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思索 電子回路 論評等 byホロン commux@mail.goo.ne.jp

かもめのジョナサン

2007-10-28 21:51:47 | 思索
リチャード・バック 著 新潮文庫

先に紹介した「Good Luck」同様、極めて短い時間で読んでしまえる短編であるが、グレードが全然違う。同じく、人生や世を語る本として、この「かもめのジョナサン」は、他方とは全く比較にならない一級品である。象徴的表現によってのみ語り得る真実とは正にこのことであろう。ここにあるのは時を超越した人の世の真理であり、このようにして人は時間に歴史を刻み続けながら今に至り、その先端部分に現在の我々がある。この物語が原始の人々の間に語られたとしても、現代の我々が受けるものと全く同一の感銘を得るであろう。訳者の五木寛之は、この作品が生まれた当時のアメリカの時代背景との関連において、必ずしも好ましいものとは捉えず、ジョナサンがキリストと重ね合わされて読み取り得ることにおいて特に、意識の偏向傾向を危惧しているが、それもまあ頷けることではある。一部、超常的表現が含まれることに違和感を覚える読者も少なくはないだろう。しかしそれもまた、意識の壁に閉ざされ勝ちな人の傾向の表れであり、僅かに精神を開放させれば、さほど抵抗無く自然に体内に入り込んでくる話であると思える。たった一つのことであっても、できるだけ多くの視点から物事を見つめる目が事実に限りなく近づけてくれるものだと思う。その意味で、この本が明らかな一つの視点を我々に与えてくれるのは、間違いないだろう。サンテクジュペリの「星の王子様」の現代版と言われることもあるが、「星の王子様」よりも遥かに平易であり、また何よりも読んでいておもしろい娯楽性に富んでいる。
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