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「ブータン 山の教室」 (2019年 ブータン映画)

2021年05月05日 | 映画の感想・批評

 
 今年度のアカデミー賞は「ノマドランド」が、作品賞、監督賞、主演女優賞の三冠に輝いた。通販(Amazon)配送センターや国立公園のキャンプ場等でバイトをしながら、ノマド(遊牧民)のようにキャンピングカーで旅をして暮らすという、いかにも現代アメリカを感じさせる作品だったが、今回紹介するのは、アカデミー賞国際長編映画賞のブータン代表作品。こちらは標高4800メートルの地にあるブータン北部の村ルナナで、大自然とともに暮らす人々と、そこに派遣された青年教師との交流を描いている。
 ブータンといえばまず頭に浮かぶのが「国民総幸福の国」だということ。経済的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさも考慮したGNH(Gross National Happiness)を国の第一目標に掲げているそうだが、実際には日本と同じように都市への人口集中や農山村の過疎化、地域間格差の拡大等も問題になっているようだ。本当の幸福とはいったい何なのか、この作品を見ながらずっとその事を考えていた。
 主人公のウゲンは首都ティンプーに住み、教師になって4年目。5年間の研修期間も後1年となり、将来は歌手になってオーストラリアに行くことを密かに夢見る「デモシカ先生」だ。(懐かしい言葉) しかし、この最後の1年をルナナの学校の先生として過ごしたことが、その後の生き方に大きな変化をもたらすことになる。
 この秘境の地への一週間の旅が魅力的だ。ウゲンとともに電気も携帯電話も通じない場所に観客を連れていってくれる。村長の依頼で来たという案内人ミチェンがいい!自分より若い先生に対して尊敬の念を忘れず、また山の民として生きる自分にも自信を持っている。過酷な大自然から生きる力を育んだという感じがとっても気持ちがいいのだ。主人公のウゲンを演じるシェラップ・ドルジをはじめ、主要な人物はすべてブータンの俳優が演じ、ルナナに住む村人たちも自然な形で俳優として出演しているところがまた新鮮だ。映画の存在を知らない人たちがカメラの前で演じるというのはこういうことなのだと、その初々しさや純粋さに何度も頬がゆるんだ。
 ウゲンが子どもたちに「将来は何になりたい?」と聞くと、一人の子が「先生になりたい。先生は未来に触れることができるからです。」と答える。ああ、まさにそうだ、自分が歩んできた道もそうだったんだと、教職を離れた今になって、その事に気づかされるとは・・・。
 コロナ禍で、世界中の人々の心が疲弊する中、せめて未来を生きる子どもたちには希望の光をしっかり見つけ出せるようにしてあげることが、先生の大切な役目。大事な場面で幾度となく登場する「ヤクに捧げる歌」がじんと心に響く。ウゲン先生、子どもたちが待ってるよ!!
 (HIRO)

原題:Lunana A YAK IN THE CLASSROOM
監督:パオ・チョニン・ドルジ
脚本:パオ・チョニン・ドルジ
撮影:ジグメ・テンジン
出演:シェラップ・ドルジ、ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ、ケルドン・ハモ・グルン、ペム・ザム、クンザン・ワンディ


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