徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第百五話 捻じ曲げられた空間)

2006-12-16 16:48:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 若手のHISTORIANをひとりふたり眠らせて…その能力を封じたところで…丘の中腹辺りからいきなり気の砲弾が飛んできて目の前の家屋を貫いた…。

 仲根も亮もその凄まじさに呆気にとられて串刺しになった家屋を見つめた。
中には住人も居るはずだが…気付いていないのか…声もしない…。

まさか…こんなに派手にぶっ壊れてんのに…気付かないはずねぇだろ…。

 「この町…妙に…静かですよね…。」

亮があたりを見回しながら言った。

 そう…町の中に入ってからかなり時間が経っているのに…HISTORIANと発症者の他には人っ子ひとり見当たらない…。

通りにも車一台走っていない…。
まるで町全体が閉鎖された空間の中に存在するかのようだ…。

 「町全体を封印して…出入りができないようにしているかもしれない…。
おそらく…住人の意識も操作しているんだろう…。 」

 そう言って仲根は住居のひとつを覗き込んだ…。
人が居ないわけじゃないもんなぁ…。

町全体を…そんなことができるんだろうか…と亮は思った。

 「この町の住人たちは…自分の周りで何が起こっているのか…まったく気付いていない…。
気の砲弾が壁をぶち抜いても…ひどい風だ…くらいにしか感じられないんだ…。」

 家は修理すりゃぁ良いとして…人間に当たっちゃったらどうするんだろう…。
そんな不安が亮の頭を掠めた…。



 吾蘭はどんどんボルテージを上げている…。 
北殿や子安さまだけでなく輝にもそれははっきりと感じられた…。
小さな身体の中にどれほどのエナジーが充満しているのかは分からないが…少なくとも並みではない…。

もし…歯止めの効かない力が暴発したら…。

輝の胸を不安が過ぎった。

 「子安さま…クルトとケントを別の部屋に避難させた方がいいのでは…? 」

にこにこと吾蘭の方を見つめている子安さまに向かって輝は訊いた…。

 「そうですねぇ…。 迷うところですね…。
ふたりの姿が見えなくなると…アランがパニックを起こすかもしれませんから…。
そうなってはかえって危険ですし…北殿…どういたしましょうか…? 」

輝の問いには直接答えず…子安さまは北殿に伺いをたてた。

 「心配なら…輝さん…ケントだけ連れて母屋の方で様子を見てたらいいわよ…。
アランとクルトについては…これから先のこともあるから…行動を観察しておく必要があるの…。 」

 ケントには用はないから…とはっきり言われたような気がした…。
用はないかもしれないけど…自分の子供だけ連れて避難するわけにもいかない…。
輝は途方に暮れた…。


 
 西沢の表面からは姿を消したとは言え…魔物…もとい…滅のエナジーは依然…西沢の中に居るに違いない…。

だけど…なぜ…紫苑の中なんだ…?

 眼の前で繰り広げられる少年と西沢のぶつかり合い…というよりは少年の一方的な攻撃を何ほどのことでもなくかわしていく西沢…を見ながら滝川は考えた…。

あの時か…!

 ノエルが西沢の生命エナジーの基盤を産んだ際に…太極は確かに自分の一部を西沢の中に埋め込んだ…。
勿論…人間はもともと太極の一部ではあるが…普通の人間には備わっていない何かを西沢の基盤と融合させたのではあるまいか…。

紫苑が媒介のノエルを通さず…直接…太極やエナジーたちと話ができるようになったのはそのせいかも知れない…。

 突如…それまで控えていた老人が動き出した。
場数を踏んでいない少年のぎごちない戦いように業を煮やしたようだ…。

 百戦錬磨のこの老人はさすがに少年とはひと味もふた味も違う…。
動きの鈍い少年や仲間に的確な指示を与えながら…自らも戦い…まるで若者のような身軽さを見せる…。
先程まで静かに控えていたのが嘘のよう…。

 「魔物がこの男の中に居るのなら…それはそれで面白い…。
おおいに暴れて貰おうじゃないか…。
奴が人間の中に居る限りは…封じられないものでもない…。 」

 老人が動き出すとHISTORIANは見違えるように統制の取れた戦いっぷりを見せるようになった。
しかも…老人という後ろ楯のある安心感からか…それぞれの力がだんだん増してきたようにも思われる…。
お蔭で…滝川もぼけっと西沢だけを見ているわけにはいかなくなった。

 「あの子と…おじいちゃんと…どちらが上なんだろう…。 」

ノエルがそんなことを呟いた…。

 「じいさんだな…。 力から言っても上だ…。 
ただ…じいさんはトップというわけではないみたいだよ…。
大物には間違いないけれど…。
本物のトップはここに現れていないんじゃないかな…。 」

金井がそう答えた…。

 ふたりの会話が聞こえたのか…少年はいきなりふたりに気の砲弾を浴びせた。
すんでのところでふたりは直撃を逃れたが…煽りで吹っ飛んだ…。

 「あっちゃ~っ! 油断したぁ…。 金井さん…大丈夫? 」

ノエルは腰を擦りながら立ち上がった…。

 「大丈夫だよ…。 パワーだけはあるな…あいつ…。 」

金井も他の連中の攻撃を遮りながら少年に眼を向けた。
少年はまだふたりを睨みつけていた…。


 「冷静になれ…。 おまえは最高指導者だ…。
そう感情的になるでない…。 見苦しい…。 」

老人はそんなふうに…少年を諌めた…。

 「だって…こいつら…僕を馬鹿にしてるんだ…。 」

少年は怒りを抑え難いように老人に食って掛かった…。
やれやれ…もう少し大人になっているかと思ったが…老人は溜息をついた。

 「おまえが要らざる手紙を添えなければ…西沢もここまで深く首を突っ込むこともなかったのだ…。 
この男…妙に好奇心が強いから…あれに惹かれて動き出したようなものだ…。 」

腹立たしげに老人は言った。

 「僕は生まれてからずっとあの話を聞かされて育ったんだ…。 
正しい行いをしているのだから…事実を話すのが当たり前じゃないか…。 」

少年は不服そうに口を尖らせた…。

 そうか…三宅が持ってきた手紙…あれは翻訳じゃなかったんだ。
英文とかなりずれがあったんで…ひどく分かりにくいとは思ったんだが…どおりで…な…。

納得したように滝川はひとり頷いた…。

 「坊や…いい加減…目ぇ覚ました方がいいぞ…。
HISTORIANがしていることは決して正しいことなんかじゃないぜ…。 」

老人に叱られてふくれっ面をしている少年に…滝川はそう呼びかけた。
何だって…と少年は怒りに眉を吊り上げた…。

 「僕等は命懸けで世界中の人たちを護ってやっているんだ…。
理想的な国家を築いて…滅びに向かいつつある人々を救うことが…どうして正しくないんだ…? 」

そう言い返した…。

 「誰が…HISTORIANに護ってくれと頼んだんだ…?
おまえたちに護って貰わなくても…この国の能力者たちが何とでもするさ…。
余計なお世話だよ…。

 勝手にひとの国に入り込んでおいて…英雄気取りは止めてくれ…。
無関係な人を犠牲にして…抵抗する邪魔者も消して…政府に取り入って…この国を思いのままに動かそうなんざ…侵略以外の何ものでもない…。
何処が正しいよ…? 」

滝川は少年にそう問いかけた…。

黙れ!

少年は苛々した面持ちで滝川を見た。

西沢の翼が再び大きく羽ばたいた…。
瞳が完全に少年を捉えている…。 獲物を狙っている眼だ…。

 「坊や…悪いことは言わない…。 仲間を連れて自分の故郷へ帰れ…。
紫苑が本気を出す前に…立ち去れ…。 」

 その忠告には答えず…少年は合図を送った…。
それまで金井とノエルを攻撃をしていたHISTORIANが滝川目掛け…集中攻撃を開始した…。

やれやれ…面倒な…。

 滝川が悠長にもそんなことを思った瞬間…滝川を攻撃していた者たちが四方八方に投げ出され…地面に叩きつけられた。
何が起こったか分からないくらいのスピードで…。

 「紫苑…よせ…。 僕のことは気にするな…。 」

滝川がそう言うと…西沢はチラッと滝川の方に目を向けた…。
が…またすぐに少年の方に向き直った。

 「よく考えろ…坊や…。 
これまで幾度となく同じ過ちを繰り返してきたではないか…。
そのたびに世界は滅んだ…。 無関係な者まで巻き添えにして…。 」

喧しい!

滝川の窘める言葉が終わるか終わらないかのうちに…少年ではなく…老人の方が滝川目掛けてショットガンのように気を炸裂させた…。

 滝川自身は難なくそれを避けたものの…半ば壊れかけていた西沢の理性を見事に吹っ飛ばした…。

お伽さまを攻撃したばかりでなく…恭介にまで牙を剥くか…!

 「世界が滅んだのは我々のせいではない…。 すべて…この男の中に潜む魔物のせいだ…。
我々HISTORIANは常に世の中に貢献してきた…。 危険と犠牲を顧みず他国や他民族のために戦ってきた…。 

 我々がこの世界を治めることによって…すべての人々が幸せになれる…。
アカシックレコードの知恵で…世界に平和を齎すことができるのだ…。 
邪魔をするおまえたちこそが悪だ…。 」

 老人がそう叫んだ…。
まるで少年に考える隙を与えまいとするかのように…。

 突如…轟音とともに…世界が激しく揺れだした…。
地震のように大きく足元がぐらついて…とても立って居られなかった…。
激しい震動のために誰もが地面を転げまわった…。

西沢だけがその場を動くことなく…面白そうに周りを見回していた…。

 ようよう揺れが止まって…身を起こそうとするとめまいのような感覚を覚えた。
身体が平衡感覚を失い…上手く立てなかった…。

 少年も老人も這いつくばった状態で頭を上げてあたりを見た。
滝川や金井…ノエルもそれは同じだった…。

さも可笑しげに魔物の笑みを浮かべながら見下ろしている西沢の周りの景色が…ひどく歪んで見えた…。

 彼等の存在するこの空間が…確かに…歪み…傾いでいた…。
あたかも…無理矢理…捻じ曲げられでもしたかのように…。






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