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「雨の午後の降霊祭」(1964年 イギリス映画)

2020年04月22日 | 映画の感想、批評
 英国スリラー・サスペンスの名作として知られるこの映画を最初に見たのは、もうずいぶん昔の自主上映会だったろうか。カルトムービーのひとつとして名高いこの映画は、英国映画の新しい潮流を担ったひとり、ブライアン・フォーブスの代表作だ。フォーブスといえば「キングラット」という捕虜収容所を扱った秀作もあるが、やはり英国伝統のスリラーとして完成度が高いこちらを私は強く推す。今回改めてDVDで見直してみて感心した。
 アクターズ・スタディオ出身のアメリカの舞台女優キム・スタンレーが難役の霊媒師の女性を演じ、のちに巨匠の風格を示す名監督となるリチャード・アッテンボローが製作を兼ねて、その夫役に扮した。
 子どものころから霊能力が備わっているマイラは病弱の夫ビリーとふたり住まいで、霊媒師として定期的に降霊祭を催し、生計をたてている。
 マイラは繊細な神経の持ち主で、いささか精神が不安定な傾向にある。夫はそんな彼女にガラス細工の品物を扱うかのようにこわごわ接している。
 かれらの会話に登場するアーサーという幼くして亡くなったらしい男の子の存在が意味ありげだ。子ども部屋がそのままの状態で残されていて、マイラはアーサーの霊をときどき感じる。妻がアーサーを話題にすると夫がその話題を避けたいような悲痛な表情をするところが、のちに重要な伏線となるのだ。
 マイラは自分の霊能力が正当に評価されてしかるべきだと不満を抱いていて、もっと世に知らしめるために狂言誘拐を計画する。実直そうで気の弱い夫は妻に逆らった例しがないらしく、妻の指示どおり実行犯を担うのである。そうして、裕福な家庭の少女を誘拐してアーサーの部屋に監禁し、身代金目的の誘拐事件と見せかける。
 それが報道されたのを機に、妻が被害者宅に出向き、「私は霊媒師で少女の夢を見た。その居所を言い当てられるかも知れない」と売り込むのだ。むろん、少女の父親はハナから信じず追い払おうとするが、母親はそんな胡散臭い話でも何とかすがろうとするのである。
 後戻りができないところまで来てしまったけれど、いまなら少女を返して知らんぷりできるとビリーはマイラを諭すが、彼女はもはや聞く耳を持たない。ビリーは仕方なく身の代金の受け渡しに出向く。この場面が圧巻で、指定された場所に大金を持って現れる父親、その動向を近くで見守る複数の刑事、受け渡しのタイミングを見計らって右往左往しながら周囲をうかがうビリー。セミドキュメンタリ・タッチの演出が冴え渡り、英国のお家芸であるスリラーの手本となる名場面だ。
 もちろん、計画は思いどおりに行かない。段取りを間違って致命的なミスを犯してしまい、少女も身の代金も無事に返る計画が大きく狂って、ビリーの予期しなかった結末に至ろうとするのである。
 フォーブスのキレのいい演出もさることながら、ふたりの主演男女優の名演がみごとである。(健)

原題:Seance on a Wet Afternoon
監督:ブライアン・フォーブス
脚色:ブライアン・フォーブス
原作:マーク・マクシェーン
撮影:ジェリー・ターピン
出演:キム・スタンレー、リチャード・アッテンボロー、パトリック・マギー、ナネット・ニューマン


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