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「ポトフ 美食家と料理人」(2023年 フランス映画)

2024年01月24日 | 映画の感想・批評
 19世紀末のフランスの片田舎が舞台。料理人夫婦(ウージェニー:ジュリエット・ビノシュ、ドダン:ブノワ・マジメル)の物語。
 二人の料理の評価はヨーロッパ各国に広まっていた。そんなある日、ユーラシア皇太子から晩餐会に招かれたドダンは、長時間に渡る大量の料理にうんざりしてしまう。そこで、自らは、シンプルな家庭料理の“ポトフ”で皇太子をもてなす提案をする。だが、周りは、賛成しない。ウージェニーも最初は戸惑うが、ドダンの料理への情熱に感銘し、後押しすることになる。ただ、そんな中、ウージェニーが倒れてしまう。落ち込んでしまうドダンは、自分の手で作る渾身の料理で、ウージェニーを元気付けようと決意するが・・・。
 一心不乱に料理に打ち込むシーンは、丁寧で音やカメラワークも間合いも心地良い。料理人同士の適格な指示に背筋がピンとする。ずっと観ていられる。実際に食することは出来ないことは承知しながらも、「美味しい」と思えてしまう。これは監督の演出力だと思う。どう表現すれば、どう捉えられるのか、撮影しながら、頭の中で把握されている。カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞受賞も納得。
 絶対音感ならぬ絶対味覚をもつ少女が、ジュリエット・ビノシュからのバトンタッチ(劇中もそうだし、演劇界も)を表しているのか、今後の展開も元気付けられる。決して、昔をないがしろにせず、新しい時代を作っていく。その気持ちが表現されている。料理という題材をベースに、お互いがお互いを「想う」心と、次の世代への「想う」気持ちを掛け合わせている。
 その監督は、「青いパパイヤの香り」「シクロ」「夏至」他のトラン・アン・ユン監督。特に、「シクロ」は大好きな1本。新作公開と分かった時点で必ず観に行こうと思った。劇場が明るくなるまで観てほしい。エンドロールの最後に、『イェン・ケーに捧ぐ』と映し出される。鑑賞後調べると、監督の奥様と分かる。奥様は、監督デビュー作の1993年の「青いパパイヤの香り」に出演されていて、それ以降、タッグを組んでいるとのこと。こんな壮大なラブストリーがあるだろうか。劇中の物語とスタッフのプライベートな物語を含めて、物語が折り重なった重厚な恋愛映画。決して、嫌味感過ぎることなく、すんなり観られる。
 本作は、ご夫婦やカップルにお勧め。是非、ご一緒に観て頂ければ、幸せな時間を共有出来るのではないかと思います。
 ただ、ラストの言葉は、この監督らしくもあるが、個人的にはもう一方の選択の方がしっくりくる。それは個人的な意見だが・・・。それは、観て頂いてのお楽しみということで・・・。
(kenya)

監督・脚本:トラン・アン・ユン
原題:The Pot-au-Feu
撮影:ジョナタン・リケブール
出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル、エマニュエル・サランジェ、パトリック・ダスンサオ、ガラテア・ベルージ、ヤン・ハムネカー、フレデリック・フィスバック、ボニー・シャニョー・ラポワール