Negative Space

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はげしく、速く、美しく!:映画監督アイダ・ルピノ

2014-05-10 | アイダ・ルピノ

 アイダ・ルピノ『砂に咲くバラ』(Hard, Fast and Beautiful, 1951年)

 闇の中の無人のテニスコート。風に舞い散るいくつもの紙屑が白く浮かび上がる。そこにかぶさる「はげしく、速く、美しく」というタイトルのアイロニー。

 コートをはつらつと動き回る少女にもの憂げなヴォイス・オーヴァーがかぶさる。「あなたが生まれた瞬間から、あなたは別格だとわかっていたわ。あなたのなかにあってほかのだれにも見抜けないものがわたしには見えていたの。あなたがボールを叩く音を聞くたびに、わたしはいてもたってもいられない気持ちになった。だからあなたのためにもっといいことをしてあげたいといつもおもってた。どんなことがあっても、それを叶えるんだって決心したのよ……」

 娘を一流テニス選手に育てるためにすべてをなげうつ母親をクレア・トレヴァーが演じる。ぱっとしないキャラとルックスの彼女にうってつけの憎まれ役。この女優のキャリア中のべストワンだろう。ミリーという役名はミルドレッド・ピアースへの目配せだろうか。

 娘役はルピノ作品の常連サリー・フォレスト。世界のトップ選手にのし上がるも、恋人との仲を母親に引き裂かれ、心がすさんでいく。キュートなルックス、挫折したキャリアという点で、ひと昔まえのスター選手ジェニファー・カプリアティの面影がなんとなくオーヴァーラップした。野望にとりつかれたトレヴァーは、夫への愛を失って久しい(同衾しない夫婦を隔てるベッドの柵)。夫が危篤に陥っても、娘の試合を優先して、病床を見舞うことはない。娘の方は、その父親への愛着によってなんとか人間性を喪失せずにいる。不利なコンディションで迎えた世界選手権の息詰る決勝戦。激戦を制し、トロフィーを手にした彼女のもとに一度は彼女のもとを去った恋人が駆け寄ってくる。「これはあんたのものでしょ」とトロフィーを母親に押しつけて恋人とともにコートを後にする娘。

 陽の暮れ切ったコート。無人の観客席にただひとり抜け殻のようになったトレヴァーが背をもたせかけている。キャメラが下方にパンすると、風に舞い散るビラが寂寥感をかき立てる。 THE END

 少なからぬ点で師匠格のニコラス・レイの兆しの下に撮られた作品といえるのではないか。父性の失墜、見放された子供というテーマはレイの映画を貫くものだし、ラストで効果的に反復されるビラのショットは、『ザ・ラスティ・メン』の冒頭近く、観客の去った夕刻の闘牛場に舞い散る数知れぬビラのショットを否応なく彷彿させる。ついでに『危険な場所で』での共演者ロバート・ライアンもカメオ出演している。

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