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シネマ見どころ

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「罪人たち」(2025年 アメリカほか)

2025年07月02日 | 映画の感想・批評
 タイトルは「つみびとたち」と読ませます。原題は聖書に依拠しており、犯罪者ではありません。アメリカ本国でずいぶん評価が高いにもかかわらずノーチェックでした。上映館も少ないので見逃すところでしたが、見てびっくり。吸血鬼マニア必見の秀作でした。
 まずもってこの映画の特長は着想にあると見ます。黒人音楽(ブルース)と吸血鬼伝説を結びつけるなどというアイデアはあまり誰も思いつかないことです。
 1932年10月という時代設定。場所はミシシッピー州北西部のデルタと呼ばれる地帯。アラン・パーカー監督の秀作「ミシシッピー・バーニング」(1988年)を持ち出すまでもなく、人種差別の苛酷なところです。南北戦争後の奴隷解放によっても南部諸州ではジム・クロウ法という人種隔離の法令がまだ効力を有していて、完全に撤廃されるのは1964年というから驚きです。
 冒頭、野原を走って来た車が停まる。その背後には馬車があって馬がつながれている。これだけで時代背景を一気に見せるのです。因みにアメリカで一般に車の普及率が50%を超えるのはまさにこのころで、馬車と併存していたのです。これぞ映画です。
 左頬にかぎ爪で引っかかれたような傷跡のある満身創痍の若者がギターの柄を片手に車から降りて、ぽつんと建つ白い教会の扉を開けると、そこでは会衆を前に子どもたちが聖歌をうたっている。その横に立っていた牧師が若者を見て「息子よ」と叫んで駆け寄るや、「音楽は悪魔を呼び寄せる。金輪際ギターはやめろ!」と声を振り絞るのです。音楽が反道徳とみられていた時代のプロテスタントの倫理観がみごとに出ています。
 そうして、物語は1日前に遡ります。
 地平線の向こうまで果てしなく続く綿花畑で老若男女の黒人たちが裸足で綿を摘む日常が描かれます。シカゴ帰りの双子の黒人が不正な手段で大金を手に入れたのか、製材所あとの大きな建物を購入し、そこで酒場を開いてひともうけする算段です。黒人バンドや歌手を雇ってシカゴばりのクラブにしようというわけです。双子の年少のいとこが冒頭の若者ですが、かれに店でギターを弾かせようと誘います。こうして街でピアノ弾きを雇い料理の具材を調達し、善は急げとばかりにその日の夜にあわただしく開店するのです。
 好事魔多し。そこへ邪悪な者が寄って来る。音楽が悪魔を呼び寄せたのです。あとは、ラストまで一直線の吸血鬼ホラーとなるのです。
 悪魔がクラブに闖入する前に繰り広げられる開店祝賀ムードのお祭り騒ぎがミュージカル風に展開されて、思わず体がスイングしそうです。この音楽シーンも圧巻です。
 新たな吸血鬼映画のレジェンドが誕生したことは喜ばしい限りです。(健)
 
原題;Sinners
監督:ライアン・クーグラー
脚本:ライアン・クーグラー
撮影:オータム・デュラルド・アーカポー
出演:マイケル・B・ジョーダン、マイルズ・ケイトン、デルロイ・リンドー、ウンミ・モサク


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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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私はそっち系ダメなんですが、 (ionsvcreen)
2025-08-02 10:54:00
私はゾンビ系ダメで基本見ないんですが
無知識で観てビビりまくりました(笑)

ただしジャンルがそれだけでは済まない
作りに救われました!
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