かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠52(アフリカ)

2017年07月19日 | 短歌一首鑑賞

 馬場あき子の外国詠 ⑥(2008年3月実施)
   【阿弗利加 2 金いろのばつた】『青い夜のことば』(1999年刊)P168
   参加者:KZ・I、KU・I、N・I、崎尾廣子、T・S、Y・S、
       田村広志、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:T・H       司会とまとめ:鹿取 未放


52 アトラス越えの空気は土と林檎の香含めりしんみりとしてなつかしき

      (まとめ)
 同行者の旅日記によると、アトラス山脈は2000~4000メートルくらい、バスで越えたことが分かるがけっこう険しい道もあるらしい。林檎だけだと甘くなるところを、土の香が加わったことで異国の精神的なスケールの大きさがでた。下句はまぎれもない作者のものいいだ。
 ところで、アトラスの命名の元になった神話によると、ゼウスとの闘いに敗れた巨人アトラスは天空を背負わされることになった。のちに英雄ヘラクレスが黄金の林檎を探しに来た時、一時ヘラクレスに担ぐことを肩代わりしてもらい自分の果樹園から林檎をもってくる。そのまま逃げようとするがヘラクレスに騙されてまた天空を担ぐはめになる。だから神話の絵にはアトラスが林檎をもっている場面が描かれることが多い。こういう神話が作られたのも、たぶん大昔からこの辺りが林檎の産地だったからだろう。このアトラスが岩になったのがアトラス山脈だという。(鹿取)


      (レポート)
 アトラス山脈を越えて憧れの沙漠への道。ワルザザートへ。そこは「アラビアのロレンス」の映画のロケ地にもなった土地。どんなところだろう、期待に胸が膨らむ。西の果て「アンテイ・アトラス山脈」越えの道は、案外土と林檎の香りを含んでいる。樹木の多い木々の間を車は走っているのだろう。そこにはあの懐かしい土と林檎の香りがある。あのサハラ砂漠の荒涼とした荒々しさではなく、「含めり」との表現に、しっとりとした柔らかさが感じられる。「しんみりとしてなつかしき」と結句にかけて、みなひらがなで書かれた点に、その感情がよく出ている。山間部を走る車の窓からは、土と林檎の香りがして、この地球の西の果てアフリカでも、日本とかわらない点もあるのだと、作者は日本を懐かしむと同時に、安心している。また沙漠にも親しみを感じている。(T・H)