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◇クラシック音楽CD◇ヨン・ストゥールゴールズ指揮BBCフィルハーモニックのニールセン:交響曲全集

2017-05-09 08:20:38 | 交響曲

<ニールセン交響曲全集>

ニールセン:交響曲第1番
      交響曲第2番「4つの気質」
      交響曲第3番「おおらかな交響曲」
      交響曲第4番「不滅」
      交響曲第5番
      交響曲第6番「素朴な交響曲」

指揮:ヨン・ストゥールゴールズ

管弦楽:BBCフィルハーモニック

ソプラノ:ジリアン・キース(交響曲第3番)
バリトン:マーク・ストーン(交響曲第3番)
ティンパニ:ポール・ターナー、ゲライント・ダニエル(交響曲第4番)
クラリネット:ジョン・ブラッドベリー(交響曲第5番)
サイド・ドラム:ポール・パトリック(交響曲第5番)

CD:Chandos Records CHAN 10859(3枚組)

 このCDは、ニールセンの交響曲全6曲を3枚に収録したアルバムである。カール・ニールセン(1865年―1931年、ニルセンとも表記)は、デンマークの作曲家。同国を代表する作曲家としてだけではなく、北欧の重要な交響曲作曲家の一人に数えられる。フィンランドの大作曲家のシベリウス(1865年―1957年)と同じ年に生まれたが、シベリウスは後半生は作曲活動から遠ざかったので、二人の作曲活動時期はほぼ重なる。また、交響曲の作品数もシベリウスが7曲であるのに対して、ニールセンは生涯で6曲の交響曲を遺した。このほかニールセンは、3つの協奏曲、管弦楽曲、オペラ、室内楽曲、歌曲、合唱曲を数多く遺している。ニールセンは、1884年王立コペンハーゲン音楽院に入学し、作曲などを学ぶ。卒業後の1888年「弦楽四重奏曲第1番」「弦楽五重奏曲」「弦楽のための小組曲」などの作品を発表。1892年交響曲第1番を完成させ、作曲家として活動を開始した。そして作曲家としての名声を得た後、王立コペンハーゲン音楽院の院長に就任している。

 BBCフィルハーモニックは、1926年に設立された、英国マンチェスターを本拠地とする英国放送協会(BBC)傘下のオーケストラ。現在の楽団名になったのは1991年。2002年からはイタリア出身の指揮者ジャナンドレア・ノセダが首席指揮者を務めた。2011年には後任のファンホ・メナが就任、ノセダは桂冠指揮者となっている。このBBCフィルハーモニックの首席客演指揮者を務めるのがフィンランド出身のヨン・ストゥールゴールズ。2014年~2015年に発売された「シベリウス:交響曲全集」とこの「ニールセン:交響曲全集」の2つの“生誕150周年記念盤”の世界的ヒットによってヨン・ストゥールゴールズは一躍脚光を浴びる指揮者となった。ヨン・ストゥールゴールズは、ニールセン150周年に向けて、BBC3やブリッジウォーター・ホール、「ニールセン&シベリウス音楽祭」などでの演奏の実績を積み重ねた上でのニールセン:交響曲全集の録音(2012年―2015年)だけに、ニールセンへの深い愛着に満ちたものへと結実しており、万人を納得させるだけの説得力の強い演奏内容に仕上がっている。

 交響曲第1番 は、4楽章からなる爽やかで牧歌的な若き日の力作となっている。形式的には古典的なスタイルに拠っているが唐突かつ頻繁な転調を伴う独特な和声進行や半音階的な旋律に作曲者独特の音楽語法が表れている。この交響曲第1番から交響曲第4番の冒頭は、全てティンパニーの一撃で始まるというニールセン独特の始まり方が印象的。初演は1894年3月14日にコペンハーゲンの王立劇場において行われ、好評を博した。交響曲第2番 「四つの気質」は、人間の四つの気質をテーマにした古い木版画にインスピレーションを得て作曲されたと言われている。交響曲第3番 「大らかな交響曲」は、壮大で牧歌的な曲で、第2楽章のバリトンとソプラノのヴォカリーズの美しい響きが印象的。

 交響曲第4番 「不滅」は、6曲中最も有名な曲であり、単一楽章からなる交響曲。第一次世界大戦中の暗い時代に書かれた作品で、ニールセンは「これはもし誰かが作品の内容について尋ねたら、戦争のようなものと言ってよい」(新田ユリ著「ポポヨラの調べ」五月書房刊)と語ったという。交響曲第5番は、完成度の高い交響曲。第1楽章の最後の部分のスネア・ドラムのアドリブ部では、舞台下手側で叩いていた奏者が、舞台上手奥に移動して徐々に遠ざかっていく細かい演出も含まれている。交響曲第6番は、 「素朴な交響曲(シンフォニア・センプリーチェ)」と名付けられてはいるが、その内容は容易に捉えがたい。 

 これらのニールセン:交響曲全集を収録したヨン・ストゥールゴールズ指揮BBCフィルハーモニックのCDの演奏は、ニールセンの作曲の意図を明快に読み取り、分かりやすい形でリスナーに送り届けてくれる。少しの曖昧さもなく、柔らかく、暖かい音色は何とも聴いていて心地良い。ニールセンの交響曲は、我々にとってはシベリウスの交響曲ほど身近ではないが、この全集を聴くことによって、ニールセンの交響曲への親しみが深まるのではないだろうか。有名な第4番 「不滅」や完成度の高い第5番のほかにも、ソプラノとバリトンの歌声が美しい第3番、そして若々しい息吹が感じられる第1番などが聴き応えがある。(蔵 志津久)


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