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ミジンコゴケ(その2)-コケたちよ、もっとミクロであれ!-

2014-05-13 08:27:51 | コケをめぐる旅
ミジンコゴケを持ち帰り、まずは実体顕微鏡で観察。

  ※実体顕微鏡:対象物を切ったり、プレパラートに載せたりせず、そのままの状態で拡大する顕微鏡。
    倍率は数倍~40倍くらいまでの比較的低倍率。
 


おぉ、ルーペよりもはるかに1個1個の個体が明確に見える!
先ほどは糸こんにゃくのように見えていたものが、
今度はウミブドウのように見えてきた。


ミジンコゴケはムチゴケ科に属するコケである。

ムチゴケ科にはこの他に、ムチゴケ、コムチゴケ、フォーリームチゴケなど「~ムチゴケ」と名のつくコケ、
スギバゴケ、フォーリースギバゴケ、コスギバゴケなど「~スギバゴケ」と名のつくコケ、
さらには西表島にしか生育が確認されていない「テララゴケ」などがある。

~ムチゴケと名のつくコケたちは大型(数センチ~十数センチ)のものが多く、
日本全国の森や林でわりと見られるメジャー種。


▲フォーリームチゴケ。茎の長さは3~8センチ。鞭枝(べんし)と呼ばれるムチのような茎がブラブラと垂れ下がっているのが特徴。
(3月、屋久島)


また~スギバゴケと名のつくコケたちはムチゴケの仲間に比べて一見、
線が細いというか繊細な体のつくりをしているが、群落はわりと大きいのでそれなりに目立つ。
自分の経験上、ムチゴケが自然と目にとまるレベルの
コケ目になっていれば、ほどなくして見つけられるコケであろう。


▲こちらはフォーリースギバゴケ。茎の長さは10センチほどとけっこう長めだが、直径は0.5センチと細くて繊細(3月、屋久島)



▲さらにアップ。一見、葉がないように見えるが、茎と枝についているボコボコとしたものが葉である


極小のミジンコゴケがこれらのコケと同じ科に属しているなんて、なんだか不思議であるが、
顕微鏡でからだのつくりを見てみると、茎は這い、二又に枝分かれしているところなどはムチゴケのようだし
葉は非常に小さくて、一見ないかのように見えるあたりはスギバゴケのようで、
ミジンコレベルに小さいとはいえ、やはりこれもムチゴケ科のはしくれなのだと見て取れないことはない。


▲そしてこちらがミジンコゴケを生物顕微鏡(数百倍まで拡大できる高倍率顕微鏡)で見たところ。
 茎の長さわずか約5ミリ、幅は葉を含めて0.2~0.4ミリ。茎からちょぼちょぼと何か出かかっているように見えるのが、なんと葉っぱ!


▲さらに、そのミクロサイズの葉の先には透明細胞があるのが特徴


しかし、いくら大目に見たってミジンコゴケは他のムチゴケ科の仲間と比べたら、
小さいことはもとより、からだのつくりがシンプルすぎる。

茎はわかったが、数百倍に拡大して見ても葉がどうにも葉っぱっぽくない。
見れば見るほど緑の棒っきれからちょっと枝が伸びかけたという感じで
教えてもらわないと葉の存在にはとても気づけない。

ミジンコゴケの葉はもしかして、退化してこんなお粗末なことになってしまったのだろうか。

もしかしたらミジンコという名前のゆえんも、
いまにも消え入りそうなその存在感の薄さからきているのかしら。

そんな素朴な疑問を古木さんに伝えたところ、
いやはや、とんでもない答えが返ってきた。


「むしろ逆です!ミジンコゴケはムチゴケ科の中でもっとも進化した最新型モデルのコケなんですよ」

「エエェッ!?」(マスオさんよろしくのけぞる私)


ここからは、その時の古木さんの詳しいお話をリアルタイムで
聞き書きしたメモが手元に残っているので、それを簡単に要約する。

 注)とはいえ、あくまで自分のために整理した文章ですので意味がわかりにくい部分があるかも。
   また明らかに認識が間違っている個所などあれば、コケに詳しい有識者の方、ご指摘いただけると助かります。


・ムチゴケ科の中で逆に最も原始的なのはスギバゴケで、その次にムチゴケなのだそうだ。

・原始的なコケというのは直立性が多く、進化が進んだコケほど匍匐性(這うタイプ)になる。
 匍匐して地面に張り付いていると、直立しているよりも風を受けにくいため乾燥にも強い。
 乾燥に強いということは、乾燥しがちな土地にも広く進出できるということであり、
 たとえば都会の公園や庭先でよく見られるハイゴケ(蘚類)はそういった意味で進化が進んだコケと見てよい。

・また、コケとは進化しているものほど小型化する傾向もある。

・つまりものは考えようで、体が大きくない・葉も発達していないというのは一見デメリットのように思えるが、
 つまりはそれだけ「体の形成にエネルギーを使っていない、省エネタイプ」ということでもある。

・なおかつ、そんなシンプルな体でありながら、枝葉が発達した大型のコケたちと同じ場所に生きられるということは、
 それだけ、徹底的に無駄を省き、かつ機能的なボディを備えている証拠というわけである。


この話を聞くまで私は、小さなコケたちの中でも、
少しでも他のコケより大きく育って表面積をかせいだほうが、
コケとして勝ち組な生き方なのだろうと勝手に思っていた。

しかしコケの哲学はこれとは真逆で、面積をかせぐ云々よりも、
より小さくシンプルであること、エネルギーを無駄遣いしないことをよしとし、
それこそがコケたちが求める「スマート」な生き方、「進化」と呼ぶにふさわしい生き方ということなのだ。

うーむ、なんだかまるで機能性・小型化をカッコ良しとする日本の電化製品のようではないか!?


私はミジンコゴケのことをすっかり誤解していたようだ。

ミジンコゴケはまさにミクロでなんぼのコケ界の看板をしょって立つ、
コケ界きっての牽引役なのではないか!

いやはや、ミジンコゴケさん、おみそれしました。

それにひきかえ、コケに魅せられたはしくれながら、
面積での陣取り合戦をとやかく言っているワタクシの脳は
しょせん、まだまだフツーの植物サイズでございます・・・。

他の植物に比べて、すでにじゅうぶん小さいにもかかわらず、
まだまだ小さく、より隙間、隙間へ向かおうとしているコケ。

コケの考えていることは底が知れない。

その奥深さに気が遠くなりながらも、
これからもますます心惹かれてしまうことになりそうだ。


▲シダの前葉体と一緒に生えていたミジンコゴケ(3月、屋久島)






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