西園寺由利の長唄って何だ!

長唄を知識として楽しんでもらいたい。
軽いエッセイを綴ります。

秋の色

2010-04-12 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
47-「秋の色種」その1(1845・弘化2年)


従来長唄の歌詞というものは、芝居の狂言作者が書くものと決まっていた。
なぜなら、長唄は芝居に付随したもので、狂言の流れの中のワンシーンとして
長唄を伴奏とする舞踊、つまり所作というものがあったからだ。

しかし、江戸が豊かになり、料理屋で芸者を侍らせての一席とか、
金持ち・大名などが贔屓の芸人を呼んでの饗宴、
ということが流行るようになると、芝居用の曲ではなく、
そのために作らせた曲を聴きたいと思うようになるのが人の常。

かくして、作曲者となる三味線弾きが自ら作詞したり、宣伝ソングのように
店の主が作詞したりと、芝居を離れた、いわばお座敷専用の長唄が発生する。

そしてついに大名自らが作詞をする、というジケンが起きる。

中村座の囃子頭、杵屋六左衛門(10世)に、第13代盛岡藩主
南部利済というパトロンがついたのだ。
浄瑠璃の太夫には、掾号という一種の勲章のようなものが下賜される
大名パトロン制みたいなものはあった。
だが、新参(音楽史的に)の長唄に大名のパトロンがつくなど前代未聞。

麻布の不二見に隠居屋敷を建てる事にした利済は、
新築祝いの披露宴用に、「秋の色種」という歌詞を書いて六左衛門に渡した。

雅な筆致で庭の垣根に咲く、色々な草花の名を詠む。

『なまめく萩が花摺りの
 衣雁がね 声を帆に
 上げて下ろして 玉すだれ
 端居の軒の庭籬
 うけら 紫 葛 尾花
 とも寝の夜半に 荻の葉の
 風は吹くとも 露をだに
 末路と契る 女郎花
 その暁の手枕に
 松虫の音ぞ 楽しき』

● 萩の花で染めたような、しっとりと上品な羽色の雁たち。
鳴き声を上げて、上になり下になり、ねぐらに急ぐ。
縁先に座して見る、庭のませ垣には、おけら・紫・葛・すすき。
二人で寝る夜更け、ざわざわと風が吹く。
荻の葉よ、せめて露を落とさないでおくれ、
女の恋は露のように果敢ないのだから。
ああ、明け方、あの人の手枕で聴く松虫の声…すてき。

あえて秋の七草を読み込まないところが、粋か。


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tea breaku・海中百景
photo by 和尚
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