▲ホソベリミズゴケ。8月、奈良の山中にて。
前々回のつづき。
出会えて嬉しかったコケ、
今日は「ホソベリミズゴケ」について。
日本蘚苔類学会 第40回奈良大会の
1日目は希望者のみのコケ観察会。
「カビゴケ」でもご紹介した
蜻蛉の滝が流れる山林周辺にて
たっぷり4時間のコケ観察である。
「ちょっと面白いコケがあるから、見に行きませんか?」
ふいにKさん(奈良大会の事務局長、コケの研究者)に誘われて、
私やTさんなど5人ばかりで後をついて行くことにする。
Kさんは、道ばたのコケにはほとんど目もくれず、どんどん山道を登っていく。
もう着くかな? もうちょっとかな?と思いつつ、
Kさんの後ろをついて行くが、いっこうに着く気配がない。
私たちは気になるコケを立ち止まって見つつ、
ときどき「このコケなんですか?」なんてKさんに質問をしつつ、
山道を30分以上は歩いただろうか。
それでもKさん、「まだ、もうちょっとあります」とか言いながら、
ひょうひょうとした表情で山道を登っていく。
さらに30分くらい歩いただろうか。
Kさんの気軽な誘いにのった自分を
少しばかり恨みかけていた、そのときだった、
「ここですよ!」
とKさんが緑のかたまりを指差したのだ。
見ると、それは、こかげで木漏れ日を浴びながら
キラキラと輝くホソベリミズゴケの群落だった。
しかも、コケの先っちょにご注目!
白っぽい柄の先に黒褐色の楕円のものがついている。
この音符のおたまじゃくしみたいなものが、
ホソベリミズゴケの(サク。胞子の入った袋のこと)なのだ。
ミズゴケの仲間は、もともとあまり頻繁にをつけない。
もしつけたとしても、短時間で胞子を飛ばし終わってしまうので、
ほとんどお目にかかれるチャンスがないというのが通説。
なので、これはとても貴重な出会いというわけ。
▲やっとの思いでホソベリミズゴケに出会え、地味に興奮している私たち。
やや明るい場所だが、近くには川が流れていてほどよい湿気がある。
ここまで来る道のりの長さに息も絶え絶えになっていた私は、
自分はおろか、Kさんにまで逆恨みしかけていたが、
この群落をひと目見たらすぐに疲れも吹き飛び(←なんてゲンキンなんだ…)、
しばらく無心でひたすらコケを眺め続けた。
汗だくの私の目の前で「俗世のことは存じませんのヨ」とでも言わんばかりに、
涼しい顔でたたずむホソベリミズゴケは、なんとも神秘的なこと。
ミズゴケのは、はじけて胞子を飛ばすのだが、
その瞬間に「パチン」という音がすることが知られている。
しかし、さすがにその音までは聞くことができなかった。
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●9月3日「魅惑のコケ入門」、無事終了。
台風の影響で曇り時々雨のお天気でしたが、
おかげさまで、28人の参加者がありました。
私からは初心者がコケと仲良くなるためのポイントをお話し、
伊村先生からはコケのゆるやかな生き方哲学という、
とても面白い話を聞かせていただきました。
ルーペでのコケ観察もあり、
南極のコケボウズの紹介もあり、
あっという間の楽しい90分でした。