ドナルド・キーン(1922~2019年)さんは、ニューヨーク生まれの日本文学研究者、コロンビア大学名誉教授で、古典から現代まで幅広く研究し、日本文学を海外に紹介したことで知られています。一方、大のクラシックファンで、特にオペラに関しては、豊かなオペラ観劇の実績と刻薄な知識を持ち、音楽エッセイを書いています。
本書は、著者自身の観劇の足跡を辿りながら、オペラの作品から歌手までを論じたものです。入門書でもありますが、オペラに詳しい方にも興味が湧く内容です。
(大まかな目次)
第1章 オペラとの出会い
第2章 オペラ徒然草
オペラは本物の芸術
メトは第二の家
初めて観るならどのオペラ?
ドナルド・キーンの選ぶ オペラベスト10 など
第3章 光源氏 VS ドン・ジョヴァンニ
第4章 オペラへの誘い 作品論
第5章 想い出の歌手たち
第6章 マリア・カラスを偲ぶ
(感想など)
第1章の「オペラとの出会い」を読むと、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場の定期会員でオペラを観続けただけでなく、1948年から52年のイギリス滞在中には、デビュー間もないエリーザベト・シュヴァツコップや全盛期のマリア・カラスを観ていて、本人も幸運だっとと書いていますが、これらの経験から語られる記述には説得力があります。
「オペラは本物の芸術」のところでは、『オペラの興味深いところは、原作がいかにつまらなくても、素晴らしい作品になりうる可能性が秘められている点で、・・・セリフ一つ一つをとってみても、「窓を開けましょう」や「もう行かなくては」といった、日常的な、とるに足らない言葉が多いのですが、音楽にのせて歌われると、途端に心を動かすものに変貌するのです。』と記し、オペラの魅力を解き明かしてくれました。
「ドナルド・キーンの選ぶ オペラベスト10」は、興味深いものでした。1位から順に「ドン・カルロス、トラヴィアータ、神々の黄昏、カルメン、フィガロの結婚、セビーリャの理髪師、マリーア・ストゥアルダ、湖上の美人、エフゲニー・オネーギン、連隊の娘」でした。ドニゼッティの2作品が挙げられているのが、面目躍如でしょうか。
第5章では、キルステン・フラグスタート、モンセラート・カバリエ、マリア・カラス、プラシド・ドミンゴ、ラウリッツ・メルヒオールらの歌手が論じられますが、長期間に渡り観て聴いているので、一過性の公演批評とはわけが異なり、いい時、悪い時を含めて、その歌手に迫り、読み応えがあります。
先日観た、セイジ・オザワ・フェス松本の「エフゲニー・オネーギン」がよかったので、オペラへの興味が湧いていますが、この本は、それに拍車をかけるものでした。長野に住んでいると、実演はそうそう観れないので、日本語字幕付きのDVDやBlur-rayをいくつか買おうと考えています。