かわいいコケ ブログ I'm loving moss!

コケの魅力を広く知ってもらいたくて、情報発信中。
コケ、旅、山が好き。コケとコケにまつわる人やモノの記録です。

帰郷 de コケ探訪

2012-12-31 20:20:47 | コケをめぐる旅

▲京都・祇王寺の苔庭(2012年12月29日 ※スマホで撮影。以下同じく)


2012年もついに大晦日になってしまった。
いまこのブログを実家のある神戸で書いています。


「奥入瀬コケ紀行」シリーズ、
とうとう年内にまとめきれなかったな・・・。

ちなみにこのあとは長野県・北八ヶ岳の
コケレポートを書く予定でいたんだけど
これも間に合わないな・・・。

心残りが山のようにありますが(すべて自分がのんびりしているせいなんだけど!)、
もろもろ2013年に持ち越しとして、今日は大晦日を家族と静かに過ごしたいと思う。


今年はモス・プロジェクトからのお声がけで
奥入瀬(青森県)へ行かせてもらったり、
プライベートでは赤目四十八滝(三重県)で
季節ごとのコケの定点観測ができたりと、
おかげさまで様々な場所でたくさんのコケ、
そしてコケが好きな人との出会いがあった。

またコケTシャツ制作や「ひみつの部屋でコケトリップ展」など、
今までにない角度からコケの魅力を人に伝える取り組みにチャレンジできたことなど、
大変しあわせなコケライフを送らせてもらうことができた。

これもひとえにコケのまわりに集まる
たくさんの皆様と家族のおかげです。
改めて深く感謝いたします。


帰郷の際はいつも、東京より西のコケスポットに
足を運ぶのが何よりの楽しみで。

数日前は、名古屋で途中下車して
とあるコケスポットへ寄り道してきた。



<企画展>なんじゃ?もんじゃ? 木典雄とコケの世界

ちょっと不思議なコケ「ナンジャモンジャゴケ」を発見した
コケ研究者・木典雄氏(故人)の研究熱心であたたかなお人柄が
伝わってくるような手書きのレポートやコケの絵、観察グッズや採集物、
さらにナンジャモンジャゴケそのものについてなど、
こじんまりとした空間ながらコケ好きにはたまらない見ごたえバッチリの展示だった。

来年2月2日まで、入場無料で開催とのこと。
ご興味がある方は、ぜひ。


さらにそれから数日後の12月29日、
2012年をしめくくる今年最後のコケトリップは京都。

京都に住んでいる友人に車を出してもらい、
嵯峨野にある祇王寺へ行ってきた。

ここは今年、TBSの「報道ステーション」の
紅葉特集で取り上げられたお寺で、
関西在住のコケ研究者であるMさんとKさんも
イチオシされていたコケスポットである。

ちなみにお寺としてのゆかりも私にとっては興味深く、
その昔、平清盛の寵愛を受けるも悲恋と散り、
尼となった「祇王」という女性の碑が残る場所であるという。

当然のことながら紅葉はすでに時季を過ぎていたが、
庭は落ち葉や塵ひとつない手入れの行き届きようで、
もうただただ、ため息をつく美しさ。

晩秋は紅葉の赤とコケの緑のコントラストはさぞ美しかったと思うが、
冬のやわらかな陽射しを受けて輝くコケの緑もまた一興である。



この苔庭のメインはオオスギゴケ(Kさんから教えていただきました)。
濃い緑でモコモコと立ち上がって生えているのが、そうだ。



▲オオスギゴケ(俯瞰で見たところ)。


一方、地面をおおいつくす明るい緑も、これまたすべてコケ。

ぺたっと地を這うように生えるシノブゴケ、ツヤゴケの仲間が主な構成要員で、
背の高いオオスギゴケと対照的に、この苔庭の面的な広がりを演出しているように感じた。

そのほかにもクモノスゴケ、ヒノキゴケ、シッポゴケ、ホウオウゴケなど、
様々な種類の、独特の緑色をしたコケがそこかしこにいて、私は静かに大興奮(一応お寺ですしネ)。

紅葉の時季は観光客で大混雑だったようだが、
いまは暮れということもあってか訪れる人もちらほらで、
おかげで私たちはそれはそれはゆっくりと数時間かけて、
庭を3周も4周もしながら、今年最後のコケ見を満足いくまで堪能したのだった。


さてさて。

明日は寒くなるようですが、
地方によっては初日の出も拝める空模様だとか。

では皆様、今年もお世話になりました。
よいお年をお迎え下さい。

また来年、ここでお会いしましょう。



▲年越し蕎麦。お昼にひとあし早く食べちゃいました。



--------コケ好きのためのカレンダー「苔暦2013」-------------------

コケ好きによるコケ好きのためのカレンダーを実験的に作ってみました。
引き続き、ご興味のある方にお分けしています(1部=送料込で1300円。なくなり次第終了)。


☆申し込み方法など、詳しくはこちらへ→ 【お知らせ】コケ好きのためのカレンダー「苔暦2013」

-----------------------------------------------------------------

【お知らせ】コケ好きのためのカレンダー「苔暦2013」

2012-12-19 14:35:11 | 文系女子のコケ目線

▲「苔暦2013」表紙


「奥入瀬コケ紀行」の途中ですが、
もういい加減告知をしないといかんだろう!と
自分で自分に喝を入れるべく、お知らせです。

「コケのカレンダーがあればいいのになぁ」と以前から思っていたのだけれど、
バラや高山植物、キノコのカレンダーなどはあれど、コケのカレンダーは探しても見つからず。

「それなら自分で作ってみようかな」「もしかしたら同じことを考えているコケ好きさんもいるかもしれないな」
と、またいつもの前のめりな性分がウズウズしだしまして、実験的に作ってしまいました、コケカレンダー。






10月のコケ展の時にはすでに完成し、訪れてくださった方の中には
さっそく手にとってくださった方も大勢いらっしゃったのだが、
その後、バタバタと忙しい日々が続き、よりによってこの忙しい年末に、
ようやくブログで告知するという段取りの悪さデス(ちなみに、ものぐさなのもまた私の性分・・・)。


それでも、いつもこのブログを見てくださっている方の中で
ご興味のある方がいらっしゃったらと思い、お知らせいたします。


「苔暦2013」  <壁かけ用・1部:1300円(送料込み)>

 

 

 

 

 

 
▲仕様:A5サイズ、16ページ中綴じ製本、全ページ4色カラー。上質紙135K使用でしっかりしたかための手触りです。



 
▲また、12か月分のカレンダーの前後ページには、このカレンダーのコンセプト、登場ゴケ一覧、用語解説などを掲載。


ちなみに、このカレンダーのちょっとしたこだわりは、
シーズンごとに見られる特徴的な姿をしたコケを12種類選んで掲載したこと。

花のカレンダーなら、春はサクラ、夏はヒマワリ、
秋は紅葉、冬はツバキと、季節ごとに最も見頃の花たちが掲載される。

コケも、胞子体を伸ばす季節、新芽が出る季節、紅葉する季節など
そのコケならではの見頃があり、種類によってそのシーズンは違ったりする
(もちろん、見頃そのものがはっきりしないコケも多数あります)。


拙著『コケはともだち』を手にとってくださった読者のみなさんからも、
「この本に載っている○○ゴケですが、どの季節ならばこういう姿が見られるのでしょうか」
という質問をたびたび頂くことがある。

そこで、ここ何年かコケを見たり写真を撮ったりする中で、
「この季節はこのコケがとりわけ美しい」と経験的に感じていて、
さらにフィールドに出ればわりと見つけやすいコケを中心にチョイスしてみたというわけだ。

カレンダーをめくるごとに、
「今月は○○ゴケが胞子体を伸ばす時季だな」、
「いつにも増して青々と輝く時季だな」
とコケトリップの参考にしていただくもよし。

また、なかなかフィールドに出られない方は、
カレンダーを見ながら季節のコケに思いを馳せていただくのも一興。

ただし南北に国土が長いニッポン、コケを見る場所(関東か関西かなど)によって、
自然条件、風土の違いがあるので、見頃は一概にはくくれない。

あくまで目安にしてもらえたらと思っているのだが、
逆に自分の地元のコケの見頃をこのカレンダーに
書き込んでもらうのも比較になって面白いかもしれない。



▲カレンダーの隅には、そのコケの特徴や観察時の私の雑感メモ、また観察場所を入れています
 (今回の主な観察場所は、東京・神奈川・長野・三重。また★印は用語解説あり)。



▲カレンダー上面に穴があいています。壁掛けカレンダーとしてどうぞ。


もしご興味がある方は当ブログ左側のバーにある「プロフィール」の下、
メッセージを送る」にご連絡ください。
こちらからご注文の確認とお振込先についてのお返事を差し上げます。



----メッセージへの必要記入事項---------


1.お客さま情報
  
・お名前:
・カレンダーの送付先:〒
・電話番号:
・メールアドレス:
  
2.必要部数  部、合計金額  円

--------------------------------------

●金額
 1部=1300円(送料込)
 ※3部以上を一度にご注文いただいた場合は500円引きに、10部以上を一度にご注文いただいた場合は1000円引きの割引あり。(2012.12.19.20:00追記)

●代金 
 ご注文メールをいただいた方各々に振込先をお知らせします。
 振込手数料はお客様の御負担でお願いします(入金確認後の送付となります)。

●発送方法
 PP袋で個包装の上、クロネコメール便で発送します。
 部数が多い場合はこちらで選択した方法にて発送させていただきますが別途送料はかかりません。 

●ご注文期間:12月19日~1月いっぱい頃まで

 ※とはいえ、なんだかんだ言ってまだまだマニアックなコケの世界。
  そこまでニーズがあるとは思えないので、そんなに大量には作っておりません。品切れ次第終了いたします。

 ※ご注文メールを頂いてから、基本3日以内にはにこちらから確認メールを差し上げます。
 3日以上たっても確認メールが届かない場合には、御手数ですがご一報ください。

 ※Amazonや巷の通販のような敏速な対応はできませんが、できるだけ早めに対応・発送させていただきます。




▲クリスマスが近いということで、クリスマス頃までに発送できそうな方には、ミニクリスマスカードつき。 
 (※複数部数の場合は1部のみに添付。私から一言メッセージが書いてあります)
  ↑※クリスマスが過ぎましたので別カード用意しています(2012.12.25 10:30追記) 


コケに興味を持ち始めた方がご自分用として、
またコケが好きなあの人へ年末年始のプレゼントとしていかがでしょう。

ご連絡お待ちしております。





奥入瀬コケ紀行(モス・プロジェクトその4)

2012-12-18 11:22:36 | コケをめぐる旅

▲東北の隠花帝国・奥入瀬渓流にて。岩に張り付いてコケを眺めるFさん(11月・青森県)


ひきつづき奥入瀬渓流で見たこと・感じたこと・学んだことを綴っていく。


10日の講習会に向けてまずは奥入瀬渓流を下見することになった私たち。

ノースビレッジの河井さんらの案内で渓流の中でも
とくにオススメのスポットを順に巡ることになった。

観光客にも人気の「石ヶ戸」(前回記事参照)の
次に向かったのは、「白銀の流れ」だった。



▲ビューポイントには、看板がある。



▲ゆるキャラ・東北くん(だったかな?!)。改めて調べ直してみたのだが、WEB上ではその素性を追跡できず・・・。
 東北6県の形がそのままキャラクターになっているとか。シンプルでなんかかわいい。


「ここにはステキなテーブルがあるんですよ」と紹介され、向かったところ・・・



▲おぉ!コケで一面覆われたテーブルが!



▲ここまでみっしりだと、もはやテーブルとして使うのははばかられる・・・。





湿度よし、日当たりよし、平面で生えやすいとあれば、コケにとっては優良物件まちがいなし。
ごらんのとおり多種多様なコケたちが押し合いへし合いで陣取り合戦。

テーブルとしては使えないけど、これはこれで生きたコケ標本集のようで楽しい。



▲テーブル側面にもコケ(おそらく「ナガミチョウチンゴケ」とのこと)。
 「表面は混んでっから、おら側面でいぃんダ」(勝手に青森弁風。素人がすみません)。


なるほど、いい場所見つけましたねぇ。

コケならこんな垂直面でもノープロブレム。
こうしてどこかしら隙間を見つけては器用に群落を広げていく。

また、すこし上流の方へ歩くと・・・



▲コケ生す欄干。


なんと見事なコケロード。
まるでコケがエスコートしてくれているよう。

ちなみに、実はこの欄干から見た渓流の眺めが
「白銀の流れ」と称される絶景だったのだが、
コケを見るのに夢中になるあまり、
うっかり絶景の写真を撮り忘れるというシマツ。



▲遊歩道に渡された丸太もコケだらけ。ここで幅を利かせているのはクサゴケだ。



▲クサゴケのアップ。コケとしてはかなり大型、しかもここではやたらと大群落なのでよく目に入った。
茎は這い、枝は不規則に羽状に伸びる。山地の腐木によく生えるという。



▲クサゴケは雌雄同種なのでよく胞子体をつける。胞子体の柄が長く赤褐色なのが特徴の一つ。




▲階段の手すりもコケだらけ。「リスゴケっぽくない?」と小原さんと話していたコケ。



▲そのアップ。図鑑によると生育地域は「本州(東北以南)~九州」とあるので、可能性がないわけでもなさそう・・・かな!? 


このように、森の中に人間があとから作った・置いたあれやこれやを、
コケが見事に覆い尽くしている光景がいたるところで見られた。


ところで、「コケが人工物を覆っている状態」といえば、



▲コケに覆われた石像(神奈川県箱根の熊野神社にて)


↑こういう↑例もわりとよく見かける。

いわゆる「侘び寂び」世界のコケというのだろうか。

さりげなくコケが生している石像は、時の長い経過を感じさせる、静謐な、悠久の象徴であり、
古びたどこか物悲しい、わびしいものの代表格といった向きがある。これはこれで趣深い。

しかし、ここ奥入瀬のように、コケの生育環境として条件がバッチリなところでは、
コケが森づくりの先頭集団となり、人工物でも石でも腐木でも、
旺盛な生命力をいかんなく発揮しすべてを覆い尽くしていく。

そこには侘び寂びの物悲しさというよりも、
陸上植物のなかでもとりわけ原始的なカラダのつくりでありながら、
パイオニア的に地上に進出し、そのふかふかな群落のマットで、
ほかの植物の成長(つまりは森の成長)にさえ一役買うという、
大らかさ、圧倒的な生命力のまばゆさ、まっすぐさみたいなものを感じた。

とくにコケを風景として見るだけではなく目の前まで近づいて、
虫眼鏡やルーペでその一本一本にまで目を配ると、
そして手のひらで優しくなでてみたり、匂いをかいでみたりすると、
小さいながらも各々好き好きに枝葉を伸ばし、
空中の水分をめいっぱい取り込んで青々と輝く、
コケのパワフルな生き様、森を下支えしてきた底力みたいなものが
(感覚的にだけど)よくわかる。

こうなると人間はコケを筆頭とした自然界のほんのごく一部分に過ぎず、
私はいまこの森に、ちょっとだけお邪魔させてもらっっているだけ、
ひいては地球そのものにちょっとの間、いさせてもらっているだけにすぎないんだよなぁと思う。

そういうことを、コケを通してからだ全体で感じることができた有意義な森歩きだった。




奥入瀬コケ紀行(モス・プロジェクトその3)

2012-12-12 20:27:00 | コケをめぐる旅

▲奥入瀬渓流の森にて(11月・青森県)


あっという間に今月も中旬に入ろうとしている。は、早い!

フリーの編集ライターを細々としている私は、
サラリーマンの皆様よりも一足早く年内の主な仕事は一段落。

今日からやっと、じっくりがっつりどっぷりと
机に向かって奥入瀬コケ紀行の続きが書ける。
いやー、ありがたや。ありがたや

だいぶ時間が空いてしまったが、
奥入瀬コケ紀行は始まってまだ二日目なわけで。

かなり時計の針を戻しますヨ。くるくるくる・・・



今回、モス・プロジェクトにお招きいただき、
青森県十和田市・奥入瀬に滞在したのは11月7~11日の5日間であった。

十和田市に着いて翌日の8日、
市街地から20キロほど車で移動し、
いよいよ目的の奥入瀬渓流に入る。

今日は、10日に地元のガイドの皆さんを集めて行う講習会のため、
丸一日、渓流の下見というスケジュール。

ノースビレッジの河井さんを筆頭にモス・プロジェクトメンバーの皆さんに案内されながら、
同じく今回の講習会講師として招かれた屋久島のコケ師匠・小原さん(本業はエコツアーガイドさんです)、
そして、なぜかうちの母(奥入瀬に憧れ、娘の仕事に便乗)と共に沢沿いの森を歩く。


「奥入瀬渓流」とは名前はよく聞くが、いったいどんな場所なのか。
知らない方のために(というのは口実で、まずは自分の復習のために)先に少し説明する。


「奥入瀬渓流」は、青森県と秋田県をまたぐように
位置する十和田湖の北東岸に端を発し、
太平洋に向かって伸びる約70kmの「奥入瀬川」の
上流約14kmのエリアを特定して指す。

14kmエリアの末端、下流側のスタート地点から上流の十和田湖に向かう道のりは、
緩やかな上り坂になっていて、1km進むごとに標高が14mずつ上がる。

つまり十和田湖に着く頃にはスタート地点から
約200mの標高差を上ったことになるわけだ。
しかし上り坂が非常にゆるやかなので、まったくそれを感じさせない。

ぶらぶらと気ままに自然を見て歩くのにはもってこいの場所なのである。


奥入瀬渓流はその名のとおり、谷川である。

渓流の北側には八甲田山という(これまた誰もがその名を知る)火山群がそびえる。
八甲田山がその昔、噴火した際に火砕流がこの地に流れ込み、侵食されたことで渓流は生まれた。

なので、渓流沿いの森の中にはいまも
その当時を思わせる巨岩があちらこちらにゴロゴロと、
シンボリックに鎮座している。



▲下流側から5.5kmほど歩いたところにあるのは、カツラの大木に巨大な一枚岩が寄りかかり屋根を形成している「石ヶ戸(いしげど)」。
現地の方言で「石でできた小屋」という意味を持つ。



▲画像の右側にご注目。国道沿いの石垣の上には巨岩が自然のままに残されている。


さらに渓流は十和田湖の豊富な水に恵まれると共に気候的にも空中湿度が高いため、
地面や巨岩などいたるところにはコケやシダ、そして地衣類が豊富に生えている。
さらにブナを主体とした落葉広葉樹が枝葉を広げて、美しい緑の景観を作り出している。

いままでは紅葉が美しい落葉広葉樹が人々の人気を一手に引き受けていたわけであるが、
ノースビレッジの河井さんは、またそれとは別の視点でこの森を眺めてきた。

それはいかに?と問えば、「ここは東北の隠花帝国なんですよ」と河井さんは笑いながら教えてくれた。

つまり、大きな木々の縁の下の力持ちとなって地面や岩を覆い尽くすコケをはじめ、
シダ、地衣類、キノコなどの隠花植物の豊富であることもまた、
この奥入瀬渓流の大きな特徴の一つなわけである。

そういう今までは取るに足らない、それこそ一般では日陰者扱いで、〝コケ〟にされてきた隠花植物たちが、
ここではいかにイキイキと、豊富に、美しく華麗に森を彩り、森を生かし続けてきたことか。

この森を訪れる人には、ぜひそんな隠花植物たちの魅力にも触れながら森歩きをしてほしいという河井さんの強い思いが
周囲の現地ガイドの皆さんにも伝染し、今回のモス・プロジェクトも発足したわけである。


ちなみに現在、この地は「国の特別名勝および天然記念物」に指定され、
さらに十和田八幡平国立公園の「特別保護地区」となっているため、
コケはもちろん、キノコや他の植物の葉1枚もこの地から採取することはできない。


▲枝についたモコモコの地衣類。このまま腕や首につけてジュエリーにしたいくらいアーティスティックです。


さて、奥入瀬渓流に来てみて私がまず驚いたのは、
渓流にぴったりと沿うように国道が走っていて、
非常にたやすく森へ入れるということだ。

来る前にパンフレットやインターネットで
奥入瀬渓流の写真を見た限りでは、
あれだけ自然豊かな場所なのだから
てっきり渓流に行き着くまでに
ある程度は山歩きをするのだとばかり思っていた。

しかし、実際は(これは大げさではなくて)
国道と渓流は目と鼻の先という距離。

車を止めて一歩車外に出ればもうそこは森なのである。


▲これまた画像の右端にご注目。渓流のすぐそばを国道が走っているのがわかる。


事実、紅葉のシーズンには観光バスが何台も渓流沿いの道路脇に並び、
ラフな格好やヒールを履いた観光客でもすぐに森に入って、記念撮影をしていかれるとのこと。

また、森には遊歩道が渡され、勾配もきつくないので、
体力に自信のない人でも、時間のない人でもここならば
安心して自分のペースで森歩きができる。



▲渓流に沿って遊歩道があるので歩きやすい。さらに道は水面とほぼ同じ高さにあるので、水との距離が近いこと!
 水中に泳ぐ魚もしっかり見ることができた。


こんなに人間に都合の良い立地ながら、
ここまでの豊かな自然が残っているとは!

これぞ、まさに東北の奇跡(ミラクル)!! ←(おおげさw)

いままで屋久島や赤目四十八滝、吉野の山や八ヶ岳など
自分なりにコケを求めて方々を歩き回ってきたが、
ここまで万人の足に優しいコケの森は初めてで、
車を降りて早々、私はすっかりたまげてしまったのだった。 (つづく)




☆奥入瀬の巨岩にお住まいのコケたち☆



▲もうここからでも十分コケに覆われていることはわかりますが、近寄ってみるとさまざまなメンツがお住まいになっていました。




▲エビゴケ。赤茶色の胞子体がまるでエビの目のよう!?



▲ネズミノオゴケ。頭隠して尻隠さずな、ネズミたちのしっぽのようなコケ。胞子体もたくさん出ていた。



▲オオトラノオゴケ(おそらく)。いままで東京都内の山々でも見かけたことがあるが、ほとんど乾燥している姿ばかりで、
 ここまで潤ったトラさんは初めて見た。なんとなく色も若い感じがした。



▲トラさんのお次は〝リュウさん〟のミヤマリュウビゴケ。いったいどのあたりが〝竜の尾〟を表しているのか皆目見当がつかないが、
 光を透かすような優しい黄緑色に、赤褐色の茎、水に濡れた姿はなんとも繊細で美しいこと!
 ちなみにこのコケは、イワダレゴケと同じグループ。不規則な羽状に枝分かれするが、イワダレゴケのように階段状には成長しない。


というわけで、偶然なのだろうけど、不思議と動物の名前がつくコケたちで覆われた巨岩なのでした。