乳がん患者のサロン2 - ノエル編

乳がん患者の皆様、このサロンでのびのびと雑談しましょう。くつろぎの場です。

注目の判決を前にして

2008年08月16日 | 福島県立大野病院事件
「医師数は足りている」と県から評された地域に私は住んでいます。しかし、新たに建設された中規模病院の産婦人科に医師はおらず、最新設備は埃を被ったままです。

産婦人科は大病院へと集約化され、妊婦さんと婦人科へ罹る患者さんとで溢れています。常に午前の妊婦検診が午後に大きくずれこむほど、妊婦さんが集まっています。また、患者急変で医師の外来・検診は時々中断します。

数字的には医師数は足りている。しかし、周辺地域・隣県からの妊婦や患者が流れ込み、その割合は地元患者1に対し、越境患者0.7。集約前の約2倍の人たちがこの地域の病院を利用するようになりました。これのどこが医師数は足りているというのか?
片道数時間かけて通院する妊婦さんがざらにいる。これは母体に安全なことなのか?

この地区では、里帰り出産しても住民票がなければ、妊婦教室や赤ちゃん教室には参加ができなくなりました。妊婦の大量流入に、行政が対応しきれなくなったためです。

がん検診の予約を入れても、婦人科だけは1か月待ちです。他の科は1週間で予約がとれます。婦人科がんの疑いのある人が入院・手術となると、長い時間を不安の中で待たされることになるでしょう。

皆、我慢を強いられています。

大野病院事件の後、産婦人科を取り巻く環境は激変しました。これが実情です。(事件については、大野病院のカテゴリーを参照下さい)
この事件の公判記録を読むと、自分も医師と長らく付き合うことになった「乳がん患者」の立場として、大いに疑問を感じた点があります。

第12回公判の亡くなられた妊婦さんの夫の証言
>加藤先生の手術の内容は、弁護側の先生からは誰でもする、特に問題がなかった、と言われました。何も問題がなければ、なぜ、妻は死んでしまったのか、とても疑問です。
>子供と妻のために、責任を追及し、責任をとってもらいます。

加藤医師とこの妊婦さんとで、いかなる話がなされたか。
その話は彼女の夫、家族などと共有されたものだったのか。各々が彼女の意志や希望を正確に理解していたのか。

治療については、乳がん患者も一人ひとりの価値観が異なります。乳房全摘出するのが最善の治療であっても、絶対に乳房を残したいと医師に懇願する人、治療・手術より妊娠を継続したい人など等、医師の提示する最善の治療と離れた希望を述べる患者もいます。
診察室ではその希望を叶える治療とリスクについて、医師と患者は十分に話をするものだということは、患者となられた方ならご存知でしょう。医師は自分にできないことはしないし、できるだけ患者の希望に沿った治療を考える。そして患者自らが選択するんですよね。

亡くなられた妊婦さんは、過去の出産経験から想像するに、彼女の希望を叶えるべくリスクは小さくなかったように思います。つまり、彼女はもう一人子供を得るため、小さくないリスクを取ったのではないのか。

私の場合、乳がんの治療をするにあたり、主治医には自分の希望や意志を率直に伝えても、家族には隠すことがあります。家族に言うと、私を心配するが故に私の行動を阻止する可能性がある時です。それはまた、自分が腹をくくった時でもあります。

家族は妊婦さんの気持ちをどのぐらい理解していたか。彼女を深く思いやり、彼女の意志を尊重したというのでしょうか。リスクに対し、彼らは担当医とどのぐらい話し合ったのか。
医師が「責任をとる」時、そこには医師と家族との間にも、出産に対し共通の理解があるはずです。原告の公判記録からは、その点が読み取れません。

もう一つ、警察と検察が依頼した鑑定医についても大いに疑問があります。
この妊婦さんは、産科医が遭遇するのは1万分娩に1回ほどの強い癒着胎盤で、出産時に予期せぬ事態に陥ったといいます。そのような事態の処置を、完璧に行った医師を鑑定医に選ばなかったのはなぜでしょう。

未経験の鑑定医の鑑定を判断の基とするのは、素人目に見ても納得がいきません。あとから「こうすれば助かったはずだ」と言い出せば、言った人が有利です。それは今後の医療の改善に役立つかもしれませんが、当時、医師が行うべき行為の過失とは全く別のものです。この件では、産婦人科医としての経験と実績のある鑑定医をつける必要がありました。

検察側は、医療の「不可抗力」とはいかなるものか、専門家の知識と経験を正確に知る必要があると思います。その時できるだけのことを行い、しかし結果が悪い場合、犯罪者とするのは間違いです。

産科医のみならず、全国には患者とその家族の希望を踏まえ、限界まで精一杯の仕事を行う医師が大勢います。私の主治医もその一人です。
この裁判で有罪判決が出たら、その行為は犯罪になるかもしれない。その状況に耐えられる医師がどれほどいるというのか…。
自分が受けた医療の恩恵が受けられなくなる人々の出現を、私は危惧します。


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なかのひと

This blog “The salon of breast cancer women authored by Noe:l” can be read in Japanese only:-)


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