った。
ノエルの御腹の子宮の辺りに眼を向け胎内の様子を調べた。

 おお…居た居た…可愛いおちびさん…。
お祖父ちゃんがちょっとねんねの邪魔をするよ。

丁寧にゆっくりと…智哉は胎児の意識を探っていった。 

 「西沢さん…これは…ちょっと厄介なことになるかも分からん。
こっちの子は…ワクチンの完全体…の可能性がある。
オリジナル完全体のアランは幼いなりにそれを感じ取っているのかも知れん…。」

兄弟で…敵同士だと…?

敵と見做すかどうかはまだ分からんが…。

 まさか…HISTORIANがノエルに細工したせいじゃないだろうな…?
あの時…アランはすでに胎児になっていたから影響を受けなかったが…この子はその後でできた子だから…。

 滝川の腕の中のアランに眼を向けた…。
何を思っているのかは謎だが…じっとノエルの御腹を見ている。
西沢たちは背筋に冷たいものを感じた。



 結局…どうしたかったんだ…きみは…?
西沢は胸の内で輝に問うた。
 僕とは結婚も出産も拒否したくせに…他の男の子供を産む…。
僕がノエルを選んだ仕返しに…ノエルの子を宿す…。 
 
 「怒ってる…? 」

 ベッドに入ってから身動ぎもせず、ずっと天井を睨みつけている西沢に、恐る恐るノエルが訊ねた。 
別に…と投げやりな答えが戻ってきた。

 「輝さん…本当は紫苑さんの赤ちゃんが欲しかったんだ…。
けど…家同士の複雑な事情があってそれはできないからって…。 」

 それも…確かにあったさ…。
けど…どうにかして乗り越えられないほどのものでもなかった…。
…そう思ってたのは僕だけか…。
 止めよう…今更考えてどうなる話でもない…。
もう…終わったことだ…。

 隣に横たわっているノエルの身体を抱き寄せた。
不安げな眼で西沢を見ている。
 不思議なノエル…絶対産めそうにない身体で…ふたりめの子どもを産む…。
この身体で…輝にひとりめの子を産ませる…。
意地悪な輝…僕の中の嫉妬心に火をつけた。

 愚かな紫苑…ノエルに嫉妬してる…。
男であるノエルの自尊心をギタギタにしてやりたくなる…。
 どう料理してやろうか…?
残酷なほど荒々しい動き…本能的に御腹を庇って逃れようとする…。

 「紫苑さん…。 」

 悲鳴にも聞こえる…。 乱暴な愛撫に怯えた眼を向ける…。
僕は天使じゃない…悪魔にはなれるけど…。
 力ずくで再び抱き寄せる…。
きみは僕のオ・ン・ナ…。 ノエルが一番傷つく言葉…。

 なのに…今のノエルには刺激でしかない…媚薬でさえある…。
紫苑に愛されている…としか思っていないんだろう…。
御腹に赤ちゃんが居るからか…受け取り方が極めて女性的…。

 軟弱な紫苑…だめ…虐め抜けない…。
だって…どうしたって…ノエル…可愛いし…。 
こんな幸せそうな顔されたら…何だって許しちゃうぜ…。
 
 「紫苑さん…? 」

 溜息を吐きながら身体を離した西沢にノエルは問いかけるような視線を向けた。
西沢はそっとノエルの御腹を撫でた。

 「あんまり乱暴なことすると危ないよな…。
大事にしなきゃ…まだ安定期に入ってもいないし…さ。 」

 ノエルは微笑みながら頷いた。 ちょっと残念だけど…なんて思いながら。
西沢から嫉妬されていたなんてつゆ知らず…。

 西沢の心はすでに嫉妬から別の次元へ移っていた。
敵同士かもしれない兄弟…。
 ここのところ奴等が嫌がらせを止めたと思ったら…こういうことか…。
お互いに抑制し合って自滅しろとでも言いたいのか…。

 見てろよ…HISTORIAN…。 
僕の可愛い息子たちに…兄弟で殺し合いなんかさせてたまるか…。
人を育てるのは人…プログラムなんかじゃないってことをお前等に思い知らせてやるからな!





 

  




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