コケは何で増えるかご存じだろうか。
ときどき「菌で増えるんだよね?」という
声を耳にするが、それはちがう。
コケは一般的に「胞子」で増える。
この点ではコケは菌類よりもシダ類に近い。
コケから飛び出た胞子は、
風に乗ってふわふわと運ばれていき、
いずれどこかに舞い降りる。
そして舞い降りた場所で胞子は発芽し、
「原子体」といわれる形に変化する。
胞子も小さければ、この原子体もごくごく小さいので
ぱっと見ただけでは確認できないのだけれど、顕微鏡を使って見ると、
原子体は糸状だったり、平たい盤のようになっていたりするのがわかる。
コケによって形もさまざまな原子体は、
いわば胞子という卵からかえったばかりの
「コケの赤ちゃん」だ。
この赤ちゃんから、しばらくすると芽が出て、
その芽がさらに成長したものが、
私たちがよく目にする「コケ」となるのである。
さて、前置きが長くなってしまったが、
コケに興味がない人にも名前だけは
けっこう知られているのが「ヒカリゴケ」。
このコケが「光って見える」といわれるのは、成長したコケではなく、
コケの赤ちゃんである原子体が光って見えている。
またこのコケは自らが発光しているように思われがちだが、
正確には反射によって「光って見える」のだ。
というのも、ヒカリゴケの原子体は部分的に球状をしている。
それが外から光を受けると、レンズのように反射して「光る」というメカニズム。
私が初めてヒカリゴケを見たのは去年の秋、
中央アルプスのひとつ木曽駒ケ岳の麓にある
光前寺(長野県)を訪れたときのこと。
▲参道の脇にある苔むした石垣。この隙間に「ヒカリゴケ」があると聞いてのぞいてみると……
▲あれ?どこかしら? 角度を変えて見てみると・・・
▲あった! 中央の隙間に蛍光黄色に光っているのが「ヒカリゴケ」だ!
石垣の奥にひっそりとたたずむヒカリゴケは、
私たちの見る角度によって光って見えたり、見えなかったり。
運悪く見る角度が悪いと、なかなか見つけることができない。
この日も「ヒカリゴケってどこ?この辺だって聞いたのに~」と
当のヒカリゴケの前を素通りしている人がけっこういた。
ヒカリゴケはもともと強い明かりが苦手。
石垣の隙間にさしこむわずかな光があれば、
じゅうぶん生きていける。
自ら発光するのではなく、光を受けてこそ輝くとは
地味に徹したなんともコケらしいコケだ。
ちなみに原子体から成長した植物体は、
もう光って見えることはない。
ヒカリゴケの原子体を見る機会があったら、
ぜひいろんな角度から眺めてみよう。
見る者の立ち位置次第で、
ひときわ明るく輝いて見えるベストポイントが
きっとあるはずだ。
▲おまけ。光前寺に行く前に登った木曽駒ケ岳。標高の低いところは紅葉していてきれい。
▲ロープーウェイで標高2600メートル強まで上ると、千畳敷カールにたどりつく。