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ジェシー・ジェームズを射った男:『地獄への挑戦』

2016-01-18 | その他


 ウェスタナーズ・クロニクル No.37 特集:ジェシー・ジェームズ映画を観る(その2)


 承前。年代は前後するが、この「バラード」をより効果的に使っているのがサミュエル・フラーのデビュー作『地獄への挑戦』(1949年。原題 “I Shot Jesse James”)。タイトルバックで「バラード」が流れ、壁いっぱいの指名手配ポスターを縦横になめていくパンショット。その一枚に監督名のクレジットが確認されるや否やカメラが右にスピーディにパン、ジェシー(リード・ハドリー)のクロースアップ。キャメラが引くと、銀行の支配人にピストルを突きつけていることがわかる。支配人が足下の非常ベルのボタンを踏むまでのスリリングなモンタージュがひとしきりつづく。非常ベルのために失敗した襲撃を伝える新聞が逃亡中の一党のイメージにオーバーラップ。非常ベルは当時の最新テクノロジーであったようだ。劇場で暗殺シーンをどうしても再現できず舞台を降りるボブ・フォード(ジョン・アイアランド。『赤い河』の演技がフラーの目をとまってのキャスティング)、子供に命を狙われるフォード(このエピソードがのちにキング=ド・トスの『拳銃王』に繋がっていくらしい)、サルーンで流しに「バラード」を強要するマゾヒスティックなエピソード、ラストでフォードにこれみよがしに背を向けてみせる保安官(プレストン・フォスター)と、見せ場たっぷりで大ヒットした。フォードが一方的に思いを寄せる歌手(バーバラ・ブリトン)が愛人の所業にたいする、そして保安官にたいするおのれの恋心にたいする困惑ぶりを伝えるかずかずのクロースアップの素晴らしさ。フラーは当初、シーザー暗殺を企てたカシウスについての脚本を書こうとしていたが(「犠牲者は退屈だが殺人者はおもしろい」)、「古代史劇映画=ホモ映画」という先入観にとらわれた無学なプロデューザーが難色を示し、ボブ・フォードを主役に据えることに落ち着いた。フラーによればこれはフロイト的なドラマである。入浴中のジェシーの背中のアップ(暗殺の最初のチャンス)、ジェシー自慢の「銃」をさするしぐさ、フォードの臨終の言葉(“I loved him.”)からは同性愛的な主題があからさまに読みとれる。フランク・ジェームズ役にトム・タイラー、チャールズ・フォードにトム(トミー)・ヌーナン。『地獄への道』およびその続編で鉄道会社の弁護士を演じていたどんぐり眼のJ・エドワード・ブロンバーグが歌手のマネージャー役で。

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