ターコイズカラーの少々派手なヘルメットを頭に押し付けられた。
兄のバイクは無機質なシルバーの塊だ。マシンは熱くなるのに、乗っている間は全く熱を感じない。とは言っても、まだ数える程度しか乗ったことがない。
僕はリュックを背負いなおして、兄の背中にしがみついた。
まったく、来年は中等部の生徒だろ。いつまでも甘えるな。
昨日は新学期の準備をしていたんだ。だから、
だからじゃない。言い訳なんてするな。毎年毎年、うんざりだ。
毎年恒例の言い争いをして、バイクは走り出す。
兄は現在、大学の3年生だ。バイクの運転免許は高等部に進学したときに取った。
その時僕は初等部の1年生で、その年からずっと、夏休み明けの第二学期初日だけはこうしてバイクで学校へ送ってもらっている。今年で6年目だ。
理由は単純。二学期初日の朝までは、僕の体内時計が夏休みのままだからだ。
起きた時点で、徒歩とバスでのいつもの登校スタイルでは始業時間に間に合わない。
とにかく、顔を洗い歯を磨いて制服を着つつ、兄に懇願するのだ。
初等部の6年間、毎年この日だけは兄のバイクで登校している。
耳元で風が叫んでいる。いつもの街並みはすぐに後方へ流れて、混雑している道路の間を器用にすり抜けながら学校へと近づいて行く。
疾走するシルバーの塊は、周りから見たら水銀のように見えるかもしれない。
おい、後ろで寝るなよ。
起きてるよ。大丈夫。
お前な、本当に来年からは出来ないんだぞ、分かってるか?
分かってるよ、分かってるから。
そう。兄の通う大学では4年生になると、この街よりもっと都会にあるキャンパスに通うのだ。来年からは、兄はその都会で学生寮に入るらしい。
だから、本当に今年で最後なのだ。
来年からは、ちゃんと目覚まし時計で起きなければならない。
兄の背中にしがみつく。
向かい風がシルバーの塊にぶつかり、マシンの振動が眠っていた身体を目覚めさせる。
こんな風に僕の体内で夏が去り秋へ移っていくのも、本当に今年で最後なのだ。
上り坂の途中、校舎が見えてくる。
何故か、水色の屋根が空に溶けていた。
兄のバイクは無機質なシルバーの塊だ。マシンは熱くなるのに、乗っている間は全く熱を感じない。とは言っても、まだ数える程度しか乗ったことがない。
僕はリュックを背負いなおして、兄の背中にしがみついた。
まったく、来年は中等部の生徒だろ。いつまでも甘えるな。
昨日は新学期の準備をしていたんだ。だから、
だからじゃない。言い訳なんてするな。毎年毎年、うんざりだ。
毎年恒例の言い争いをして、バイクは走り出す。
兄は現在、大学の3年生だ。バイクの運転免許は高等部に進学したときに取った。
その時僕は初等部の1年生で、その年からずっと、夏休み明けの第二学期初日だけはこうしてバイクで学校へ送ってもらっている。今年で6年目だ。
理由は単純。二学期初日の朝までは、僕の体内時計が夏休みのままだからだ。
起きた時点で、徒歩とバスでのいつもの登校スタイルでは始業時間に間に合わない。
とにかく、顔を洗い歯を磨いて制服を着つつ、兄に懇願するのだ。
初等部の6年間、毎年この日だけは兄のバイクで登校している。
耳元で風が叫んでいる。いつもの街並みはすぐに後方へ流れて、混雑している道路の間を器用にすり抜けながら学校へと近づいて行く。
疾走するシルバーの塊は、周りから見たら水銀のように見えるかもしれない。
おい、後ろで寝るなよ。
起きてるよ。大丈夫。
お前な、本当に来年からは出来ないんだぞ、分かってるか?
分かってるよ、分かってるから。
そう。兄の通う大学では4年生になると、この街よりもっと都会にあるキャンパスに通うのだ。来年からは、兄はその都会で学生寮に入るらしい。
だから、本当に今年で最後なのだ。
来年からは、ちゃんと目覚まし時計で起きなければならない。
兄の背中にしがみつく。
向かい風がシルバーの塊にぶつかり、マシンの振動が眠っていた身体を目覚めさせる。
こんな風に僕の体内で夏が去り秋へ移っていくのも、本当に今年で最後なのだ。
上り坂の途中、校舎が見えてくる。
何故か、水色の屋根が空に溶けていた。