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フランチャイズ開業&読書日記・・・どこまで行くの?

2010年7月からフランチャイズ店の営業開始。サラリーマンを辞めての再スタートになります。

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日暮らし 

2008年11月30日 21時44分55秒 | 書評 小説系
宮部みゆきの時代小説、「日暮らし」。
「ぼんくら」の続編です。

時代小説と歴史小説は似てるようでいてまったく異なったジャンルの創作物です。
大まかに区分すると、
時代小説は、過去の時代背景を借りて物語を創作する小説で
他方、歴史小説は、歴史上の人物や事件の史実に沿った小説と
分けることができます。
うまい作家にかかればまたそれぞれに格別の味わいがあります。

宮部みゆきはいろんなジャンルに挑戦して、
それぞれのジャンルで人並み以上の成功を収めている
稀有な作家であるように思います。

「ぼんくら」、「日暮らし」は江戸時代の背景を借りた
ミステリー小説で江戸時代の風俗になじみながら、
なぞ解きを楽しむことができます。

小説の視点は一貫してぼんくら同心井筒平四郎のものですが、
なぞ解きは甥っ子の弓之助がするというものです。

日暮らし(上)講談社文庫


上巻では、短編小説が4本続きますが、
これが中巻、下巻に描かれる本編の伏線になっていきます。

日暮らし (中) 講談社文庫


日暮らしの舞台設定は、「ぼんくら」のその後のてんまつ
という形になっていますので「ぼんくら」を読んでおいたほうがいいでしょう。

日暮らし (下) 講談社文庫


ミステリーとしては、「驚きの結末」とまではいかないものの、
小説自体の出来としては、安定感があり
さすが宮部みゆき、読者を裏切らないですね~という感じです。
文章自体がうまいですし、細かな部分への配慮と描写が
秀逸であるように思います。

「その日暮らし」といってしまえば、
毎日毎日無計画で過ごしているようにも聞こえます。

が、しかし
一日一日を大事に大事に過ごす長屋のさまざまな人々の
人間模様を丹念に描くことで、宮部みゆきは読者に「何か」を
伝えたかったのではないでしょうかねぇ。

世知辛い世の中ですが、
宮部みゆきを読んで一服してみるのも
いいかもしれませんよ!

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ラッシュライフ 伊坂幸太郎著

2008年10月27日 11時10分49秒 | 書評 小説系
最近、伊坂幸太郎にはまっています。
今回読んだのは、デビュー2作目のラッシュライフ



5つの物語が、並行して進んでいきますが、
最後には、すべての物語が一つにつながることになります。

「ゴールデンスランバー」の伏線の置き方に驚きましたが、
原点はここにあったのですね。

ラッシュライフも、1回目読み終わってから、
再度読み直すと、最初から伏線が敷かれていたことが
わかります。このような小説技法がミステリ風で
読者をぐいぐいと物語に惹き付けていく魅力の一つに
なっている気がします。

5つの物語のうち、個人的には失業者豊田と老犬の姿を描く物語が
一番好きですね。僕にとってはもっとも納得いく価値観です。


今更ながらですけど、
世の中には様々な価値観があふれていて、
同じ事実対する評価でも、両極端な価値観に出会うと
「そんな考え方もあるんだね~」と
びっくりすることもあります。

普遍的な価値観というのも多くあると思いますが、
現代のように不確実な世の中では
評価の定まっていない価値観も
一方では多くあります。

実際には多様な価値観の一つでしかないのに
普遍的な価値観のように話をされたり
押しつけられたりすると、
「イラッ」とくることはありますね。
「それはご自分独自の価値観でしょうに
と思うことはよくあります。


ただ、こういう風に思ってしまうのも
僕にも独自の価値観があるっていう
ことなんでしょうね。
世の中みんなが納得する普遍的な価値観と
自分独自の価値観との区別をきちんと認識し、
それを混同してしまうような愚かな真似は
極力避けたいと思います。

かといって、自分の価値観を主張しないと
いうわけではありませんが・・・。

ラッシュライフのことを書こうと思っていましたが
ちょっと脱線してしまいました。

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モダンタイムス  伊坂幸太郎著 

2008年10月24日 00時11分18秒 | 書評 小説系
伊坂幸太郎の最新刊、2005年の「魔王」の続編との触れ込みで
出版された「モダンタイムス」を読みました。



「魔王」を読んでいれば、安藤潤也・詩織夫妻や犬養舜二のその後が
書かれているので、それなりに楽しめるのかもしれませんが、
「魔王」を読んでいなくても、この本単独で十分楽しめます。


伊坂さんは、
創造の賜物のような小説を書くように感じていましたが、
本書は、比較的整合性を意識した内容になっているような
印象を持ちました。

主人公の渡辺拓海が、
妻から派遣された岡本猛に
浮気を白状するよう迫られ、
拷問を受けるところから物語は始まります。


中学校での殺戮事件の話の流れと
拓海の会社の先輩が失踪し、
引き継いだ仕事で起こるトラブルの話の流れが
いつの間にか重なり合って、
驚愕の事実が明らかにされます。


超能力を扱っている場面は
荒唐無稽に感じるかもしれませんが
物語の前面に出てきているわけではなく、
ストーリーのスパイスになっています。

物語の底流に流れるテーマは、
監視社会のシステムと国家のあり方です。

表題の「モダンタイムス」は
チャップリンの映画で、
産業革命により工場が機械化され
人間の尊厳が失われる姿を描いた作品から
引いているようです。

今のネット社会、
特にグーグルをはじめとする検索社会で
人間が大きな社会システムの中に組み込まれ、
一部分化する様を、伊坂幸太郎独特のストーリー展開で
考えさせます。


伊坂さん自身は、社会を風刺するつもりは
全くないとは思いますが、
「真相は後からつくられる」とか
「物事は別の角度からみると違ったように見える」とか
今の社会に置き換えて考えさせられる場面は多くあります。


キャラクターの面白さや、スト―リーの展開のはやさなど
小説自体を純粋に楽しむつくりになっていると思います。


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オーデュボンの祈り 伊坂幸太郎著 新潮文庫

2008年10月18日 02時59分33秒 | 書評 小説系
「ゴールデン・スランバー」の舞台も仙台でしたが、
この、伊坂幸太郎のデビュー作である
「オーデュボンの祈り」も仙台の近くにある孤島が
舞台です。

なんで、仙台?
と思っていたら、
伊坂幸太郎さんは、東北大学法学部の出身なのですね。

仙台には、20代のころ
青春18きっぷを使って、
のんびり旅した記憶があります。


伊坂幸太郎の小説は、本当に小説らしい小説で、
創造の産物といえそうな小説ですよね。
リアリティに欠けるといえばそれまでなのですが、
リアリティを追求するビジネス小説や推理小説などと
比べると、作者の創造性がより発揮されそうなジャンルです。

でも、本書は新潮ミステリー倶楽部賞を
受賞しているんです。
手法は推理小説の手法を使っていて、
なぜ「カカシ」が殺されたのか、その謎をめぐって
主人公が孤島の中で調査することになります。


「カカシ」は「殺された」ではなく「壊された」
だろって思うかもしれませんが、
このカカシは人間のようにしゃべるんです。


そのカカシが殺されたのはなぜなのか?


村上春樹の作風と似ているように感じて、
アマゾンの書評を見ていたら
同じように書いている人がいたので、
やっぱりそう感じる人もいるのですね。

どちらかというと、
春樹より、龍の方が好きなので
正直、最初は退屈でした。

ところが、中盤より手前ぐらいから
どんどん面白くなっていくのです。

オーデュボンの祈り 伊坂幸太郎著




最後は島の美しい情景が頭にイメージできる
ような形で読み終えることができ、
読後感はよかったです。

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ちょっと、現実逃避

2008年10月10日 02時56分54秒 | 書評 小説系
一時期、はまってた夢枕獏著、陰陽師。
平安時代の安倍晴明とその親友、源博雅が活躍する伝奇小説です。

文庫版の最新刊が「滝夜叉姫」上





わずらわしい現実から
少し逃避するために
読んでいるので、
荒唐無稽ですが、
純粋にエンターテイメント作品として
楽しめました。


平将門の乱から20年たった都で
次々と起こる怪奇現象の謎を探るうちに
その因果がすべて平将門に結びつくことを
発見した安倍晴明と源博雅の二人。
さまざまな事件を辿っていくうちに
明らかなになった事実とは?
というようなストーリーです。

伝奇小説ですが、長い長い伏線の後
最後の種明かしが推理小説を読んでいるようで
おもしろかったです。



本書の空白部分がいいという人もいますが
僕はどっちかというと文字がぎっしり書かれてある方が
好きなので、その部分だけはなんだか馴染めませんなぁ。


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魔王 伊坂幸太郎 講談社文庫

2008年09月23日 11時41分52秒 | 書評 小説系
優れた小説ってどういう小説をいうのだろう?

魔王 伊坂幸太郎 講談社文庫




どちらかというと推理小説が好きな僕は、
この次どう展開されるのか、
「犯人」がわかるというような謎解きを
普通の小説にも求めてしまいます。

もちろん、
普通の小説には犯罪が出てこないので、
犯人もいないわけですが、
小説の冒頭で提起されたさまざまな謎が
小説の結末に行くにしたがって
次々と明かされていくというのも、
推理小説的手法だと思うのです。

読み始めの段階で浮かんできたさまざまな疑問が
読み進めていくうちに解き明かされ、
なるほど~と思うところに小説を読む
醍醐味があって、読む爽快感を得られるように思うのです。


確かに、
難解な謎をかければかけるほど
それを解き明かす知恵が作家には要求されますが、
読者が納得するようなストーリーであれば、
その分傑作として評価される可能性も高いように思います。


「謎解き」を読者に任せるような手法は
文学作品としては価値が高いのかもしれませんが、
不完全燃焼のようなもどかしさだけが読者に残って、
読後の爽快感、良質な推理小説を読んだ後のようなすっきり感が
得られないように思います。


「魔王」には、いくつかの謎があって、

なぜ、安藤に特殊な能力が備わったのか?
なぜ、特殊な能力を使うと安藤の体調が悪くなるのか?
犬養はどこまで知っているのか?
ドゥーチェのマスターの登場が唐突で、
マスターにも特殊なの力があるのかないのか?

読んでいる際に生じた疑問が
最後まで曖昧で、安藤がなぜ死んだのかその理由は
結局わからずじまいです。


微妙な描写からそれらを推測せよということ
なのかもしれませんが、読んでいくうちに湧いてきた
疑問が、読み進むうちに解き明かされるであろうと思う期待に
結局答えておらず、この作品は評価が分かれると思います。


もっとも、
小説のテーマ自体には共感する部分もあります。

主人公の安藤が、犬養の政治姿勢やそれを熱狂的に
支持する国民の雰囲気に危惧感を感じたように、
現実を振り返ってみると、
小泉内閣が登場したときの熱狂感や
大阪府でいえば、橋下府政には
同じような「危うさ」を感じます。

大きな流れに主体性なく流されるのでなく、
少し立ち止まって冷静に考えてみる、
そういう思考のあり方もあっていいと
思います。

安藤の超能力のように
物はよく考えているかもしれないが、
自分で言う勇気はなく、
人に言わせてるっていうところが
小市民的発想でかえって共感を呼ぶのかも
しれませんが。

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組織再生 江上剛著 PHP文庫

2008年07月13日 15時15分58秒 | 書評 小説系
「新生銀行」をモデルにした経済小説です。

組織再生 江上剛著 PHP文庫




新生銀行の前身である日本長期信用銀行は、
98年10月に破たんし特別公的管理下におかれ
一時国有化されました。

一連の破たん劇の経過の間には
上原隆元副頭取、福田一憲大阪支店長の2人が
相次いで自殺しています。

その後、長銀は
リップルウッド・ホールディングス(現RHJインターナショナル)
などからなるニューLTCBパートナーズに譲渡され、
2000年6月に「新生銀行」に改称しました。

本書は
2000年に新生銀行の社長に就任した八城政基氏を中心として
新生銀行の現場で働く従業員の葛藤を描いた作品です。
当時批判の強かった瑕疵担保条項の行使の裏側についても
描かれています。

バブル崩壊後、経済界とくに金融界が混乱していた
いわゆる「失われた10年」に関しては興味があって
多くの著作物を読み漁った記憶があります。

当時の様子を知りうる代表的な著作物をあげると

「検証 経済失政」 西野智彦・軽部謙介著 岩波書店
「検証 経済迷走」 西野智彦著  岩波書店
「検証 経済暗雲」 西野智彦著  岩波書店
「崩壊連鎖 長銀・日債銀粉飾決算事件」 
       共同通信社社会部編 共同通信社
「セイビング・ザ・サン」 
  ~リップルウッドと新生銀行の誕生 
       ジリアン・テット著 日本経済新聞社 
「拓銀はなぜ消滅したか」 北海道新聞社著
「滅びの遺伝子」 山一証券興亡100年史 鈴木隆
「レクイエム」 伯野卓彦著 NHK出版

固い職業の代表である銀行マンの周りに
怪しげな人物たちがうごめき
なにゆえあれほどまでに金融界が迷走・混乱してしまったのか
外からはうかがい知れなかった内部の事情が
これらの著作物を読むことで
よくわかります。

とくに、長銀や日債銀が破たんに至った経緯に関しては
不可解な点が多く、自殺者も出して、一体何が起こっていたのか

当時の状況に関して多くの著作物が発行されているのは
そのことを知りたいあるいは知る必要があると思う人が
多くいるからなのではないでしょうか?


現在の金融界は当時の混乱と模索の結果であるようには
思いますが、当時の反省がきちんと活かされているのか
疑問に思うことは多いです。


もっとも、
本書はそういった事件の大きな流れとは別に
渦中の現場において日々の業務に直面し
新しい銀行を模索していた新生銀行のスタッフの様子を
前向きにとらえた小説です。

著者は実際に多くの新生銀行関係者に取材しており、
小説とは言いながら現実感のあるストーリー展開になっています。

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ゴールデンスランバー 伊坂幸太郎著 新潮社

2008年06月09日 10時46分13秒 | 書評 小説系
あちこちのブログで絶賛されていた本書。
時間があれば、読みたい、読みたいと思っていました。
そして、ついに読み終えることができました。

ゴールデンスランバー 伊坂幸太郎著 新潮社



2008年本屋大賞受賞作です。

物語の展開としては荒唐無稽だし
作者もこの物語はあくまでも作り話で
読んだ方が真に受けないで下さればいいな
と書いてあるとおり
リアルな話ではありません。

細かなリアリティがあればもっと楽しめたかもと
思う読者がいてもおかしくはありません。





おこがましいかもしれませんが
創作の物語作品としては
秀逸です。


いろんな書評で指摘されているとおり
大なり小なりの伏線の起き方と
物語の展開が違和感なくつながる点が
見事です。

第5部まで読んで、ふたたび第3部に戻ったとき
なるほど~と腑に落ちました。


ただ、まだ分かっていない謎解きもあります。

最後に第5部に登場する「鎌田昌太」っていったい誰なんでしょう?

順当に考えれば「稲井」にあたるのでしょうか。
あるいは「鎌田昌太」が「稲井」に部屋を貸した?
「稲井」はやはり「いない」人?

でも
第4部では青柳が隠れていたのは稲井の「マンション」とあり
第5部では「アパート」と書かれているので
何か意味があるのかなと思ったり。


要するに、
空き家になっていたのも青柳を嵌める計画のうちだった
ということをいいたいのでしょうか?


う~む

どなたか謎解きをしていただけるとありがたいです。


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非情人事 江上剛著 文春文庫

2008年05月23日 09時35分42秒 | 書評 小説系
江上剛著「非情人事」は、 人事を巡る5編の短編集です。

短編集はいつも尻切れトンボのような読後感があるので、
星新一以外はあまり評価しませんが、
本書は結構面白かったです。

人事を巡る日常的な会社の風景を切り取っているので、
短編ぐらいの長さがちょうどよいのかもしれません。


登場人物たちは、スーパースターではなく、
人事に翻弄される微妙な心の動きをリアルに描かれています。

人事に翻弄されながらも、
それぞれの主人公が自分なりに意地を
貫き通している点が
共感を覚えます。

会話がリアルで、日常会話としてあり得そうだなあ
と思えるところが物語に引き込まれます。

題材は、それぞれ

「五分の魂」  通信業界
「引き際」 信用金庫業界
「非情人事」  飲食業界
「追い落とし」 銀行業界
「悪い奴ら」 ヤミ金業界

です。

自分が所属したことのない業界の裏事情も
垣間見え、興味をひかれました。

あまり肩の凝ることのない物語で、
ちょっとした息抜きにおすすめです。

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東京 上・下 楡周平著 講談社

2008年04月17日 01時38分12秒 | 書評 小説系
最後まで読ませる力はさすがだと思いました。
展開自体は確かに劇的なので、
途中飽きることなく最後まで読み進めることができました。

面白くない小説は途中で読むのをあきらめるので、
そういう意味では、面白い小説なのだろうと思います。
最高権力に向けた、それぞれの飽くなき執着を余すところなく描いています。

安田講堂攻防当時の物語の展開は、
つかこうへいの「飛龍伝―神林美智子の生涯」を彷彿とさせますが、
崇や尚子、宣子のやりとりは昼のメロドラマみたいな印象を受けました。

傲岸不遜で、自己中心的だが容姿端麗かつ有能とされる崇の
ステレオタイプなエリート像は、やや陳腐です。

女性陣の方が個性的に描けていたように思います。

眞一郎や三奈の変容は、70年安保世代に対する痛烈な皮肉なのかもしれません。

もっとも、あの結末はいただけません。
どういう結末に終わるのか期待していましたが、
結末には拍子ぬけしました。
読者の想像にゆだねるような終わり方は、
エンターテイメントの作家としてはどうかなあと思います。

帯には衝撃の結末と書いていますが、
中途半端な終わり方ではないでしょうか。

望むような未来が決して約束されているわけではないことを
予感させるだけでは、読み手に不完全燃焼を与えるのでは?

読後感がこの作品の全体の評価を決めてしまうことになりそうです。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東京 

 


 
最近読んだ楡周平作品の中では「再生巨流」の方が面白かったように思います。


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「空飛ぶタイヤ」 池井戸 潤著(実業之日本社)

2008年03月26日 01時06分36秒 | 書評 小説系
もう1本書評を。

本書は三菱自動車のリコール隠し事件をモチーフにした作品です。

主人公を欠陥自動車による事故の直接の被害者ではなく、
欠陥自動車を使用していた運送会社の社長にした点が秀逸です。
そうすることで、対自動車会社との関係、対被害者との関係、
対取引会社との関係、対取引銀行との関係を一つの立場から
一貫して描くことに成功しています。


企業社会の醜悪さは、物語の面白さを盛り上げるために
多少デフォルメされているのかもしれませんが、
登場人物達の立ち回りはありそうでなさそう、なさそうでありそう
といった感じでリアリティを感じさせます。

結末に至るまでの、主人公を執拗に襲う数々の困難と理不尽さが、
主人公の立場への同情と共感を誘い、
予想された結末であっても、
納得し安堵感を得ることができました。。

欠陥自動車を放置するのみならず、
欠陥自動車と知りながらその欠陥を組織的に隠ぺいする理不尽さや、
社会的地位を有する者が自らの保身に汲々とするあさましさが
見事に描かれていて、最後の逆転劇を際立たせています。

リコール隠し事件に並行して進む、
主人公の息子の学校での事件の展開もいいアクセントになっています。

2段組み489頁の長い物語ですが、
うまいストーリー展開にぐいぐいひっぱられ息もつかせず
読み進めることができました。


救いようのない結末で終わる物語もありだとは思いますが、
本書のように救いのある描き方も読後感がすっきりして、
「読書による心地よい気持ち」を
味わえると思います。


池井戸 潤には、ほかに江戸川乱歩賞を受賞した
「果つる底なき」ほか数々の小説がありますが、
個人的には本書が最も好きな作品です。
その他に「オレたちバブル入行組」(文芸春秋)もお勧めです。

空飛ぶタイヤ



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「我、 弁明せず。」 江上剛著(PHP出版)

2008年03月25日 00時57分03秒 | 書評 小説系
今回は、読んだ本の書評を。

最近読んだ本は「我、弁明せず。」 江上 剛著 です。

明治・大正・昭和の激動の時代に金融界の最前線を生き抜いた
池田成彬の人生を描いた作品です。


江上剛は第一勧業銀行(現みずほ銀行)に在職中に「非情銀行」で作家デビューし、
「起死回生」「腐食の王国」など銀行界を中心にした経済小説を多く書いています。
銀行で支店長まで経験し、その後作家に転向しただけあって、銀行の日常を描く筆致には
迫力があり、好きな作家の一人です。


江上作品については前述の作品のほか、「失格社員」も読んでおもしろかったです。


僕は、歴史小説も好きなので、歴史小説と経済小説を合体させたような今回の作品が書店に並べられているのを見て、早速購入しました。


池田成彬については、戦前の三井銀行の実質トップを務めた人、という知識しか
ありませんでした。
三井銀行といえば、戦前三井財閥の中核銀行として経済界をリードしてきたものの、
バブル崩壊直後、太陽神戸銀行と合併し、その後さくら銀行を名乗って、「三井」の名
を捨てたときには、いつまでも「三菱」の名にこだわるもう一つの財閥の雄と比較して、負け組とのレッテルを張られたことも。


その後、財閥の垣根を越えて住友銀行と合併し、ふたたび「三井」の名前を復活させた時には
旧財閥の強かさを感じさせました。


戦前財閥と軍部は癒着していて、そのために戦後財閥はGHQにより解体されたのだという
知識を前提に、読み進んでみると、実際には池田成彬は陸軍から敵視され数々の妨害を
受けており、歴史のものの見方、評価は一通りではないと思いました。


実際、当時の新聞報道は財閥への批判を繰り返していたので、庶民レベルからすると、
財閥憎しという価値観を持つようになると思うのですが、当時財閥の中枢に存在する
人たちから眺めると事実はまた違ったように見えるのです。


成彬と北一輝との交流も江上氏はうまく描いているけれども、
見方を変えれば保身のために情報を収集して命を長らえたとも受け取られかねず、
トップに位置する人の孤独感は大変なものだったでしょう。

今回の江上作品は、戦前・戦中財閥の中枢にいた人の視点から激動の世界を見た場合に
どのように見えるのかという点についても提示してもらえた点で、興味深く読むことができました。


さまざまな批判にさらされながら、「弁明せず」に実行した池田成彬の物語は、
さまざまな状況下で、自らの「信念」に基づいて判断し、難問を解決しなければならない
すべての人に、勇気を与える一冊となることでしょう。
お勧めします。


我、弁明せず。



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