かわいいコケ ブログ I'm loving moss!

コケの魅力を広く知ってもらいたくて、情報発信中。
コケ、旅、山が好き。コケとコケにまつわる人やモノの記録です。

マイ タマゴケ クロニクル vol.1

2015-03-23 11:18:27 | コケをめぐる旅
顔に当たる風が気づけば驚くほど暖かくなっていて、
いよいよ春が来たと感じる今日この頃。

道端のちいさな草花や軒先の大きな木々もそれぞれに花を咲かせてにぎやかだが、
コケもご多分にもれず、ひそやかに(いやコケにとしては大々的に!だろう)春を迎えている。


登山や野山を歩くのが好きなコケ好きたちにとって、
この時季にもっとも気になるコケの一つが「タマゴケ」だろう。

「タマちゃん」の愛称がコケ好きの間ではもはや当たり前になっているほど
幅広い層から愛され続けているこのコケは、その名のとおり玉のような球形の群落を作る。
そしてこの時季になると、これまたまん丸な(サク)をつけ、
ひと目見たら忘れられないほどユニークで愛らしい表情を見せるのだ。

春になったらその姿を見ようと、タマゴケ愛好家の間では、
桜前線ならぬ「タマゴケ前線」の北上がこの時季の一大関心事。

かくいう私もタマちゃんファンの一人として桜の開花予報と一緒に
「タマゴケのが出ますよ予報」もニュースでやればいいのにとすら思っている。


欧米ではタマゴケのことを「Apple moss」という。
この時季の丸く膨らんだばかりの若いからその名がついたのだろう。

アメリカのコケ図鑑「Common Mosses of the Northeast and Appalachians」(Karl B. Mcknight,Joseph R. Rohrer,Kirsten Mcknight Ward, Warren J. Perdrizetら共著)
のタマゴケの頁では「若い時の明るい緑色の球形のは、小さなリンゴに似ている」と書かれている。



▲たしかにこの時季の若いは青りんごのよう。の上にちょこんとかぶさる蓋はリンゴの葉っぱに見えなくもない!?(東京都、4月初旬)

リンゴといえば日本人は赤色をイメージする人が大半と思うのだが、
青リンゴを連想するのがいかにも欧米らしい。



▲一方、日本のコケ好きは蓋が取れたあとのこちらのタマちゃんを「目玉おやじ」と呼ぶ。(三重県、4月中旬)


思い返せば、私のタマゴケとの初めての出会いは2008年、真夏の八ヶ岳であった。
コケは気になっていたものの「気になる」程度であったため、タマゴケの存在は知るはずもなく、
そのまん丸な姿をひと目見た時に「何これ!!!」と衝撃を受けたことを今も鮮明に覚えている。
そして下山後、すぐにコケ図鑑を買い求め、それ以来みるみるうちにコケにはまっていった。



▲(ややピンボケで見づらくてすみません)胞子体が球体の群落からツンツンと四方八方から出て、まるで緑の針山だ。(長野県、8月末)


いま見れば、このタマちゃん、すっかりが茶色くなって見頃はとうにすぎているのだが、
コケのことをよく知らなかった当時の私にとって「もしかしたらもしかするとこれは森の精霊かも…」と本気で思わせるほど、
じつに美しく神秘的なオーラをこのコケは放っており、非常にインパクトがあった。



▲若いが青リンゴなら、こちらの古いは焼きリンゴかも。


タマゴケは日本国内なら北海道から九州(ただし屋久島では見られないそうだ)の山地で見られるので、
いまもハイキングや登山でほうぼうの山を訪れるたびにタマちゃんチェックは欠かせない。

次回は、これまで出会ったタマちゃんたちについてさらに詳しく振り返ってみたい。

ミジンコゴケ(その2)-コケたちよ、もっとミクロであれ!-

2014-05-13 08:27:51 | コケをめぐる旅
ミジンコゴケを持ち帰り、まずは実体顕微鏡で観察。

  ※実体顕微鏡:対象物を切ったり、プレパラートに載せたりせず、そのままの状態で拡大する顕微鏡。
    倍率は数倍~40倍くらいまでの比較的低倍率。
 


おぉ、ルーペよりもはるかに1個1個の個体が明確に見える!
先ほどは糸こんにゃくのように見えていたものが、
今度はウミブドウのように見えてきた。


ミジンコゴケはムチゴケ科に属するコケである。

ムチゴケ科にはこの他に、ムチゴケ、コムチゴケ、フォーリームチゴケなど「~ムチゴケ」と名のつくコケ、
スギバゴケ、フォーリースギバゴケ、コスギバゴケなど「~スギバゴケ」と名のつくコケ、
さらには西表島にしか生育が確認されていない「テララゴケ」などがある。

~ムチゴケと名のつくコケたちは大型(数センチ~十数センチ)のものが多く、
日本全国の森や林でわりと見られるメジャー種。


▲フォーリームチゴケ。茎の長さは3~8センチ。鞭枝(べんし)と呼ばれるムチのような茎がブラブラと垂れ下がっているのが特徴。
(3月、屋久島)


また~スギバゴケと名のつくコケたちはムチゴケの仲間に比べて一見、
線が細いというか繊細な体のつくりをしているが、群落はわりと大きいのでそれなりに目立つ。
自分の経験上、ムチゴケが自然と目にとまるレベルの
コケ目になっていれば、ほどなくして見つけられるコケであろう。


▲こちらはフォーリースギバゴケ。茎の長さは10センチほどとけっこう長めだが、直径は0.5センチと細くて繊細(3月、屋久島)



▲さらにアップ。一見、葉がないように見えるが、茎と枝についているボコボコとしたものが葉である


極小のミジンコゴケがこれらのコケと同じ科に属しているなんて、なんだか不思議であるが、
顕微鏡でからだのつくりを見てみると、茎は這い、二又に枝分かれしているところなどはムチゴケのようだし
葉は非常に小さくて、一見ないかのように見えるあたりはスギバゴケのようで、
ミジンコレベルに小さいとはいえ、やはりこれもムチゴケ科のはしくれなのだと見て取れないことはない。


▲そしてこちらがミジンコゴケを生物顕微鏡(数百倍まで拡大できる高倍率顕微鏡)で見たところ。
 茎の長さわずか約5ミリ、幅は葉を含めて0.2~0.4ミリ。茎からちょぼちょぼと何か出かかっているように見えるのが、なんと葉っぱ!


▲さらに、そのミクロサイズの葉の先には透明細胞があるのが特徴


しかし、いくら大目に見たってミジンコゴケは他のムチゴケ科の仲間と比べたら、
小さいことはもとより、からだのつくりがシンプルすぎる。

茎はわかったが、数百倍に拡大して見ても葉がどうにも葉っぱっぽくない。
見れば見るほど緑の棒っきれからちょっと枝が伸びかけたという感じで
教えてもらわないと葉の存在にはとても気づけない。

ミジンコゴケの葉はもしかして、退化してこんなお粗末なことになってしまったのだろうか。

もしかしたらミジンコという名前のゆえんも、
いまにも消え入りそうなその存在感の薄さからきているのかしら。

そんな素朴な疑問を古木さんに伝えたところ、
いやはや、とんでもない答えが返ってきた。


「むしろ逆です!ミジンコゴケはムチゴケ科の中でもっとも進化した最新型モデルのコケなんですよ」

「エエェッ!?」(マスオさんよろしくのけぞる私)


ここからは、その時の古木さんの詳しいお話をリアルタイムで
聞き書きしたメモが手元に残っているので、それを簡単に要約する。

 注)とはいえ、あくまで自分のために整理した文章ですので意味がわかりにくい部分があるかも。
   また明らかに認識が間違っている個所などあれば、コケに詳しい有識者の方、ご指摘いただけると助かります。


・ムチゴケ科の中で逆に最も原始的なのはスギバゴケで、その次にムチゴケなのだそうだ。

・原始的なコケというのは直立性が多く、進化が進んだコケほど匍匐性(這うタイプ)になる。
 匍匐して地面に張り付いていると、直立しているよりも風を受けにくいため乾燥にも強い。
 乾燥に強いということは、乾燥しがちな土地にも広く進出できるということであり、
 たとえば都会の公園や庭先でよく見られるハイゴケ(蘚類)はそういった意味で進化が進んだコケと見てよい。

・また、コケとは進化しているものほど小型化する傾向もある。

・つまりものは考えようで、体が大きくない・葉も発達していないというのは一見デメリットのように思えるが、
 つまりはそれだけ「体の形成にエネルギーを使っていない、省エネタイプ」ということでもある。

・なおかつ、そんなシンプルな体でありながら、枝葉が発達した大型のコケたちと同じ場所に生きられるということは、
 それだけ、徹底的に無駄を省き、かつ機能的なボディを備えている証拠というわけである。


この話を聞くまで私は、小さなコケたちの中でも、
少しでも他のコケより大きく育って表面積をかせいだほうが、
コケとして勝ち組な生き方なのだろうと勝手に思っていた。

しかしコケの哲学はこれとは真逆で、面積をかせぐ云々よりも、
より小さくシンプルであること、エネルギーを無駄遣いしないことをよしとし、
それこそがコケたちが求める「スマート」な生き方、「進化」と呼ぶにふさわしい生き方ということなのだ。

うーむ、なんだかまるで機能性・小型化をカッコ良しとする日本の電化製品のようではないか!?


私はミジンコゴケのことをすっかり誤解していたようだ。

ミジンコゴケはまさにミクロでなんぼのコケ界の看板をしょって立つ、
コケ界きっての牽引役なのではないか!

いやはや、ミジンコゴケさん、おみそれしました。

それにひきかえ、コケに魅せられたはしくれながら、
面積での陣取り合戦をとやかく言っているワタクシの脳は
しょせん、まだまだフツーの植物サイズでございます・・・。

他の植物に比べて、すでにじゅうぶん小さいにもかかわらず、
まだまだ小さく、より隙間、隙間へ向かおうとしているコケ。

コケの考えていることは底が知れない。

その奥深さに気が遠くなりながらも、
これからもますます心惹かれてしまうことになりそうだ。


▲シダの前葉体と一緒に生えていたミジンコゴケ(3月、屋久島)






ミジンコゴケ(その1) -意外とあっけない出会い-

2014-05-07 14:08:17 | コケをめぐる旅

▲スギの木の根元。いったい何を写してるの?!とツッコミたくなるショットではありますが・・・しかしヤツはここにいる!

遅まきながら屋久島コケフォレーレポートのつづき。

屋久島コケフォレー3日目は、
今回のコケ合宿で最も衝撃を受けた一日であった。

コケフォレーは毎日午前中は島内の異なる環境へ出向き、
それぞれの環境特有のコケを見て回る。

ご存じの方も多いと思うが、屋久島は九州本土の南に浮かぶ外周約130㎞ほどの島で、
レンタカーを借りれば3時間程度で1周できる。

しかし地形は決して平たんではなく、島の内陸には
九州一の高さを誇る宮之浦岳(1,936m)をはじめ、1800m級の険しい山々が連なる。

南にあるためつい温暖な気候をイメージしてしまうが、
冬は標高の高い場所では雪が降り積もるほど。
そのような地形的特徴から屋久島は「洋上のアルプス」の異名を持つ。

小さな島に標高の高い山々が連なるということは、
つまり海辺から内陸に向けて急激に環境が変わっていくということでもある。

屋久島では海岸付近の低地は亜熱帯性の森が広がり、
少し上がって標高1,000mあたりまでは冷温帯性で
東北から九州までの暖温帯に生えている照葉樹林が見られる。

さらに登り進めば「屋久杉」をはじめとする針葉樹の森が陣取り、
標高1,800mを越えた山頂付近になると亜高山帯の植生が広がる。

この標高差における植生の違いは小さなコケについてもまたしかり。

亜熱帯性の森と亜高山帯の森では、
見られるコケの種類がまったく異なってくる。

そういった意味でも、屋久島はひとたび訪れれば
九州から北海道までコケトリップができたような気分になれる、
とってもおトクな島なのである。


▲環境省「日本の自然遺産」より抜粋


さて、前置きが長くなってしまったが、コケフォレー3日目に
私たちが訪れたのは標高460mほどに位置する渓谷だった。

今回は苔類を専門に研究されている古木達郎さんが講師ということで、
あそこにもここにもキラキラと輝く蘚類の誘惑はあれど、それらをすべて振り切って
「今回は苔類のみに集中するぞ!」とひそかに決意する。

古木さんは(前の記事にも書いたが)素人の質問にも常に真摯に答えてくださる方で、さらには
「せっかく屋久島まで来たのですから、もし見たい苔類があったら言ってくれれば探しましょう」
とまでおっしゃってくださる。

もちろん社交辞令だったのかもしれないが、そのひとことにちゃっかり乗っかった私は、
「今日の観察地で、このコケは見られますか?もしいれば見たいのですが…」
と毎日のようにリクエストを出すシマツ。

その一つが、図鑑で見てひと目で心奪われた「ミジンコゴケ」なのだった。


そう、名前に「ミジンコ」などとついているのだ。

ただでさえ小さいコケ、そのなかでもとりわけ小型な種類が多い苔類、
さらに日本に600種類ほどいるその苔類の中において
「ミジンコ」の名を冠するコケとなれば、これはぜひとも見てみたい。

しかも平凡社のコケ図鑑によれば生育地域が「鹿児島県~琉球、小笠原」とある。
つまり屋久島はエリア内であるが、地元・関西に帰ってからではどんなに見たくても見られないということ。

このチャンス、生かさずしてどうする!?

厚かましい私のミジンコゴケリクエストにも快諾してくださった古木さんは、
「いるところにはいるんですよ。スギやヘゴの木の根元、根元と土中間の辺りのね、少し暗くて湿りかけたような所にね」
と言いながら、ずんずんと渓谷の奥へ入っていかれる。

それを追っかける私と同じくミジンコゴケに興味津々のコケ好き数名。

(図鑑によれば茎の長さは約5㎜、幅はたった0.2~0.4㎜。そのようなミクロなコケ、いくら古木さんでも見つけられるのだろうか・・・)

すこし不安になりながら古木さんの背中を追いかける。
いくらなんでもそんなすぐには見つからないだろうと高をくくっていた矢先・・・

「あ、ここにいますね~」

とあっさりおっしゃる古木さん。

「えっ(早っ!) ミジンコゴケ、そこにいるんですか?!」



▲「はい、ここです」とスギの根元を指をさす古木さん

あわてて駆け寄るが、どこにいるんだか私にはさっぱり見えない。

「す、すみません、どこでしょう…(汗)」

「ここです、ここ。いや~、けっこうな大群落だな~」

と言ってミジンコゴケがついた樹皮の一部を手渡してくださる。


▲ちっちゃ!緑のモヤモヤは見えるが、小さすぎて形がよくわからない


そこでルーペでよく見てみると・・・







絡み合うように生い茂る透明感のある美しき緑色。
そしてルーペで見てもやはり茎と葉の区別がよくわからない。
なんだか頼りなげで、緑色の糸こんにゃくのようにも見える。

こ、これもコケなのか・・・。

「適した環境を探せばいる所にはいるコケですが、ここまで大きな群落は珍しいですね」

と古木さん。

自分が想像していたよりも小さく、そしてあまりに簡素なつくりに驚きつつ、
この樹皮の破片を持ち帰り、顕微鏡で観察することにする。 (つづく)



屋久島コケフォレー2014備忘録。ツノゴケ3種類の見比べ

2014-04-10 13:36:42 | コケをめぐる旅

▲ニワツノゴケ(2014.3月 屋久島にて)

すっかり遅ればせになってしまったが、3月2~6日に開催された
屋久島コケフォレーの記録をぼちぼち書いていこうと思う。

このイベントは日本蘚苔類学会主催で、
「フォレー(foray)」とはいわゆる〝採集会〟のこと。
つまり、屋久島のコケ採集会ということになる。

しかし、この会の主な参加対象は、
「野外でのコケ植物観察と顕微鏡を使用したコケ同定法を学びたい方」
とされており、事実、参加者の多くは、コケに興味がある初心者・中級者、
または植物学を専攻中の学生さんで、コケを採集したくてたまらない!というよりは
「いろんなコケを見てみたい」、「顕微鏡で正しく同定をしてみたい」、
「第一線で活躍されている研究者の話を聞きたい」という目的で参加している人の方が多い印象を受けた。

今年は去年に引き続き屋久島での開催で、
テーマは「屋久島のタイ類をわかる」。

苔類(タイ類)を専門に研究されてきた
千葉県立博物館の古木達郎さんを講師に迎えての会だった。


苔類については、実は自分も色々と思うところがあって、
今回のフォレーには絶対参加せねば!と思っていた。

とういうのも、苔類は・・・

①ゼニゴケ、ジャゴケなど誰の目にもつきやすい大型な種類がいる一方で、
 肉眼ではなかなか認められないようなミクロサイズのものも非常に多い。
 そもそもどうやって見つけたらいいのか?コツはあるのか?

②蘚類とはまた別の独特の専門用語が多いため、図鑑を読んでも意味が理解できない。
  (これは私が素人ゆえのことかもしれないのだが)

③そんなわけで、似た種類を見つけても、同じものなのか別種なのか判別できず、
 同定の途中でつまづく・・・というか挫折してしまい、常にモヤモヤ・・・。

というような、いかんともしがたいハードルがあり、私の中ではここ数年、
〝苔類フラストレーション〟みたいなものが常に渦巻いていたのだ。

そもそも苔類専門の研究者というのが、業界全体を見ても少ないということも一因にあるのかもしれない。
つまり、苔類の情報を得るチャンスが非常に少ないのだ。

過去数年の自分の参加した観察会やシンポジウムを思い返すも、
苔類に的を絞った詳しい話が聞けたことはほとんどないように記憶している。

それこそ、日本蘚苔類学会と国立科学博物館共催のイベント
古木さんからレクチャーを受けたことがあるくらいである。

  ※ちなみに、今年も↑このイベント↑が5/24(土)に東京・上野で開催されるとのこと(応募締切は5/5)。詳細はこちらへ。


そんなわけでたまりにたまった数年分の苔類フラストレーションを抱えて屋久島へ渡った私は、
会期中ほぼ毎日、隙を見ては古木さんを質問攻めの刑(どんな罰ゲームだ…)に遭わせてしまった。

質問リストを持参しての質問に次ぐ、質問。
無我夢中のしつこさで、いま思い返すもお恥ずかしい限り・・・。
まったく反省ザルである。

しかしながら、そんな超しつこい質問攻めをくらわされながらも、
早朝でも深夜でも嫌な顔一つせず、常に真摯に丁寧に素人の質問に答えてくださった古木さん。

はっきりいってあの時の私には、古木さんが神様か仏様のように見えましたヨ(いや、ほんまに)。

おかげさまでワタクシ、苔類ラビリンスから無事抜け出すことができ、
いままで「なんかわからん、苔類…」だったのが、「苔類って、実はおもしろい!」と
確実に苔類への見方・興味が変わったと思います。

改めて古木達郎さん、そしてこういう貴重な会を企画してくださった
岡山理科大の西村直樹さんにお礼申し上げます。


さてさて、思いの丈を綴っていたらすっかり長文になってしまったが・・・。

屋久島コケフォレーでは、苔類への長年の疑問が
諸々解決したことはもちろん、今回もさまざまなコケと出会うことができた。

古木さんはもとより、苔類に詳しいMさんやTさん、
現地ガイドのOさんやYさん、京都の若手のOくん、
いろんな方が「ここに面白いコケがいるよ」
「あそこにも珍しいコケがいるよ」と教えてくださり、
そのおかげで自分だけでは決して見つけられない面々ともご対面することができた。


▲今回も、屋久島の各地でコケ観察ができた。

たとえば、ツノゴケ類もその一つ。

ツノゴケ類は蘚類・苔類と共に「コケ植物」を形成する1つのグループだが、
蘚類が日本に約1100種類、苔類が約600種類いるのに対し、
ツノゴケ類はたった17種類しか確認されていないという非常に少数派グループだ。
いまでこそ独立したグループであるが、それこそ20世紀の中頃までは苔類グループの中に収められていたという。

生育地は低地にある公園や庭、畑などの土上と、わりと人間の生活圏内なのだが、
なにせツノ(胞子体)が出ていないとコケ研究者でも見つけにくいというクセモノで、
自分も今思い出せるだけで、ツノゴケに会えたのは6、7回くらいか・・・。

しかしながら、さすが優れたコケ目を持つ方々が集うコケフォレー、
会期中のある日には、ツノゴケがなんと3種類も一堂に会すというめったにないことが起きた。

そもそも出会うこと自体が難しいので、
ましてや見比べができるなんて初めての経験だった。


▲メモに書かれている特徴があるかどうか、ルーペや顕微鏡で実際に確認することができた

ちなみにツノゴケ類は胞子体がツノ状なのに加え、
体内(葉状体)に藍藻類が共生しているのも大きな特徴である。

古木さんのよると、藍藻類は運動性のあるもので、自分からコケの中に入り込むらしい。
藍藻類はコケの中に入ることで安全な住みかや水分を獲得し、
コケは藍藻類から生育に必要な(窒素固定をした)アンモニアを受け取るため、
双方にメリットがあり、共生関係が成り立っているらしい。

なお、このように体内に藍藻が共生しているのはこのツノゴケ類と、
苔類のウスバゼニゴケ科(ウスバゼニゴケとシャクシゴケの2種類)のみであるという。

【告知1】11/16(土)-17(日)奥入瀬渓流へコケトリップにご一緒しませんか?

2013-10-20 14:24:48 | コケをめぐる旅


Spore! Spore! Spore! (胞子!胞子!胞子!)

暑くなったり寒くなったり、台風がきたりと忙しない天候の今日この頃。
しかし秋は確実にやってきていて、つい先週まで東京はキンモクセイが真っ盛り。
また、我が家のベランダのミセバヤも今週からささやかながら花をつけてくれて、見るたびに心が和む。

そして、そして、もちろんコケたちも!

コケの多くの種類は春か秋に胞子体をつけて見頃の季節を迎える。
さらに種類によっては無性芽をつけたり、紅葉したりと、
各種個性豊かに華々しい(コケだからコケコケしい?!)姿を私たちに見せてくれる。

というわけで、当の私もコケ好きの御多分にもれず、ついついテンションが上がってしまい、
spore! spore! spore! と叫びながら(心の中でね!)、コケの秋到来に胸躍らせているわけである。

さらに嬉しいことに、この秋はいつにもまして胞子活動が盛んになる予定。そう、コケの胞子のみならず。

順々にお知らせしていきたいと思います。

まず今日はその一つ目から。


●11/16(土)発 コケはともだち -奥入瀬渓流へコケトリップ-

箱根に続く風の旅行社主催のコケイベント第2弾です。
ついに関東を出て「東北の隠花帝国」と名高い青森県・奥入瀬渓流へ1泊2日のコケトリップへ!

奥入瀬渓流といえばもともとは紅葉の名所として有名ですが、
実は200種類以上ものコケが生育している東北有数のコケの名所なのです。

しかも渓流のそばまでは車で行けて、さらに林道も緩やかなのでハイキング感覚で原生林を歩きながら
コケを楽しめるという、コケ好きにとっては非常にありがたいロケーション。

青森県といえば豪雪のイメージが強いせいか、「11月ならもう雪が積もっちゃってるんじゃ…」という声をよく聞きますが、
例年の奥入瀬では紅葉がまだ残っている時期なので、コケの緑と紅葉の赤のコントラストが美しい景色も期待できますヨ!
 
  ※もちろん朝晩は冷え込むので防寒対策はお忘れなく!

では、11月の奥入瀬の様子を一部ご紹介しましょう(撮影は2012年)。



▲昨年11月の奥入瀬渓流。渓流のせせらぎを聴きながらのんびりコケ観察中の人が…(写真右)



▲天然のコケテーブル。人間の休憩用として設置されたものですが、いまではすっかりコケが占領中。


▲でも私たちコケを観察する者にとっては、しゃがまずともコケが見れるうってつけのコケスポットでもあります。



▲渓流そばの巨石にはコケがびっしり。


▲その屋主はエビゴケさん。



▲原生林の足元にたたずむホウオウゴケは、落ち葉に埋もれないように高さのある石に着生。これもコケならではの処世術。


▲カツラの落ち葉。香りはキャラメルのように甘く、去年はコケを見つつも嗅覚はこの落ち葉に釘付けでした。


さらにコケだけではない、ミステリアスな一面も持つ奥入瀬隠花帝国・・・


▲この巨岩はなんだ!?


▲雨の雫を利用して胞子をまき散らすエイリアン襲来





▲しばしば地面に突如現れるアーティスティックな謎の物体・・・



▲原始時代を思わせる奥入瀬隠花帝国の風景。



▲都会ではなかなか見られないビッグサイズのシダも。


ガイドは私と現地でご活躍のネイチャーガイド・河井大輔さんが務めます。
そしておまけ情報ですが、宿泊先はあの星野リゾートという豪華版!(のわりにはお手ごろ価格になるよう関係者の皆様にはがんばってもらいましたっ)


ご一緒にゆったりのんびり秋のコケを奥入瀬で楽しみませんか?

申し込みはすでに始まっています。
もう何人かお申し込みがあったようなので、
ご興味のある方はお早めにどうぞ!

各地からのご参加をお待ちしています。


✩お申込みはこちらから → 風の旅行社


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●おまけ

実は今月初め、ひと足早くコケの秋を感じに北海道に行ってきました。
そのレポートはまた後日ゆっくりと。


▲はじめてのカヌー体験(北海道・阿寒湖にて)

2013夏、コケ学会の思い出 & 【コケ情報】樋口正信さんのコケラジオ

2013-08-31 21:37:59 | コケをめぐる旅

▲岡山県倉敷にてコケ観察(8月)


前回に続き、8月5~7日に岡山で開催された
第42回 日本蘚苔類学会(年に1度のコケの学会)についてのレポート。

初日の5日は午後に岡山県倉敷駅前に集合。
蟲文庫・田中美穂さんの「苔とあるく」でもおなじみの鶴形山公園でのコケ観察会から始まった。

ちなみに今回の大会参加者は全体で100人を超える大所帯だったそうなのだが、
どのタイミングで参加するかは各会員の自由となっている。

学会発表(コケ研究者の皆様による各々の研究発表)以外に、
このような観察会は「オプションツアー」となっていて、希望者のみが参加するシステムだ。



▲10数人とほどよい人数でコケ観察。講師は蟲文庫の田中さんと、とくに苔類にお詳しいTさん。いやー、贅沢でした!

それにしても岡山は暑かった。そして鶴形山には西日本ではおなじみのクマゼミがめっぽう多かった。

途中、コケに夢中になるあまり、下を向いたまま茂みの中に入ったところ、
その衝撃に驚いてパニック状態で飛び回るクマゼミ4~5匹と不運にも正面衝突。
東京では考えられないセミアクシデントに、コケ観察どころではない場面も・・・。

クマゼミといえばその激しい鳴き声が特徴なので
鳴き声がする木は避けて通っていたつもりだったのだが、
そういえばメスは鳴かないのだよね。



▲クマゼミたちよ、おだやかな暮らしを邪魔してごめん・・・
 


そして学会2日目の6日、この日は岡山理科大学にて、
朝から夕方までコケ研究者の皆さんによる研究発表会が行われた。

日本蘚苔類学会が太っ腹だなーと常々思うのは、私のようなただのコケ好きでも、
純粋にコケに興味のある人になら常に広く門を開いておくというその姿勢である。

今回のような日本のコケ研究者の大御所から若手までが一堂に集まる
たった年に一度の貴重な研究発表会も上記のような理由から、
ありがいことに私みたいな者でも自由に視聴できる。

もちろん、専門的なこととなると素人の私ではわからないことだらけになるのだが、
中には一般人が普段よく見かける身近な種類のコケをテーマに研究されている方もいて、
そういった方の発表はとりわけ興味深く聞くことができる。

今回はとくにSさんのゼニゴケの雄株と雌株が数メートル離れているにもかかわらず、
きちんと受精し胞子体をつけるメカニズムについて今までの一般論とはまた別に
新たな仮説を立て、実証された研究発表が私の中ではとっても印象深かった。



また、大会会場の一角には、こんなあやしい3人組も・・・



▲ソファのコケを観察中!? 


いやいや、あやしい者ではありません。
というかヤラセです(笑)

実はMOSS-Tプロジェクトのコケ画Tシャツを大会会場に着てきてくださっている方が何人もいて、
ちょうど近くにいらっしゃった人のいいMさんとIさんをひっつかまえて、
「Just looking for the MOSSES!」のポージングをしてもらったのだった。

 ※ちなみに右端は私で、撮影はMOSS-Tプロジェクトの相方M女史。

Mさん、Iさん、あの時は私たちのわがままを聞いて下さり、ありがとうございました。


さらに同日にコケの愛好会である岡山コケの会との共催企画で開催された
「コケを楽しむ I LOVE mosses!」展もとても見応えがあった。

このイベントは岡山コケの会の会員を中心としたコケ好きが、
手製のコケグッズやコケ写真を持ち寄って展示するというもの。


▲所狭しと並べられたコケグッズたち。茨城県自然博物館のコケ展で大人気だったコケ帽もありました!



▲お恥ずかしながら私も出展。手前のスケッチブックは、普段コケを眺めてて気がついたこと、小さな発見などをイラストと文字にして書き留めたもの


学生さんからアラ還世代(もしくはその上も?!)まで幅広いコケ好きの皆様による、各種コケグッズ。
写真集あり、フォト句集あり、手芸品、絵画、アート本、ハイゴケを詰めた手製クッションなどなど、
いや~、面白いアイデアがたくさんあって、本当に時間が足りないくらい充実のラインナップだった。

中でも私がもっとも心ときめいたのは、関西から参加されたTさんの作品。
Tさんからブログ掲載許可を得たので、この場でご紹介したい。



▲3枚のコケの写真の前に、陶芸作品が3つ。


それぞれをアップで見てみると・・・


▲なんとゼニゴケのからだにあるカップ型の無性芽器(無性芽をためておく入れ物)を模した蓋物だった!



▲こちらはケチョウチンゴケの葉の1枚を模した小皿。コケの細胞と中肋までみごとに再現されている



▲さらにこちらはジャゴケの葉状体を模した小皿。蛇模様はもちろんのこと先端部分の成長点も忘れていません


コケを見ていて、コケ器にコケ小皿を思いつくこの発想力。すばらしすぎます。

そしてなんともおしゃれなんだよね。
コケ本来の美しさがこのお皿から伝わってくる。

あぁ、こんな器、わが家にもほしいなぁ。
こんなお皿で料理を食べながら、コケ好きたちとコケ話ができたら楽しいだろうなぁ。。。なぁ~。。。。(このあと、しばし妄想の世界へ)


そんなこんなで今回も充実の3日間。
ご一緒しました皆様、大会を取り仕切ってくださった岡山の皆様、本当にありがとうございました。


 

 
▲上段:(左)観察会のあとの懇親会。女子たちは飲みつつも顕微鏡でコケを覗く (右)Kさんが自家栽培された立派なオオカサゴケ
 下段:(左・右)3日目のオプションツアー。石灰岩地の渓谷にてコケ観察中


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話は変わりますが、最後にコケ情報をば。

コケ研究者で国立科学博物館所属の樋口正信さん(注:とってもダンディー)が、ラジオ番組にご出演されます。
すでに放送日を過ぎたものもありますが、近々では明日9/1、明後日9/2と続けてご出演があるので、
コケにご興味のある方はぜひお聞き逃しなく!(私も聞かねば♪)。

◇TBSラジオ
番組名:環境プロジェクト「今日よりちょっといい、明日を」

(放送月日・時間・出演テーマ)
平成25年8月25日(日)5時15分~5時24分 「コケってどんな生き物?」
平成25年9月 1日(日)5時15分~5時24分 「コケってどんな生き物?その2」
平成25年9月 8日(日)5時15分~5時24分 「コケを通しての自然保護活動」
平成25年9月15日(日)5時15分~5時24分 「コケを楽しむヒント」


◆文化放送
番組名:いとうせいこう GREEN FESTA

(放送月日・時間出演テーマ)
平成25年 9月 2日(月)20時~20 時30分 いとうせいこうの知らないコーナー
平成25年 9月13日(金)20時~20 時30分 いとうせいこうの知らないコーナー


エレガントすぎる!ホンシノブゴケ

2013-08-22 23:43:48 | コケをめぐる旅

▲ホンシノブゴケ(2013.8月 岡山県)

残暑お見舞い申し上げます。

あっという間にもう8月も後半、
東京は朝晩がだいぶ涼しくなってきて、
少しずつ季節が移り変わっているのを感じています。

皆さんはお盆休みはどのように過ごされましたか?
私はお盆休みの数日間はまるまる夫の実家へ行っていました。

しかし休みに入る一日前、私の方の実家の祖父、祖母、父が揃って夢に出てきてくれて。
さらになぜか今も生きている母、弟、そして私までも登場。いつぶりだろう、久々のF家一堂勢揃い。

こんな夢が見れるのもやっぱりお盆の成せる技??
目が覚めたとき、なんとも嬉しい気持ちになった。

いま思い返しても贅沢な夢でした。


さて8月5~7日に行われた日本蘚苔類学会第42回・岡山大会について、
印象に残ったことを忘れないうちに書き留めておこう。

順序が逆になるけれど、今回一番心ときめいたコケを見たのは大会3日目のフィールドワークでのこと。
岡山県の内陸部、少し広島県よりの石灰岩台地が浸食してできた渓谷で見た「ホンシノブゴケ」だ。

教えてくれたのは岡山在住のKさん。

Kさん「上流の方にすっごくきれいなコケがありますよ」

私「へー、なんていうコケですか?」

Kさん「ホンシノブゴケって言うんですけど、普通のシノブゴケと違って茎に対して放射状に枝が伸びるので
    フワフワと立体的な群落を作っているから、行けばすぐわかるはず」

そうは言われたもののこの時点では、正直、「シノブゴケの仲間か、ふーん」くらいに思っていたのだ。
ある程度のシノブゴケの仲間は、関東をはじめいままで各地でさんざん見てきていたから。

しかし! 実際にご本人に対面するやいなや、一瞬でズキューン! ←(ハートが貫かれた音です)

「なんてエレガント!!」

それはもう心ときめいたこと、ときめいたこと。

結局、観察時間の1/3はこのコケを見ていた(というか見とれていた)といっても過言ではない。
それくらい心をわしづかみにされてしまう美しさだった。



▲半日陰の山地の斜面に突如現れたフワフワ、モコモコ。ホンシノブゴケの群落だ。たしかにシノブゴケの仲間にしてはえらく立体的だ



▲さらに寄ってみる。わわ、一本一本が長くて大きいなぁ。そして緑色がなんとも優しく明るいなぁ



▲ふー、なんとお美しい! 大型だけど作りは繊細。地面に垂直方向にひょろ長い枝が出ていて、全体的に放射状に枝がついている


ちなみに私がこのホンシノブゴケ群落に行き着いたときに、すでに先に観察されていたAさんによると、
「石灰岩地によく生えているコケですが、どちらかというと石灰岩地に直に生えるのではなく、その付近に生えたがるコケ」とのこと。

また、すぐ近くには普通のトヤマシノブゴケ(※)もいたので、両者を比較してみた。

  ※トヤマシノブゴケって言いきってよいかわからないけど。もしくはヒメシノブゴケあたりか。ここではひとまずトヤマシノブゴケで通します。



▲ホンシノブゴケ



▲トヤマシノブゴケ



▲はい、もいっかいホンシノブゴケ


ち・・・ちがう。

なんて言うんでしょう、トヤマシノブゴケが「大和撫子」なら、
ホンシノブゴケは「ロシア美人」って感じだろうか。
エレガントでありながら、なんともダイナミック!

  ※ちなみにトヤマシノブゴケもホンシノブゴケも分布範囲が日本・朝鮮・中国・極東ロシアであることからこの例えにしてみた!

シノブゴケの仲間はもともとシダ類の「シノブ」に似ていてることからその名があり、
どの種類も「繊細な作りでレース編みのよう」と称される美しいコケの一種ではあるのだけども。

コケ界の美容番長と(私が勝手に)名付けていたトヤマシノブゴケも、
ホンシノブゴケ様の迫力の前には姿が霞むなぁ。



▲ほら、大きさもこんなに違うのです(右:ホンシノブゴケ、左:トヤマシノブゴケ)



▲トヤマシノブゴケのアップ。「今日の私はちょっと乾燥気味なの。本来の美しさはまだまだこんなもんじゃないわ」と弁解が聞こえてきそう


ホンシノブゴケ様のその美貌の秘密は、
やはり放射状に枝が出ている点にあるだろう。



▲トヤマシノブゴケ。枝葉が地面に対して平行につき、平べったい



▲ホンシノブゴケ。茎に対して枝が放射状についているため、地面から立ち上がるように生える。葉はわりと少なそう。
 地面に垂直に向かって生える枝はひょろっと細長くムチゴケの鞭枝のようだ


大型なコケであること、石灰岩地の近くにあること、放射状に枝が出ていて立体的な群落を作っていること、
このあたりを覚えておけば、今後もホンシノブゴケ様と出会える確立は高まりそうだ。


●おまけ


▲「あ、もしよかったら私とかもここにいますんで~」的にトヤマシノブゴケの間から顔を出すアツブサゴケさん

キヨスミイトゴケのひそかなる家移り

2013-07-04 15:02:47 | コケをめぐる旅



「渓谷の樹木から垂れ下がる」

と聞けば、コケ図鑑を手に、それこそ渓谷沿いの林を
散策をしたことがある人ならば、きっとピンとくるはず。

そう、それは「キヨスミイトゴケ」(もしくはイトゴケ)の枕詞。

この言葉を聞けば、谷間に流れる川沿いで、
大きな木々の枝からぶらりと垂れ下がり、
涼しげに風にそよぐキヨさんの姿が目に浮かぶ。


しかし! キヨさんに近況を聞いてみると・・・・

「そんな時代もあったわね(フッ)」

なんていう答えが返ってくるかもしれない(や、あくまで私の妄想ですよ)。

というのも、今年に入って早3回、
思わぬところでキヨさんと出くわしているのである。

それは渓谷でもなければ、大木の枝でもない。

こんなところなのだ。



▲静岡県・伊豆(2月)


▲宮崎県(3月)


▲東京都(6月)


いずれも渓谷沿いではない、大木でもない、
そして人がよく通る場所にあるサツキの茂みばかり。

なんでまぁこんなところにいるんでしょう!?


最初の通報は、今年の1月頃。
静岡に住んでおられるコケ友Tさんからだった。

「図鑑で紹介されているのと違う、ちょっと変わった場所にキヨさんが生えてるんですよ」

その場所は静岡県内にある某旅館のお庭とのこと。

さて、行ってみますと・・・


▲一見、なんのへんてつもない歩道とその右にはサツキの茂み。

このサツキの茂みを正面から見ると・・・


▲キヨさんが垂れ下がりまくっている!


▲さらに近寄ってみる


キヨスミイトゴケは少なくとも乾燥した場所ではなく、
常に湿度が高めの場所がお好みのはず。

ただ、この庭の裏手には小さな山があり、
山と庭の境界となる斜面には小さな滝が流れている。

この滝の湿気が下手にある庭に降りてきて、
ツツジの茂み一帯を潤しているのだろうと推察。

それにしてもこれをコケと知らないと、
ツツジのお化けと気持ち悪がる人もいるかもね、
とTさんとひと笑いしたのだった。


それからしばらくのちのこと。

今度は、九州のコケ友Mさんとのメールのやり取りの中で、
「こんなところにキヨスミイトゴケがいて驚いた」と静岡での一件の話をしたら、
「実は私の身近にも似たようなキヨさんがいますよ!」とのお返事。

そこで3月に現地へ行く機会を得て、その場所に連れて行ってもらったところ・・・




▲さらに近寄ってみる

今回は人家の敷地内にある生垣のサツキ。

(写真には写っていないけれど)道を挟んだ向こうには池があり、
池の周りのアジサイの枝にもキヨさんが旺盛に生育しているのを確認。

ただし、池のそばにはサクラ(だったかな!?)のような背の高い木が、池に向かって枝をのばしているのだけど、
そこにはキヨさんの姿は確認できず。おそらく日当たりの問題もあるのだろう。

サツキにせよ、アジサイにせよ、込み入った枝々の隙間というのは、
陽射しはほどほどで、通気性もそこそこあるところ。
そんな場所を縫うように生えるのがキヨさん的にはお好みのようだ。


そして、最新の目撃は6月のこと。

東京都内にある御岳(929m)をコケさんぽしていた際に、
山道の入口にてまたも「キヨさん in サツキ」を発見。


▲一見、ただの茂みに見えますが・・・


▲裏に回ってみると、キヨさんがびっしり。





ここは山の中とはいえ近くに沢はなく、むしろこれから登山道に入るという
登山者が必ずといっていいほどよく通る場所。

いままでに何度もこの道は通っていたが、
まさかキヨさんがいるとは思ってもみなかったので、
サツキはずっとノーマークだった。

しかし、やはり過去2回の例もあり、
自分の中のコケサーチャーが、
無意識にもアンテナをはっていたのだろう。

こんな身近にいたなんて!

いやはや驚きである。


ちなみにこの場所からもっと標高の低い山道には、
いわゆるオードソックススタイルを貫くキヨさんたちが群生している。


▲御岳の麓近くの杉並木


▲枝にはびっしりとキヨスミイトゴケ(おそらく)。もはや本来のスギの葉が見えないほどコケに覆われている!


▲駐車場の向こうには沢が流れる。まさにキヨさんが気に入りそうな場所。





こういった群生地がまずはあって、
その一部がサツキの茂みの中に
家移りするようになったのか。

それを手伝ったのは風か、はたまた人間か。

そんな推察も楽しいひと時である。



▲こちらもサツキにキヨさん。バックには滝が流れ、まさに教科書通りのロケーション

またまたコケ情報/ヤクシマゴケ

2013-04-05 10:03:33 | コケをめぐる旅

<私信> 
昨日4月4日に「世田谷コケ散歩」(4/27開催)の申し込みを、
ドコモの携帯からメールくださった I 様(イニシャル C . I 様)


お申し込み受付についてこちらから返信したのですが、
携帯以外のメールのブロック設定をされているのか、
こちらから何度メールを送っても、戻ってきてしまいます。

このブログを見られましたら、携帯の設定を変更していただくか、
もしくは連絡が取れる他のメールアドレスを教えていただくか、
どちらにせよその旨、ご一報いただけますでしょうか?

お手間をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします。

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さて、暖かくなってすっかりコケの季節到来!ということで、またまたコケ情報です。

◇6/29(土)「コケ類入門講座:コケ類観察の基本テクニック」(日本蘚苔類学会・国立科学博物館共催)

国立科学博物館の樋口正信さん(蘚類担当)と千葉県立中央博物館の古木達郎さん(苔類担当)による
毎年恒例のコケ講座が、今年も行われます。すでに参加申し込みがスタートしているとのこと。

コケ初心者を対象に、コケの観察方法と
そのポイントをわかりやすく解説してくださる講座です。

お二人とも初心者のなにげない質問にも懇切丁寧に答えてくださる先生方です。
過去に私も参加したことがありますが、「コケを知りたい!」と思いつつ「どうしていいかわからない!」と
普段モヤモヤしている初心者にはうってつけの講座かと思います。

申込方法など詳細はこちらへ(6月8日 締切) → http://www.kahaku.go.jp/event/all.php?date=20130629



◆4/6(土)23:00~ BS日テレ「中川翔子のマニア★まにある」

明日からスタートする新番組なのだそうですが、
その第1回・2回の特集がなんとコケ!

タイトルが「苔女(コケジョ)・苔を愛する人とは? 」とあります。

http://www.bs4.jp/manimani/

この番組に私は何もかかわっていないのですが、
実は企画段階の時にテレビ制作会社の方から
メールでちょっとした打診がきまして。

その際には、日常生活で趣味として“苔”の世界にハマッている
20代~30代ぐらいの男性か女性にフォーカスする内容とのことでした。

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【シリーズ】屋久島で出会ったコケたち

Mar. 3, 2013

淀川(よどごう)登山口から車で下山中。

コケ好き女子たちのアツ~いリクエストに現地ガイドのOさんが応えるべく、
わざわさ途中で車を止めて教えてくれた、お気に入りのヤクシマゴケ群落。

世界では、東南アジア~東アジアにかけて分布しているヤクシマゴケ。
しかし日本では1911年に初めて屋久島で発見されて以来、
他地域ではいまだ発見されていないというから、
まさに国内ではここでしか見ることができない貴重なコケといえる。



▲かがんでいる人をスケールにして見るとおわかりのとおり、岩肌を地面からの高さ3メートル以上も覆っているという大群落!
 写真に収まりきれていないが、横幅も4メートル以上はあった。



▲コケだけど赤いのがヤクシマゴケ最大の特徴。わりと日当たりのいい、それでいて水がしたたるような岩肌がお好き。
 ちなみにこう見えて苔類だ。図鑑によると「茎の長さは2~6センチ」。かなり大型の苔類だ。



▲群落全体をよく見ると赤いものばかりでなく、やや緑色が残るヤクシマゴケも入りまじっている。

 
葉を赤くするのは紫外線から身を守るための対策という。
同じひとつの群落とはいえ、微妙な光の当たり方の違いで、
濃い赤になったり、薄い赤になったり、はたまた緑色のままだったり。

水に濡れた色とりどりの輝きを見ていると、
なんだか玉虫を見つけた時にも似た、華やいだ気持ちになる。


ヤクシマゴケ/Isotachis japonic(イソタキス ヤポニカ) (屋久島 2013年3月3日)


ヤクシマコモチイトゴケ

2013-03-30 12:21:20 | コケをめぐる旅

▲ヤクシマコモチイトゴケ(屋久島 2013年3月3日)


Mar. 3, 2013

淀川登山道を行く。

アップダウンのある細い山道をAさんに付いて歩く私たち。



そこでとくに印象に残ったコケが、
このヤクシマコモチイトゴケだ。

 ※ヤクシマコモチイトゴケ/Yakushimabryum longissimaum H. Akiyama, Chang, Yamaguchi & B.C. Tan

ヤクシマコモチイトゴケは今回のコケフォーレの講師役の一人、
Aさん(日本蘚苔類学会の現会長でもある)らのグループが、
2005~2008年の屋久島の野外調査で発見された新属・新種である。

なので、それ以前に出版された「日本の野生植物 コケ」や
屋久島のコケガイド」にも名前が載っていない(いずれもコケ好きのバイブル)。

屋久島以外からは見つかっていない固有種ながら島内ではそれほど珍しいものではなく、
場所によっては通年湿度が高い林内の幹や枝に、わりと普通に見つかるものらしい。

これまでも採取されてはいたものの、外見が似ている「タマコモチイトゴケ」に分類されていたのだとか。



遠目から見るとお風呂上がりの犬の毛束っぽいが、
ルーペで見ると細長い枝に繊細な葉が密についていて、
金色の織物のように美しい。
湿り気のある風になびいている様子を思い浮かべるだけでうっとりだ。



 ※ヤクシマコモチイトゴケの詳細についてはこちらを。