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「顔のないヒトラーたち」(2014年ドイツ映画)

2015年11月01日 | 映画の感想・批評
 最近ヒトラー関連の問題作が相次ぎ公開されている。ベテランのオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督「ヒトラー暗殺 13分の誤算」も力作であるが、私には「顔のないヒトラーたち」のほうが映画としておもしろかった。冒頭いきなりハッとさせる掴みの手法といい、音楽の使い方といい、監督はまだ若いイタリア人だそうだが、映画的なセンスがあるというか、見ていて思わず引き込まれてしまう魅力があった。興味のある方はぜひ見比べていただきたい。
 私は寡聞にして知らなかったのだが、ドイツは第二次大戦の戦犯をニュールンベルク裁判で裁いたあと、保守派のアデナウアー首相がナチの犯罪は清算されたからドイツの歴史はリセットされ、もはや過去に囚われるべきでないと、アウシュヴィッツの犯罪を葬り去ろうとしたらしい。どこかの首相と同じ発想ではないか。それで、驚くべきことに1950年代の西ドイツではアウシュヴィッツのことが殆ど知られなかったという。
 映画は、フランクフルトの正義感あふれる堅物の若い検事が地元の小学校の教師にアウシュヴィッツ収容所で働いていた人物がいるとの告発を耳にし、俄然関心を寄せて調査に乗り出すところから始まる。上司や同僚たちは反ドイツ的な行為はやめろ、今さら蒸し返してどうなると忠告する。しかし、検事はますます闘志を燃やし、地元紙の記者と力を合わせて一般市民に身を潜めた収容所の幹部や看守たちに相応の罪を償わせることを誓うのである。
 たまたま、検事総長(連邦制なので州単位に存在する)がユダヤ系で収容所体験があったことから、確証を得た時点で捜査にゴーサインを出す。検事がさまざまな捜査妨害や挫折を乗り越えながら証人を探し出し、年配の秘書やいつの間にか味方になった同僚検事の応援で1件ずつ丁寧に証拠を積み上げて行く過程が緊迫感を持って描かれる。こうして63年12月、とうとう19人の元親衛隊員らが起訴されて「フランクフルト・アウシュヴィッツ裁判」が開始されるのである。
 開廷の直前に検事を激励にやって来た総長が「君を誇りに思う」というところは胸が熱くなった。 (健)

原題:Im Labyrinth des Schweigens
監督:ジュリオ・リッチャレッリ
脚本:ジュリオ・リッチャレッリ、エリザベト・バルテル
撮影:マルティン・ランガー、ロマン・オーシン
出演:アレクサンダー・フェーリング、アンドレ・シマンスキ、フリーデリーケ・ベヒト、ヨハネス・クリシュ、ハンジ・ヨフマン、ヨハン・フォン・ビューロー、ゲアト・フォス


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