1990年の香港映画「欲望の翼」を観にいった。
1960年、香港。サッカー競技場の売店で売り子をするスー・リーチェン(マギー・
チャン)のところに、ヨディ(レスリー・チャン)という男がやってくる。「今夜、
夢で会おう」という言葉を残して彼は去っていく。彼は次の日も、また次の日も、
同じ時間にリーチェンの前に現れる。彼は彼女に1分間だけ彼の時計を見るように
言う。この日を境に彼らは毎日1分間を共にすることになり、それは2分間になり、
そして1時間を一緒に過ごすようになる。やがてヨディとの結婚を願うようになる
リーチェンに、彼はきっぱりとその意志がないことを告げる。ヨディの養母レベ
ッカ(レベッカ・パン)の経営するナイトクラブのダンサー、ミミ(カリーナ・ラウ
)は誘われるままにヨディの部屋に上がるが、そこにいつものように窓づたいにや
ってきたのがヨディの親友サブ(ジャッキー・チュン)。ミミがヨディの部屋を出
ると、彼が待っていた。名前を聞いただけで別れる2人だが、サブはもうすっかり
ミミの虜になっていた。降りしきる雨の夜、ミミと暮らすようになったヨディの
アパートのドアを警官タイド(アンディ・ラウ)がノックする。ヨディを訪ねてき
たリーチェンが部屋に入りかねて階段の下に座り込んでいたのだ。結婚しなくて
もいい、ヨディのそばにいたいと言うリーチェンに、ヨディは「今は良くてもい
つか君はきっと僕を嫌いになる」と言う。ミミの存在を知ったリーチェンは部屋
を飛び出してしまう。
ウォン・カーウァイ監督の大ヒット作。レスリー・チャン、マギー・チャン、ア
ンディ・ラウ、カリーナ・ラウ、ジャッキー・チュン、トニー・レオンといった
香港のスターが勢揃いした映画である(トニー・レオンはちょっとしか出ないが)。
私はレスリー・チャン主演映画の中でこれが1番好きで、何度も観ているのだが、
スクリーンで観るとまた違うものだ。リバイバル上映してくれて嬉しい。
暗い映画である。主人公のヨディは屈折した遊び人である。自分が養子だったこ
とを母に打ち明けられて以来、養母にもまだ見ぬ実母にも愛憎半ばの感情を抱い
ている。実母の居場所を教えてくれない養母に怒りながらも、養母と付き合って
いるチンピラを叩きのめしたりする。気持ちの置き場がないといった感じだ。自
分から近づいたリーチェンと付き合うようになり、彼女が一緒に暮らしたいと言
うとあっさりと承諾するが、結婚をする気はないと言ってリーチェンを傷つける。
そして今度はミミと付き合い出し、一緒に暮らす。いい加減な男だ。
リーチェンとミミはヨディが好き。警官タイドはリーチェンに想いを寄せている。
サブはミミのことが好き。けれどもヨディは誰のことも愛していないという複雑
で悲しい人間関係だ。雨のシーンが多く、登場人物たちの悲しさを増幅させてい
る。ミミがヨディの部屋を訪れて「いいとこに住んでるわね」と言うが、ちっと
もいい部屋には見えない。そういう時代だったんだなあと感じさせられる。日本
もきっと同じようなものだっただろう。
やがてヨディは養母から実母がフィリピンに住んでいることを聞き、フィリピン
へ向かう。そしてフィリピンの中国人街で今は警官を辞め船乗りになったタイド
と再会するのだが、この2人のエピソードも印象深い。お互いに覚えているのに
覚えていないふりをして一緒の時間を過ごすのだ。
ヨディのセリフに、「足のない鳥がいる。足のない鳥は飛び続け、疲れたら風の
中で眠る。そして生涯でただ1度地上に降りる、それが最期の時」というのがある。
小説からの引用らしいのだが、ヨディらしいと思った。彼は自分を足のない鳥に
たとえたが、自分の人生は所詮そんなものだろうとわかっていたのだろう。暗く
て切なくて悲しい物語である。
良かったらこちらもどうぞ。ウォン・カーウァイ監督作品です。
「天使の涙」
「花様年華」

映画レビューランキング

人気ブログランキング
1960年、香港。サッカー競技場の売店で売り子をするスー・リーチェン(マギー・
チャン)のところに、ヨディ(レスリー・チャン)という男がやってくる。「今夜、
夢で会おう」という言葉を残して彼は去っていく。彼は次の日も、また次の日も、
同じ時間にリーチェンの前に現れる。彼は彼女に1分間だけ彼の時計を見るように
言う。この日を境に彼らは毎日1分間を共にすることになり、それは2分間になり、
そして1時間を一緒に過ごすようになる。やがてヨディとの結婚を願うようになる
リーチェンに、彼はきっぱりとその意志がないことを告げる。ヨディの養母レベ
ッカ(レベッカ・パン)の経営するナイトクラブのダンサー、ミミ(カリーナ・ラウ
)は誘われるままにヨディの部屋に上がるが、そこにいつものように窓づたいにや
ってきたのがヨディの親友サブ(ジャッキー・チュン)。ミミがヨディの部屋を出
ると、彼が待っていた。名前を聞いただけで別れる2人だが、サブはもうすっかり
ミミの虜になっていた。降りしきる雨の夜、ミミと暮らすようになったヨディの
アパートのドアを警官タイド(アンディ・ラウ)がノックする。ヨディを訪ねてき
たリーチェンが部屋に入りかねて階段の下に座り込んでいたのだ。結婚しなくて
もいい、ヨディのそばにいたいと言うリーチェンに、ヨディは「今は良くてもい
つか君はきっと僕を嫌いになる」と言う。ミミの存在を知ったリーチェンは部屋
を飛び出してしまう。
ウォン・カーウァイ監督の大ヒット作。レスリー・チャン、マギー・チャン、ア
ンディ・ラウ、カリーナ・ラウ、ジャッキー・チュン、トニー・レオンといった
香港のスターが勢揃いした映画である(トニー・レオンはちょっとしか出ないが)。
私はレスリー・チャン主演映画の中でこれが1番好きで、何度も観ているのだが、
スクリーンで観るとまた違うものだ。リバイバル上映してくれて嬉しい。
暗い映画である。主人公のヨディは屈折した遊び人である。自分が養子だったこ
とを母に打ち明けられて以来、養母にもまだ見ぬ実母にも愛憎半ばの感情を抱い
ている。実母の居場所を教えてくれない養母に怒りながらも、養母と付き合って
いるチンピラを叩きのめしたりする。気持ちの置き場がないといった感じだ。自
分から近づいたリーチェンと付き合うようになり、彼女が一緒に暮らしたいと言
うとあっさりと承諾するが、結婚をする気はないと言ってリーチェンを傷つける。
そして今度はミミと付き合い出し、一緒に暮らす。いい加減な男だ。
リーチェンとミミはヨディが好き。警官タイドはリーチェンに想いを寄せている。
サブはミミのことが好き。けれどもヨディは誰のことも愛していないという複雑
で悲しい人間関係だ。雨のシーンが多く、登場人物たちの悲しさを増幅させてい
る。ミミがヨディの部屋を訪れて「いいとこに住んでるわね」と言うが、ちっと
もいい部屋には見えない。そういう時代だったんだなあと感じさせられる。日本
もきっと同じようなものだっただろう。
やがてヨディは養母から実母がフィリピンに住んでいることを聞き、フィリピン
へ向かう。そしてフィリピンの中国人街で今は警官を辞め船乗りになったタイド
と再会するのだが、この2人のエピソードも印象深い。お互いに覚えているのに
覚えていないふりをして一緒の時間を過ごすのだ。
ヨディのセリフに、「足のない鳥がいる。足のない鳥は飛び続け、疲れたら風の
中で眠る。そして生涯でただ1度地上に降りる、それが最期の時」というのがある。
小説からの引用らしいのだが、ヨディらしいと思った。彼は自分を足のない鳥に
たとえたが、自分の人生は所詮そんなものだろうとわかっていたのだろう。暗く
て切なくて悲しい物語である。
良かったらこちらもどうぞ。ウォン・カーウァイ監督作品です。
「天使の涙」
「花様年華」

映画レビューランキング

人気ブログランキング