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「ミッドナイト・バス」(2018年 日本映画)

2021年05月12日 | 映画の感想・批評
 緊急事態宣言が発出され、多くの映画館が営業休止の為、過去の作品を取り上げる。公開時(2018年1月)に見逃して残念に思っていた映画で、偶然、図書館で見かけて借りた。DVDまで図書館で借りられるようになり、とても有難い。
 物語は、新潟と東京を往復する深夜バスの運転手の高宮(原田泰造)と、東京で小料理屋を営む恋人の古井(小西真奈美)が、古井が新潟を見てみたと言ったことから、高宮の新潟の家を訪れるところから始まる。高宮はバツイチで、東京で会社員をしている息子の怜司(七瀬公)と、新潟で一人暮らしをしながら、アイドルになることを目指す娘の彩菜(葵わかな)がいる。彩菜は一方で結婚も考えている。新潟の家には誰もいない筈だったが、東京で働いている筈の怜司が、帰ってきていたのである。ばったりと鉢合わせになり、慌てる3人。そこに娘も登場。更に、偶然、高宮の運転するバスに高宮の別れた妻の美幸(山本未來)が乗車したことにより、高宮の周りが俄かに動き出すのである。さて、高宮の家族はどうなっていくのであろうか・・・。
 メロドラマだが、ずしりと重さが違う。何だろうか・・・。一人の人間を通して、人間が変わっていく様をじっくり描き、その変わり方が描くのが上手いからだろうか。決して、人間は単純明快ではない。人生に正解はない。高宮が家族皆からそれぞれの場面で問い(簡単な問いでない)を受けるが、明確には応えない。場合によっては返事もしない。あるいは、応えられない、応えたくない・・・なのか。高宮が一人泣きするシーンがある。大人の男が泣く。情けない、恥ずかしい、申し訳ない、寂しい、色々な感情が混じりあって泣いてしまう。そう理屈ではない。日頃から、感情を表に出さなかったが、泣きたくなる時もある。人は完全ではない。欠点ばかり。でも、生きていくのである。どう変わっていくのか分からない。そんな気持ちが表現されているからなのだろうか・・・。
 併せて、美幸の新潟に住む父親(長塚京三)に認知症の気配があり、東京と新潟を行き来しながら美幸が入院生活をサポートするが、ワンオペ状態で自分をかなり追い込んでいる。今の介護問題にも触れている。孫に当たる怜司と彩菜もサポートに入る。3世代にわたる「家族」の物語に繋がっている。
 原田泰造が大型免許を取得し、実際に運転しているそうだ。バラエティー番組で見る姿とは別人で、夜の高速を走るバスを運転する姿はとても画になっていた。更に、通り過ぎるトンネルの電光色に映りだされる山本未來。座席に沈み込むように座り、思い込んだ表情が気持ちを表現している。セリフは無いが、その人そのものを表現している。そこに、ヴァイオリニストの川井郁子作曲の物悲しい旋律の音色が重なる。ここだけでも一見の価値あり!
 最後に、本作品には、新潟の風景もたくさん撮影されている。このGWは帰省を自粛された人が多いかもしれない。そんな方には、「実家に帰った」気持ちを想像しながら、観られては如何でしょうか。
(kenya)

監督:竹下昌男
脚本:加藤正人
原作:伊吹有喜『ミッドナイト・バス』
撮影:丸池納
出演:原田泰造、小西真奈美、山本未來、葵わかな、七瀬公、長塚京三


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