Negative Space

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小さいおうち:コッタファーヴィの『ヘラクレスの復讐』

2014-02-01 | ヴィットリオ・コッタファーヴィ


 Viva! peplum! 古代史劇映画礼讃 No.27 

 『ヘラクレスの復讐』(ヴィットリオ・コッタファーヴィ、1960年)


 『アトランティス征服』とほぼ同時に撮られ、同作と対をなすわれらが巨匠コッタファーヴィのヘラクレスもの。あちらではレグ・パークが主役を演じていたが、本作ではマーク・フォレスト。いずれ劣らぬ怪力スター。

 アメリカでは『ダヴィデとゴリアテ』というタイトルで通っているが、オーソン・ウェルズがサウルを演じる同名の作品とは別もの。とにかくタイトルがまぎらわしいのはイタリア製古代史劇映画の宿命か。

 日本では劇場未公開だが、かつて「日本におけるイタリア年」に開催されたフィルムセンターのイタリア映画大回顧展のプログラムに入っていた。ロッセリーニの『イタリア万歳』なんていう映画が満員札止めになる盛況ぶりだったが、この作品の回は、上映会場にほとんど人影そのものがなかった。

 オープニング。カメラが右上方にパンし、丘の上に仁王立ちするヘラクレスを仰角で捉える。滝をなめるティルトショット。雪原を横切るヘラクレスのショット。赤や緑のスモークがたかれていてサイケ。岩肌を伝って地中に下りて行くヘラクレス。火を吹くハリボテのケルベロス(「ワン、ワン!」)に出くわす。腕を刀で切って血を浸したパンを投げ与える。番犬をやっつけると、地面が揺れてもんどりうつ。

 このあと、電子楽器の奏でる不協和な旋律とともにムササビふうの空飛ぶモンスターが襲ってくるが、首を絞めて殺す。もっとあとの場面では、得意の首絞め技がグリズリー相手にふたたび炸裂する!

 手に入れたご利益のあるらしいレッドダイアモンドを神殿の巨像に向かって捧げると、くだんの宝石が巨像の額まで飛んでいって(「ピ・ピ・ピ・ピ・ピ…」)、額の穴にすっぽり嵌る。すると、巫女のシビラがホログラフィーみたいな半透明状で姿を現し、お告げを下す。

 チープ感満載の映像の中で、ヘラクレスが家庭を顧みない仕事(難業)中毒のパパとして描かれる。バーベキューパーティーのシーンでは折檻のために息子を庭の木に縛りつけるスパルタ親父ぶりを見せたかとおもうと、寝室で奥さんにマッチョな肢体をマッサージしてもらうみたいなほのぼの感あふれる夫婦の情景も。ふてくされて家の柱に八つ当たり、怪力で壊してしまったかとおもうと、ラストではくだんのマイホームのリフォームに大活躍する力自慢!

 ギリシャ神話の悲劇の英雄がそなえていたユーモラスでコミカルな一面(馬糞掃除の難業)が、ローマ神話ではさらにクローズアップされる。コッタファーヴィはこうした側面(コッタファーヴィによれば「ガリア的」な側面)に光を当て、きわめて人間くさい半神像を作り上げている。

 ギリシャ神話では宿命のライバルみたいな間柄の悪役、向こう傷のエウリートにブロデリック・クロフォード。イタリア製古代史劇映画は落ち目のハリウッド俳優をリサイクルするのが得意。女奴隷のアルチノエ(面長美女ワンディサ・グイダ)にヘラクレスを毒殺させようと図るも、ミニスカの白チュニカに目が眩んだグリズリーに襲われたところをヘラクレスに助けられたアルチノエ、逆にヘラクレスに恋してしまう。

 ラスト、エウリートに捉えられたディアニーラ(ヘラクレス夫人)が毒蛇の巣の上に宙吊りにされるサディスティックな拷問シーン。アルチノエ、恩返しのチャンスとばかりにエウリートにタックルをくらわせ、エウリートもろとも毒蛇の餌食となる。めでたしめでたし。

 その他のみどころ。

 ディアニーラが間違って呼び出したケンタウロス、ディアニーラをさらっていこうとするも、ヘラクレスの放った矢に倒れる。緑まぶしい野を半径5メートルの円をなす鮮血に染めてそのまんなかで息絶えるケンタウロスをとらえたロングショット。

 あるいは、神殿を破壊しにいく場面で、キャメラを転倒させた極端な仰角ショットでヘラクレスの狂気を演出。


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