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◇クラシック音楽 NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー◇小林愛実 ピアノ・リサイタル

2021-12-28 09:37:38 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー



<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>




~小林愛実 ピアノ・リサイタル~



ショパン:前奏曲 嬰ハ短調 作品45
     24の前奏曲 作品28
     即興曲第4番 嬰ハ短調 遺作 作品66「幻想即興曲」
ベートーベン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27第1「月光」
ショパン:ポロネーズ 変イ長調 作品53「英雄」

ピアノ:小林愛実

収録:2021年2月8日、府中の森芸術劇場、ウィーンホール

放送:2021年11月26日 午後7:30 ~ 午後9:10

 小林愛実(1995年生まれ)は、山口県宇部市出身。 2005年「全日本学生音楽コンクール」小学生部門で全国優勝。2009年「アジア太平洋国際ショパンピアノコンクール(韓国)」でJr部門優勝。2011年「ショパン国際コンクールin Asia」コンチェルトで金賞を受賞。第5回「福田靖子賞」受賞。2009年サントリーホールにおいてメジャー・デビュー記念コンサートを開催したが、同ホールソロとしては、日本人最年少記録および女性ピアニスト最年少記録。2011年桐朋女子高等学校音楽科に入学。2013年米国カーティス音楽院に留学。海外では、カーネギー・ホールへ出演。パリ、ポーランド、ブラジル等で演奏。2011年 カーネギー・ホールにおいて、小澤征爾が芸術監督を務めた日本フェスティヴァルにおいてソロ・リサイタルを行う。2012年「ジーナ・バッカウアー国際ピアノコンクール」のヤングアーティスト部門で第3位入賞。2015年第17回「ショパン国際ピアノコンクール」ファイナリスト。2021年第18回「ショパン国際ピアノコンクール」第4位。

 今夜最初の曲は、ショパン:前奏曲嬰ハ短調作品45。ショパンには、広く知られた「24曲の前奏曲」とは別に、単独の前奏曲が2曲あるが、この曲はそのうちの一つ。作曲は、1841年8~9月に行われ、冒頭に主題が提示され、その後、転調が繰り返され、ほぼ全ての調に転調するが、主題は変わらない。

 今夜のこの曲での小林愛実の演奏は、ショパンが作曲した道筋をたどるかのように、ゆっくりとしたテンポで静かに開始され、徐々に夢幻の世界へとリスナーを誘い込んでゆく。この流れを小林愛実は、丁寧に噛みしめるように演奏し、リスナーをショパンの音楽の核心へと誘うことに見事に成功。
 
 今夜2番目の曲は、ショパン:24の前奏曲作品28。この曲は、1839年1月にマジョルカ島で完成し、1839年9月に出版された。24曲がすべて異なる調性で書かれている。これはバッハの平均律クラヴィーア曲集に倣ってつくられたと言われているが、曲の配列は異なっており、平行短調を間に挟みながら5度ずつ上がっていくという順序になっている。曲の構成は、ほとばしる感情をむき出しにするものもあれば、優雅さや穏やかな心を感じさせるのもあり、その内容は変化に富むように構成されている。

 今夜のこの曲での小林愛実の演奏は、終始伸び伸びとした演奏内容に徹していて、その安定感のある演奏に身を委ねて聴くことができた。ピアノの音色も澄んでいて聴きやすい。すべてが自然体で、曲に真正面から取り組んでいることが聴き取ることができ、好感が持てる演奏内容だ。奇を衒うことは決してしない。一曲一曲に息吹を吹き込み、そしてそれらを一つ一つ開花させるような丁寧な音づくりが身上である小林愛実の演奏の特徴が、よく聴きとれた演奏内容となった。

 今夜3番目の曲は、ショパン:即興曲第4番 嬰ハ短調 遺作 作品66。この曲は、ショパンの4曲ある即興曲のうち最初に作曲された作品。ショパンの死後1855年、友人のユリアン・フォンタナの手により「幻想即興曲」と題して出版された。ショパンの作品の中で最もよく知られる楽曲のひとつ。

 今夜のこの曲での小林愛実の演奏は、早すぎもせず、遅すぎもせず、中庸なテンポであるのだが、決して凡庸な演奏には終わらせない。それは、音そのものが常に流麗に流れ、しかもそれらが微妙な変化に彩られているためだろう。

 今夜4番目の曲は、ベートーベン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27第1「月光」。この曲は、伯爵令嬢ジュリエッタ・グイチャルディに献呈された。ベートーヴェンは、自らのピアノの弟子となったこの14歳年少の少女に夢中になる。しかし、グイチャルディは、別な男と結婚してベートーヴェンのもとを去っていく。ジュリエッタは、シンドラーの伝記で「不滅の恋人」であるとされている。”幻想曲風ソナタ”という表題が示すとおり、伝統的な古典派ソナタから離れてロマン的な表現へと向かう内容となっている。

 今夜のこの曲での小林愛実の演奏は、ベートーヴェンがロマン主義への入口に立っていることを強く印象づけるものとなった。ベートーヴェンらしさをことさら強調することはせず、ほのぼのとした”恋人”を想う心情と若者特有の感情の発露の二つがバランスよく表現された、全体にまとまりのある秀演となった。

 今夜最後の曲は、ショパン:ポロネーズ 変イ長調 作品53。この曲は、ショパンが1842年に作曲したもので、「英雄ポロネーズ」の通称で親しまれている。ピアノに管弦楽的な表現を発揮させ、主題を執拗に繰り返すことで一貫した内容になっており、ショパンの愛国心の表れといわれる。

 今夜のこの曲での小林愛実の演奏は、これまでの曲とは趣がいささか異なり、感情を直接ぶつける迫力ある熱演を聴かせた。ピアノタッチ自体力強く、歯切れが良く、それらが耳に心地よく響く。一方で、音の流れはあくまで自然であり聴きやすいところは、小林愛実の特色が存分に生かされた演奏内容だったといえよう。(蔵 志津久)
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