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黄色いチュニカ:ヴィットリオ・コッタファーヴィ『剣闘士の反逆』

2013-12-14 | ヴィットリオ・コッタファーヴィ

 Viva! Peplum! 古代史劇映画礼讃 No.17

 『剣闘士の反逆』(ヴィットリオ・コッタファーヴィ、1958)

 コッタファーヴィによる一連の古代史劇映画の皮切りをなす作品。

 脚本にジャンフランコ・パロリーニが参加。この人にはフランク・クレイマー名義の『西部悪人伝』『大西部無頼列伝』『西部決闘史』三部作のほか、『サムソン対ヘラクレス』『ヘラクレスの怒り』などマッチョ俳優ブラッド・ハリスと組んだ古代史劇映画がある。

 ローマの行政官マルコがアルメニアに赴き、ローマ人の捕虜を解放、ついでに現地の反体制派と組んで腹黒い女王アミラを亡きものにする。

 アミラ役にエキゾチックな美貌のジャンナ・マリア・カナーレ。チネチッタのディーヴァの一人で、コッタファーヴィの好敵手だった偉大なリッカルド・フレダのミューズ。

 マルコ役はコッタファーヴィ古代史劇映画の常連(『クレオパトラ』『アトランティス征服』)、エットーレ・マンニ。この人の遺作は『女の都』だという。

 反逆者のグラディエーター、アスクレピオ役にジョルジュ・マルシャル。レルビエ、フレダ、ブリニョーネ,レオーネらの古代史劇映画でキャリアを残したフランス人マッチョ俳優。

 見せ場をいくつかピックアップすると、

 競技場でのアスクレピオとライオンとの死闘。観客席で舌なめずりするアミラのアップがインサートされる。余興の間に捕囚が脱獄する様子をサスペンスフルなカットバックで見せる。最後は競技場が大混乱に。

 下士官のルカーノがこびとと組んで囚われのマルコを救出するタイトなアクションシーンは、ハワード・ホークス的と呼びたい傑作場面。ユーモラスにして悲愴。ミッションには成功するが、こびともルカーノも命を落とす。手負いの下士官が自力で歩いて帰り、恋人の腕の中で息を引き取るまでをほぼ台詞なしで一気に見せる。

 ラストもリズミカルなカットバックでたたみかける。マルコの恋人の女奴隷ザラが囚われの身となり、マルコが探しに出る。アミラの軍が反体制派の村を襲撃する。マルコは山地を彷徨い歩いたあげく力つきて倒れる。キャメラがパンすると、いましも到着したローマからの援軍が山頂に姿を現す。ザラは火刑台に縛り付けられて火を放たれる。村ではアスクレピオが必死に応戦している。救出に向かうべく馬を駆るローマ軍。その先頭にはマルコの姿が。アミナの夫(?)は、財宝に目が眩んだ兵士たちに殺される。宮殿に逃げ込んだアミナは、飼っている虎に食われて絶命する。アスクレピオが敵の矢に倒れる。……アスクレピオの葬儀で、マルコは彼の胸に短剣を手向ける。


 スコープ画面をコントロールする空間的センスと色彩の喚起力。

 進軍するローマ軍を捉えた悲壮で耽美的なショットは、ジョン・フォードの西部劇における騎兵隊の撮り方を否応なく想起させる。

 アミラに鞭打たれ、火責めにされるザラ、虎に食われるアミラ……と古代史劇映画ならではのサディズムもたっぷり味わえる。

 「古代史劇という枠組みは口実にすぎない。筆遣いの荘厳さの前に、物語のひとつひとつの出来事は消え失せる。コッタファーヴィが描こうと心を砕くのは、あの顔この顔のたたえる美。虐げられた美であり、それは責苦の中でいやましに荘厳に輝く。そしてプリンスの世界へのノスタルジー。そこではプリンスの遊びしか許されてはいない。仮面、毒、鞭、宮殿、強烈な染料、短剣……」(ミシェル・ムルレ)。

 コッタファーヴィが高貴な血筋を引いていることはすでに述べた。


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