晴れて退院の日、娘が車で迎えに来てくれた。昨夜から何か遠足にいく前夜のようにワクワクして気分が高まっていた。そうか、入院の夜もこれで最後か、病院のご飯もこれで最後、痛い思いもこれで最後、やさしい看護婦さんともこれで最後、パラダイスともこれで最後、パラダイスのバニーガールともこれで最後(これ、妄想)。なんだか病院の全てが愛おしくなるなぁ。もう少し居ようかなぁ。
久しぶりの家だ。カミサン、きっと喜ぶだろうな。ジロー猫も嬉しくってそこらじゅう走り回るんじゃないかなぁ。玄関のドアを開ける。カミサンが笑顔で迎えてくれる。「アナタ、オカエリナサイ…」涙の再会だなぁ。その横からジローが顔を出す。ゴロゴロ、ニャハハハハァァ~~~。あまりの嬉しさに壁を駆け上がるはカーテンに爪をたてるやら…ふふ、目に浮かぶよなぁ。
帰りの車の中から見る風景も懐かしいなぁ。狩野川のせせらぎ、天城峠の遠望、中伊豆から奥野ダムをとおり、荻経由で大室山だ。もうすぐ山焼きだよな。そして我が家のある伊豆高原へ。あぁ、涙が出るなぁ。いよいよ我が家だ…。感傷が高まり、目が潤み、期待が大きく膨れ上がる。
たかが二十日間余の入院なのに、なんか何十年ぶりにシャバに出てきたオトウサンみたいだね。
で、家に着き、玄関のドアを開ける。
「ただいまァ~~~~~」
家内、車椅子に乗った姿で迎えてくれた。
「オカエリナサイ…」
心配かけたね、もう大丈夫だよ…。
あれ、ジローは?ん?
(ダイニングのソファーの上でシカトしてる猫がいた)
ジロー、オトーサンだよ、ジロちゃ~~ん(思わず猫なで声になるのが悲しい)
ン?アンタダレ?オヤ、オマエカ、フン
すっごい態度で猫口から外へ出て行った。そりゃないだろオマエ・・・期待は大いに裏切られ、浮世の冷たさが身に染みた。
退院して何が変わったかというと。
ベッド生活が続いたせいか、足腰の筋肉がすっかりおちたようだ。退院後三~四日はヨロヨロと足取りが危なかった。でも体力は急速に回復していった。日常にもすぐに戻った。だが、気が弱くなった。何事もネガテイブ思考になってしまった。これでいいのかもね、老後はおとなしく穏やかに…静かに暮らせればそれでいいのよ。
と思っていたんだけど、本棚の隅に隠れたように納まっていた文庫本を手にとって、またもや不良団塊の惑いが疼いてきたのよ。不良と聞いてピンときた人は不良です。そう、あの不良中年(あの嵐山光三郎ね。ボクより四級先輩だから、そろそろ七十かな)、彼の著作の「不良中年は楽しい・講談社文庫」を読み返す。いちいちもっともだ、そのとーりーー!グレちゃへばいいのだ!
不良になろう!
やりたいことやらなくちゃ!
人生短いのよ!
あっという間に後期高齢者だかんね
あの妄想、またもやウズウズと…。お陰さまで酒量もボチボチ戻りつつあります。泣いたカラスがもう笑うのね。喉もと過ぎればなんとやらです。懲りない団塊の見本です。
同情や慰めやお見舞いを寄せていただいた皆様に改めて感謝です。
入院顛末記、今回で終わりね。ながらくご清読いただき、有難うございました。