名残雪の仕事で札幌出張となった。蒸し暑さで辟易していたから涼しい夏の北海道なら嬉しいね。
札幌は二年ぶりかなぁ。先輩のT兄と久し振りにススキノで会う事にした。宿泊先のホテルロビーに現れたT兄の姿を見て唖然!あの「北海道の高倉健」と言われてさんざ女を泣かせた?ダンディーが、見る影もなく太ってしまって…。177㎝の長身が太ったから迫力はあるが…。
せ、先輩!久し振り~!会えて良かったぁ~
「おぉ~来たか~!久し振りだなあ」
誰かと思ったですよ、その…あんまり肥えちゃって
「そうなんだよ、リタイアしてからは何せ動かないだろ、で、酒の量は変わらないから…・」
ゴルフは?
「ぜんぜ~ん…親父がさぁ、脳溢血で倒れちゃって…介護でそれどこじゃないんだわさ」
えっ?じゃ、うちとオンナジじゃないの。うちの親父も先月脳梗塞で倒れて…
「この年代になると、親は逝くかボケるか車イス…いろんなことがおこるよなぁ…」
久しぶりの邂逅だから、今夜は旨い肴で飲み明かそうよ
「じゃ、行こうか…」
まずは北海道生ビールでカンパ~イ!札幌で飲むビールって、なんでこんなに旨いのよ。
「肴、何にする?」
当然、蟹っしょ!それからプリプリのボタンエビね。ウニも…
「高いのばっかしだな」
なんの…先輩と札幌で飲むなんて、もうひょっとして無いかもしれないからさぁ、北海道の旨いものと美味い酒で思い切り楽しもうよ。
後タレの特選子羊の串焼きと…バタジャガも…あ、それから…
「よく食うねぇ…」
ビールの次は…焼酎にしよっか。銘柄は…「中々」これ旨い麦だよね。一本持ってきて!
北海の魚を次々に平らげ、ぐびぐびと酒を交わし、現業第一線の頃の武勇伝に話が弾む。
「じつはさぁ…昨日、半年に一回の検診だったんだ」
うん…
「まだ小さいんだけど…見つかったんだ」
そう…。で、どこに?
「食道…まだ小さいから、もう少し経過を見るんだそうだけど。」
食道なら手術じゃなくて、内視鏡でとれちゃうんじゃないの?
「そうなんだよ、まぁ、じたばたしても始まらないからなぁ、あれから五年も生きてるんだからお釣りみたいな人生だしな」
あの時…辛かったよ。雪の降る夜でさぁ、札幌中央病院のロビーで点滴引きずりながら俺を見送ってくれたよね。
曲がり角で振り向いたらさぁ、先輩、涙浮かべてずっと立ったままいつまでも俺を見送ってくれた…。あの時、正直、もう二度と会えないかと思ってたんだ。帰りの飛行機の中ではずっと酒飲みながら涙が止まらなかったっけ。
「肺癌だったからな…手術出来ないから放射線と薬だけの治療だし、俺もダメかと思ったよ。頭なんかつるっぱげになっちゃってさぁ」
それが、こうやってススキノで飲めるんだから…今夜は嬉しいなぁ。
笑ったり、涙を浮かべたり、呑み、食べ、肩を組み、ススキノの夜は更けていった。
深夜、ススキノの大通で固い握手をして別れる。
「じゃあな…元気でな」
先輩こそ…また飲めるよね!
「たぶん…な」
こちらのほうもいろいろと事情ありだし、こうやってススキノで飲むのも最後となるかと思うと別れが惜しい。
次の日は、名残雪の仕事を適当に片付け、18時42分のANAに乗るべく千歳空港へと急ぐ。この便に乗らないと伊豆高原には帰れない。滑り込みセーフで待合室に…。
あっ!お土産買ってない!のに気がついた。
いつぞや、ブログでの出張報告にチーママさんからコメントをいただいた。
「で、お土産は買ってきたんでしょうね」と、きつい一発。
不安と寂しい思いで待っている家内にお土産を買ってないじゃないか。蟹?さばくのも大変だし…ホタテ?どうもねェ。白い恋人のチョコ?ワンパターンだ…。
空港の売店にひと際大きな張り紙が。
「北海道限定!大人気!生キャラメル」
生キャラメル?生ビールなら判るけど、生キャラメルって?
ご夫人方が先を争って買っているじゃないか。なんか、おいしそうな…
で、お土産となったのが、この生キャラメルと特製プリンだ。これ、小さいのにお値段は結構張るんです。
千歳空港~羽田空港~バス~新横浜~熱海~伊豆高原
家に着いたのは11時を回っていた。もうとっくに眠っているはずだけど。
ただいまぁ!
家内、うっすらと目を開けている。起きていてくれたんだ!
「オカエリナサイ…」
あのさ、お土産あるんだけどさ、知ってる?生キャラメルって…すっごく美味しいんだって。ね、一粒食べてみない?
「ハヲミガイチャッタシ…ソレニ…オソイカラ」
たまにはいいじゃないか、ね、食べてみようよ。
包装をほどいてキャラメルを取り出し、家内の口に一粒を入れる
どう?おいしい?
「…オイシイ…トッテモ…オイシイ…コンナ…オイシイキャラメル…ハジメテ」
じゃ、僕も一粒
う~ん…うぅぅぅ…うまい
このキャラメル、ほんと、美味いよ~!
本当においしそうに生キャラメルを味わう家内の顔は幸せだった。