114ー「浅妻船」(1820・文政3年・中村座)
英一蝶が多賀朝湖といっていた時代に描いた『百人女臈』の中に、
「浅妻舟」と題した一枚の絵がある。
河舟に棹を差す美形の男、側で美人の女が鼓を打つ、という構図で
朝湖自作の小歌が添えてある。
この絵を見た将軍綱吉は激怒した。
なぜなら、綱吉はよく吹上御苑の池に舟を浮かべ、
寵愛するお伝の方の鼓に合わせて謡を謡って遊ぶのが好み。
その情景とあまりにも似ていたからだ。
”朝妻”とは、琵琶湖東岸の里の名だが、
ここの私娼は舟に乗って夜泊まりの客を取る。
その舟を朝妻舟というのだから、
少々早とちりだが、綱吉が怒るのもむべなるかな。
びっくりした朝湖はその絵を、鼓を持った水干立烏帽子の白拍子が
舟に座し、一人静かに物思いにふける、という図柄に変えた。
だが、綱吉の怒りはおさまらず、朝湖は三宅島に流されてしまった。
朝湖が許されるのはそれから12年後、というのだからまことに、お気の毒。
この曲は、月雪花の七変化のうちの“月の巻”。
ゆえに“月づくし”で男を待つ女の気持ちを詠う。
『月待つと
その約束の宵の月
高くなるまで待たせておいて
独り袂の移り香を
片割月と頼めても
水の月影流れ行く
末は雲間に三日の月
恋は曲者忍ぶ夜の
軒の月影隠れても
余る思いの色見せて
秋の虫の音冴え渡り』
●あなたを待つ、約束の宵。
でも、待てど暮らせどあなたは来ない。
あなたの移り香を嗅ぎ、月が半分隠れているうちにきっと来て、
と願っているのに、時間ばかりが虚しく過ぎ、
とうとう雲に隠れて三日月になってしまった…
恋とはまことに不思議なもの、
月が隠れて暗くなったというのに、あふれる思いは隠せないとみえる。
その証拠にほら、虫の声が冴え渡っている。
〓 〓 〓
tea breaku・海中百景
photo by 和尚
英一蝶が多賀朝湖といっていた時代に描いた『百人女臈』の中に、
「浅妻舟」と題した一枚の絵がある。
河舟に棹を差す美形の男、側で美人の女が鼓を打つ、という構図で
朝湖自作の小歌が添えてある。
この絵を見た将軍綱吉は激怒した。
なぜなら、綱吉はよく吹上御苑の池に舟を浮かべ、
寵愛するお伝の方の鼓に合わせて謡を謡って遊ぶのが好み。
その情景とあまりにも似ていたからだ。
”朝妻”とは、琵琶湖東岸の里の名だが、
ここの私娼は舟に乗って夜泊まりの客を取る。
その舟を朝妻舟というのだから、
少々早とちりだが、綱吉が怒るのもむべなるかな。
びっくりした朝湖はその絵を、鼓を持った水干立烏帽子の白拍子が
舟に座し、一人静かに物思いにふける、という図柄に変えた。
だが、綱吉の怒りはおさまらず、朝湖は三宅島に流されてしまった。
朝湖が許されるのはそれから12年後、というのだからまことに、お気の毒。
この曲は、月雪花の七変化のうちの“月の巻”。
ゆえに“月づくし”で男を待つ女の気持ちを詠う。
『月待つと
その約束の宵の月
高くなるまで待たせておいて
独り袂の移り香を
片割月と頼めても
水の月影流れ行く
末は雲間に三日の月
恋は曲者忍ぶ夜の
軒の月影隠れても
余る思いの色見せて
秋の虫の音冴え渡り』
●あなたを待つ、約束の宵。
でも、待てど暮らせどあなたは来ない。
あなたの移り香を嗅ぎ、月が半分隠れているうちにきっと来て、
と願っているのに、時間ばかりが虚しく過ぎ、
とうとう雲に隠れて三日月になってしまった…
恋とはまことに不思議なもの、
月が隠れて暗くなったというのに、あふれる思いは隠せないとみえる。
その証拠にほら、虫の声が冴え渡っている。
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tea breaku・海中百景
photo by 和尚
