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著者は「プロジェクトX」を立ち上げた
NHKのプロデューサーである今井彰氏。
ほぼ、今井氏の半生の沿った形で展開する小説です。
三部と最終章という構成になっています。
第一部では、今井氏をモデルとする主人公西悟の
巨大公共放送での下積み時代と次第に頭角を現す様を描きます。
第二部では、「チャレンジX」を立ち上げの苦闘と、
次第に人気番組へと成長する過程で深くなっていく
実力者の会長との交遊関係を描いていきます。
第三部では、一転して、公共放送局で起こる数々の不祥事によって
実力者の会長が失脚。それとともに周囲からの主人公西悟への
風当たりも強くなり、ついには「チャレンジX」自身で起こる
ねつ造疑惑がきっかけで、転落していく様子を描いています。
最終章では、チャレンジXの打ち切りと、
西悟の退職時のトラブルが描かれています。
2000年から2009年あたりまでの
外からは伺い知ることのできなかった
NHKの内部を部分的にせよ垣間見ることができ、
それはそれで面白かったように思います。
ただ、読後感がそれほど爽やかではないのは
結末の「やるせなさ」だけでないでしょう。
著者の半生を描いているだけに
主観的な思い入れがとても激しい印象を持ちました。
ともすれば、鼻につく自慢話のオンパレードになりかねない、
数々の受賞歴や会長との交遊歴、番組への自負心。
一方で、周囲へのあまりにも激しい批判と攻撃が
かえって偏った見方なのではないかと
読者に思わせてしまうアンバランスな表現。
やや客観性が欠けるので
内幕小説としての信頼性を損なっているように思います。
確かに一方的一面的に書けば、わかりやすく面白いですが
内容が薄っぺらくなってしまいがちです。
本書はみごとにその落とし穴にはまっています。
物事には二面性があり、光と影があるはず。
あまりに偏った一面的な見方は
読者の共感を呼びにくいと思います。
もっと客観的にNHKの問題点を
あぶりだすような描き方があったはずですが、
人間同士、特に男の醜い嫉妬によって陥れられた
一人の有能な人間の物語というような展開をしてしまっています。
それではありふれた小説になってしまいます。
しかもそこに主観的な思い入れが入り込んでしまっているので、
読者が感情移入しずらい。
仕事はできるけど職場の困ったちゃん西悟の独善性が
目につきすぎてしまいます。
また、
基本的には、西悟の視点がこの小説の基軸なのですが、
所々で第三者の視点が混じったりする視点のブレが
小説の完成度を著しく落としています。
題材がいいだけにとても惜しいなと思いました。
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