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思索 電子回路 論評等 byホロン commux@mail.goo.ne.jp

できる社員は「やり過ごす」

2007-10-21 19:05:30 | その他レビュー
高橋伸夫 著 日経ビジネス人文庫

著者は叙情性に富んだ理性的な人だ。これは本書が、理路整然とした冷徹と思えるほどの論理を「情熱的」に語っているからだけではない。このこと自体は読んでいてとても気持ちのいいことではあるが、それよりもむしろ、真実に至る事実分析のために、「叙情」に強く着目しているということである。客観的な科学的分析のために、これほど「叙情」にスタンスを置いた研究者は少ないのではないだろうか。しかし、理性と感情、この相反するものが一つの器に収まった「人」、人で構成される「組織」や「社会」を見るときに、この感情、つまり叙情のファクタを見落としてしまうと、真実が見えてこないのは当然と言えば当然である。人類が活動を始めて2万年この方、賢くなったはずの人間が、原始の頃と何ら変わりなく今なお戦争をし続けているという理由は、合理性などとは程遠く、大半を人の叙情に求めなければ見えてこない。

本書のタイトルになっている「やり過ごし」とは、「尻ぬぐい」「泥かぶり」を含めたもので、「やり過ごし」の意味は、上司に指示された業務が”重要ではない”と判断され、他にもっと重要な業務をかかえている場合は、上司もそのうち忘れるだろうと、あえてその命じられた業務を実行しないことを言う。「やり過ごし」は組織が活力を維持するためには不可欠なものであり、そのように行為できる社員が「できる社員」だと言うのだから、一瞬ギョッとしてしまう。しかしこれは「人の叙情(不確かさ)」を、つい忘れがちになっているからであり、真実は正にこの本が指摘している通りであり見事というほかはない。「上司は思いつきでものを言う」という格言(本)があったが、これにも相互にリンクする話であろう。
コメント (2)
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