かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠370(中欧)

2017年12月21日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠51(2012年4月実施)
  【中欧を行く ドナウ川のほとり】『世紀』(2001年刊)P96~
   参加者:N・K、崎尾廣子、鈴木良明、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:渡部慧子
   司会と記録:鹿取未放

370 動脈のごとく貫けるドナウ川の薔薇都市の重き疲れ夕映ゆ

     (レポート)
 「ドナウ川」はドイツ、オーストリア、チェコスロバキア、ハンガリー、セルビア・モンテネグロ、ルーマニア、ブルガリアを流れて、ヨーロッパ東南部をまさしく「動脈のごとく貫ける」川だ。「薔薇都市」とは美しいイメージが立ち上がる。日本の古都は碁盤状だが、エッフェル塔を中心に市街が放射状の薔薇を連想するパリのような都市がドナウ川流域にあると、ここまで想像したのだが調べるにしくはなし。ブダペストを指すと得られた。
 流域とかほとりを省略して「ドナウ川の薔薇都市の」と言葉をつなぐ、二つの「の」が優美だ。そして薔薇の重なる花びらの「重き」と都市の物語の語りつくせないほどの「重き」をかさね合わせ、それは「疲れ」へと言葉に無理のない流れがあり、「夕映ゆ」に「薔薇都市の重き疲れ」は慰撫されてみえたのであろう。(慧子)


      (当日発言)
★「重き疲れ」を出すために上から言葉を使ってきている。(鈴木)
★8、5、6、8、7と韻律がたどたどしていて読みにくい。それが「重き疲れ」 とマッチし
 ているともいえる。「薔薇都市」はそう呼ばれているということだが、「貫ける」「薔薇都市」
 と並べられると、がぜんエロティックな印象を受ける。それもけだるい気分に一役買っている 
 のだろう。(鹿取)


     (まとめ)
 上の句の言葉は硬く8音、5音と韻律を乱ししているが、イメージ的にはエロティックな感じで下の句に繋がっていく。それは漢字表記の薔薇という字に負うところが大きい。そして歌は、そういうイメージを負う都市そのものに疲れを見いだしている。それは華やかな過去を持ちながら疲弊しているブダペストの街の感想であり、ハンガリーの国の姿でもあるのだろう。薔薇都市の名称をつけられた表層は美しい街が、重い疲れごと夕映えている。
 なお、レポーターの書いているチェコスロバキアは1993年から分離独立してチェコとスロバキア二国に別れている。馬場のこの旅行は1999年秋のことなので、正確にはチェコとスロバキアということになる。(鹿取)


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