2023年のフランス映画「落下の解剖学」を観に行った。
ベストセラー作家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)は、夫・サミュエル
(サミュエル・タイス)と視覚障害のある11歳の息子・ダニエル(ミロ・
マシャド・グラネール)と人里離れた雪山の山荘で暮らしていたが、あ
る時ダニエルの悲鳴を聞く。血を流して倒れているサミュエルと取り乱
すダニエルを発見したサンドラは救助を要請するが、サミュエルは死亡。
ところが唯一現場にいたことや、前日に夫とけんかをしていたことなど
から、サンドラに夫殺害の容疑がかけられる。起訴されたサンドラは法
廷に立たされることになり、証人としてダニエルが召喚される。
第76回(2023年)カンヌ国際映画賞でパルム・ドールを受賞したミステ
リー。ミステリーというより、ミステリー仕立ての人間ドラマという感
じ。ドイツ人のベストセラー作家サンドラは、その日自宅で学生からイ
ンタビューを受けていた。しかし、屋根裏部屋のリフォームをしていた
夫のサミュエルが、大音量で音楽をかけ始める。サンドラは取材を中止
し、また別の機会にと学生を帰らせる。ここはサミュエルが生まれ育っ
たフランスの、人里離れた雪山の山荘。サンドラは、教師の仕事をしな
がら作家を目指すサミュエル、視覚障害のある11歳の息子ダニエル、
そして愛犬のスヌープの、家族3人と1匹で暮らしていた。
事件が発覚したのは、ダニエルがスヌープの散歩から戻った時だった。
ダニエルが、山荘のそばの雪の上で頭から血を流して横たわる父親を見
つけたのだ。ダニエルは「ママ!ママ!」と叫び、サンドラが2階から
降りてくるが、既にサミュエルの息は止まっていた。検視の結果、死因
は事故または第3者の殴打による損傷だと報告される。事故か自殺か他
殺か。他殺となれば状況から容疑者はサンドラしかいない。サンドラは
友人でもある弁護士のヴァンサン(スワン・アルロー)に連絡を取り、全
ては自分が昼寝をしていた間の出来事だと説明する。
サンドラは起訴されるが、ヴァンサンは「サミュエルは窓から落下して
物置の屋根に頭部をぶつけた」と申し立てることに決める。更に、窓枠
の位置の高さから、事故ではなく「自殺」だと主張するしかないと説明
する。しかし検事(アントワーヌ・レナルツ)はサンドラによる殺人を主
張する。裁判では検事が何としてでもサンドラを有罪にしようと躍起に
なっていたが、検事ってこういうものなんだろうな、と思った。
ダニエルは全く目が見えない訳ではないようだ。杖も使っていないしピ
アノも弾く。幼い頃父親と一緒に乗っていた車の事故で視力を失ってお
り、サミュエルはずっと後悔と罪悪感を抱いてきた。一応ミステリーだ
が、サミュエルの死因は最後までわからない。3階から落ちた事故なの
か自殺なのか殺人なのか。それを推理する映画ではないので、サンドラ
の裁判での結果ははっきりするものの、納得できない人もいるかもしれ
ない。裁判で弁護士のヴァンサンと検事が意見を戦わせる中、大変なも
のが出てきてしまう。サミュエルの死の前日、夫婦が激しく口論し殴り
合う音声が、サミュエルのUSBメモリーに残されていたのだ。
サンドラは窮地に立たされる。法廷シーンが長く、緊迫感が続く。夫婦
はお互いに色んな不満があったことがわかっていく。サミュエルはサン
ドラが有名作家なのに自分は作家になれないことにコンプレックスを抱
いていた。サンドラが1度浮気したことにも傷ついていた。自分はフラ
ンス人でフランスに住んでいるのに、フランス語が苦手なサンドラのた
めに夫婦の会話は英語であることにも不満を持っていた。サンドラがダ
ニエルと英語で話そうとするのも嫌だった。サンドラも収入の少ない夫
に不満を持っていた。
次第につまびらかにされていく夫婦の関係。タイトルの「解剖」という
のはもしかしたら司法解剖のことではなく、家族の不都合さが明らかに
なっていくことではないかと思った。サンドラがヴァンサンに「私は殺
してない」と言った時、ヴァンサンが「それは重要じゃない。君が人か
らどう見られるかだ」と言ったのが印象的だった。152分と長いが、長
さを感じないおもしろさだった。さすがパルム・ドール受賞作。犬のス
ヌープ(スヌーピーからもじったのだろうか)の演技も良かった。
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ベストセラー作家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)は、夫・サミュエル
(サミュエル・タイス)と視覚障害のある11歳の息子・ダニエル(ミロ・
マシャド・グラネール)と人里離れた雪山の山荘で暮らしていたが、あ
る時ダニエルの悲鳴を聞く。血を流して倒れているサミュエルと取り乱
すダニエルを発見したサンドラは救助を要請するが、サミュエルは死亡。
ところが唯一現場にいたことや、前日に夫とけんかをしていたことなど
から、サンドラに夫殺害の容疑がかけられる。起訴されたサンドラは法
廷に立たされることになり、証人としてダニエルが召喚される。
第76回(2023年)カンヌ国際映画賞でパルム・ドールを受賞したミステ
リー。ミステリーというより、ミステリー仕立ての人間ドラマという感
じ。ドイツ人のベストセラー作家サンドラは、その日自宅で学生からイ
ンタビューを受けていた。しかし、屋根裏部屋のリフォームをしていた
夫のサミュエルが、大音量で音楽をかけ始める。サンドラは取材を中止
し、また別の機会にと学生を帰らせる。ここはサミュエルが生まれ育っ
たフランスの、人里離れた雪山の山荘。サンドラは、教師の仕事をしな
がら作家を目指すサミュエル、視覚障害のある11歳の息子ダニエル、
そして愛犬のスヌープの、家族3人と1匹で暮らしていた。
事件が発覚したのは、ダニエルがスヌープの散歩から戻った時だった。
ダニエルが、山荘のそばの雪の上で頭から血を流して横たわる父親を見
つけたのだ。ダニエルは「ママ!ママ!」と叫び、サンドラが2階から
降りてくるが、既にサミュエルの息は止まっていた。検視の結果、死因
は事故または第3者の殴打による損傷だと報告される。事故か自殺か他
殺か。他殺となれば状況から容疑者はサンドラしかいない。サンドラは
友人でもある弁護士のヴァンサン(スワン・アルロー)に連絡を取り、全
ては自分が昼寝をしていた間の出来事だと説明する。
サンドラは起訴されるが、ヴァンサンは「サミュエルは窓から落下して
物置の屋根に頭部をぶつけた」と申し立てることに決める。更に、窓枠
の位置の高さから、事故ではなく「自殺」だと主張するしかないと説明
する。しかし検事(アントワーヌ・レナルツ)はサンドラによる殺人を主
張する。裁判では検事が何としてでもサンドラを有罪にしようと躍起に
なっていたが、検事ってこういうものなんだろうな、と思った。
ダニエルは全く目が見えない訳ではないようだ。杖も使っていないしピ
アノも弾く。幼い頃父親と一緒に乗っていた車の事故で視力を失ってお
り、サミュエルはずっと後悔と罪悪感を抱いてきた。一応ミステリーだ
が、サミュエルの死因は最後までわからない。3階から落ちた事故なの
か自殺なのか殺人なのか。それを推理する映画ではないので、サンドラ
の裁判での結果ははっきりするものの、納得できない人もいるかもしれ
ない。裁判で弁護士のヴァンサンと検事が意見を戦わせる中、大変なも
のが出てきてしまう。サミュエルの死の前日、夫婦が激しく口論し殴り
合う音声が、サミュエルのUSBメモリーに残されていたのだ。
サンドラは窮地に立たされる。法廷シーンが長く、緊迫感が続く。夫婦
はお互いに色んな不満があったことがわかっていく。サミュエルはサン
ドラが有名作家なのに自分は作家になれないことにコンプレックスを抱
いていた。サンドラが1度浮気したことにも傷ついていた。自分はフラ
ンス人でフランスに住んでいるのに、フランス語が苦手なサンドラのた
めに夫婦の会話は英語であることにも不満を持っていた。サンドラがダ
ニエルと英語で話そうとするのも嫌だった。サンドラも収入の少ない夫
に不満を持っていた。
次第につまびらかにされていく夫婦の関係。タイトルの「解剖」という
のはもしかしたら司法解剖のことではなく、家族の不都合さが明らかに
なっていくことではないかと思った。サンドラがヴァンサンに「私は殺
してない」と言った時、ヴァンサンが「それは重要じゃない。君が人か
らどう見られるかだ」と言ったのが印象的だった。152分と長いが、長
さを感じないおもしろさだった。さすがパルム・ドール受賞作。犬のス
ヌープ(スヌーピーからもじったのだろうか)の演技も良かった。
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