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安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

芝崎祐典著「ベルリン・フィル 栄光と苦闘の150年史」(中公新書)を読みました。

2025-06-04 18:00:00 | 読書

来週の6月12日、13日、14日と、指揮者の山田和樹さんがベルリン・フィルを初めて指揮します。活躍を期待していますが、ちょうど、同フィルに関する新書が出されたので、読んでみました。

参考:山田和樹指揮ベルリン・フィルのコンサート案内ページ

   

表紙

(帯裏に掲載された本書の紹介)

 

(目次抜粋)

第1章 誕生期―市民のためのオーケストラとして
第2章 拡大期―財政危機から国際化へ
第3章 爛熟期―ナチとベルリン・フィル
第4章 再建期―戦後の「再出発」
第5章 成熟期―冷戦と商業主義の中で
第6章 変革期―「独裁制」から「民主制」へ
第7章 模索樹―新しい時代のオーケストラとは何か
終 章 ベルリン・フィルの歴史から見えてくること

(感想など)

著者の芝崎さんの専門は、「国際関係史、冷戦史、政治と芸術」で、そういう観点から、ことにナチ政権発足(1933年)からベルリンの壁崩壊(1989年)までの間の政治と結びついたベルリン・フィルの様子が明確に描かれています。

団員は、長くベルリン市の公務員という立場で、楽団が財団法人化されたのが2002年と遅くて驚きました。その後も政府からの助成はあるはずなので、現在の運営状況はどうなのでしょうか。

カラヤンの独裁ぶりに言及し、ザビーネ・マイヤー問題が描かれていて興味深い。カラヤン後の常任指揮者選出は、楽団員の投票によって行われていますが、それが可能になった楽団員間の組織とか関係性について言及がほしかった。

 

(著者略歴)


歴代の首席(常任)指揮者(本書のページから)

チェリビダッケは、1946年に暫定で主席指揮者になっています。

1956年にベルリン市とカラヤンは、常任指揮者契約を交わしています。

初の団員投票で選出されたアバド。在任は1989年10月~2002年2月。

2002年9月から2018年6月。

2019年8月に常任指揮者として初の演奏会。


中野京子著「フェルメールとオランダ黄金時代」(文春文庫)を読みました。当時のオランダの勢いにびっくり。

2025-04-25 19:30:00 | 読書

佐々木譲著「愛蔵版 武揚伝」を読んだら(その記事)、榎本武揚はオランダに留学していて、幕末でも依然同国は先進国であったのだと驚きましたが、中野京子さんの文庫がタイムリーに出たので、オランダの様子を知りたくて読んでみました。

   

表紙

(本書の内容)  

  

(感想など)

オランダがスペインから独立したのが、1648年(ウェストファリア条約締結)ですが、オランダの黄金時代は、本書によると1580年~1675年くらいです。プロテスタントの国で、商工業に力が注がれ、貧富の差は他国より小さく、市民が絵画を求めたので、画家が多数いたようです。

そんな社会状況から、フェルメール(1632~1675年)らの画家が出て、風景画が生まれたということが、わかりました。オランダの風景画は、空が画面の3分の2ほどを占めていて、ちょっと印象派の先駆けみたいな感じもあり、僕は好きです。

中野京子さんの『オランダ黄金時代』という切り口がわかりやすく、紹介されている絵に関しても、そういう時代背景があってのものだということが、わかるように記述されていました。良書です。

(著者の紹介)

   

中野京子さんのブログ:中野京子の「花つむひとの部屋」

 

(登場する絵画から。僕の好みが入っています。)

フェルメール(1632~1675)は、150年近く忘れられていて、19世紀後半、印象派が勃興する頃になってようやくフランスで再発見再評価されたそうです。

首都アムステルダムの風景。人口20万で、ロンドン、パリに次ぐ、当時ヨーロッパで三番目の大都市だったそうです。

風車や帆船の絵は、当時のオランダ人がこぞって自宅に飾りたがったようです。帆船画は、海洋貿易の国だからこそでしょう。

オランダは実学の国で、造船、治水、地図製作などと並び、医学、とりわけ外科分野において先進国だったそうです。

肥沃な土地が少ないオランダは、小麦やライ麦など主食を輸入していたが、食生活は豊だったようです。また、他のヨーロッパ諸国に比べ貧富の極端な開きもなかったようです。本作には、当時の一般家庭の質素な台所が描写されています。

1608年頃の制作で、おおぜいの人が氷上で嬉々として遊ぶ姿が描かれています。1609年(慶長14年)に、オランダが平戸に商館を設立し、1614年(慶長19年)大阪冬の陣、1615年(慶長20年)大阪夏の陣と、徳川幕府が基礎を固めていた頃です。


浅田次郎著「大名倒産」(文春文庫)を読み、映画「大名倒産」(dvd)を観ました。藩の立て直しが、喜劇的に描かれていて、面白い。

2025-04-18 19:30:00 | 読書

エンタメ系の時代小説を読もうと、浅田次郎著「大名倒産」(文春文庫)を読みました。2023年には映画化されているので、その映画もdvdで観てみました。

   

上巻のカバー表紙

(上巻あらすじ)

   

   

下巻のカバー表紙

(下巻あらすじ)

   

(感想など)

長い小説ですが、ストーリー展開が早く、どんどん筋を追っていけるので、あっという間に読了しました。経済小説の趣もあって、江戸時代後期の送金や金融の仕組み、さらに殖産振興、参勤交代の経費などのことも描かれていて、感心しました。

モデルとした場所は、新潟県村上市で、特産の鮭の加工や売りさばきなどについて、城下にある両替商(金融)の支店まで巻き込んで、借金返済への奮闘が続きます。両替商や資産家(大農家)など市井(民間)の有力者が、藩の殿様に協力したのには、心打たれました。

最後は金鉱の発見まで出てきて、やや安易ですが、借財の大きさがうなづけました。地方の衰退を食い止める努力は、江戸時代にも行われていたことが描かれ、貧乏神や七福神も活躍するエンタメ小説ですが、それだけではない作品。

(著者の紹介)

   

【映画 大名倒産】

    

【ストーリー】

越後・丹生山(にぶやま)藩の鮭売り・小四郎はある日突然、父から衝撃の事実を告げられる。なんと自分は、〈松平〉小四郎― 徳川家康の血を引く、大名の跡継ぎだと!庶民から一国の殿様へと、華麗なる転身…と思ったのもつかの間、実は借金100億円を抱えるワケありビンボー藩だった!?先代藩主・一狐斎は藩を救う策として「大名倒産」つまり藩の計画倒産を小四郎に命じるが、実は全ての責任を押し付け、小四郎を切腹させようとしていた…!残された道は、100億返済か切腹のみ!

(キャスト)神木隆之介、杉咲花、松山ケンイチ、小日向文世、小手伸也、桜田通、宮﨑あおい、浅野忠信、佐藤浩市
(スタッフ)原作:浅田次郎『大名倒産』(文春文庫刊)
      監督:前田哲、脚本:丑尾健太郎、稲葉一広 音楽:大友良英


(映画の場面から)

幼いころの松平小四郎

先代の藩主(佐藤浩市)。大名倒産を目論んでいる。

藩の立て直しに奮闘する松平小四郎(神木隆之介)。

小説とは異なり、悪役の二人が登場。両替商(金融業)と幕府老中。右に、隠居した先代藩主。

帳簿をあらためているところ。

悪役が逮捕。このへんは、ドタバタ劇です。

25万両(約100億円)の返済目途がたったことを、幕府老中に報告。実は、先代も悪事を暴く方に回っていたのでした。

お姫様役の藤間爽子。着物姿が似合っていました。

越後から江戸へ、船で産物(鮭)を運んでいるところ。鮭を持っているのは、藩主(松平小四郎)の育ての親。脚本は、原作をかなり捨象したものになっていて、深みはありませんが、エンタメ映画として、よく出来ていたと思いました。 

(参 考)「大名倒産」公式サイト。予告編も含まれています。

映画『大名倒産』|大ヒット上映中!


佐々木譲著「愛蔵版 武揚伝」(時代小説文庫)、新田次郎文学賞受賞作で、面白く読み応えがありました。

2025-04-04 19:30:00 | 読書

この3月18日に、佐々木譲著「愛蔵版 武揚伝」(時代小説文庫 角川春樹事務所)全3冊が、刊行されたので購入して読みました。

(上巻)

   

(上巻の内容)

黒船来航に揺れる幕末。榎本釜次郎(武揚)は、幕府要人の蝦夷地視察に随行した後、新設の海軍伝習所に入所。操船、蒸気機関等の技術や語学を研鑽し、子供の頃より興味を持っていたオランダ留学を果たす。欧州の地で近代国家間の戦争を目の当たりにした釜次郎は、自国である日の本とあまりに違う列強諸国の有り様に驚愕する──。

(中巻)

   

(中巻の内容)

幕府艦隊は最新鋭の旗艦・開陽丸の艦長に、オランダ留学で世界規模の思考を身につけた榎本武揚を抜擢。海軍力で薩長軍を圧倒するも、朝敵とされた徳川慶喜は抗戦に徹しきれず、江戸城は無血開城する。武装解除を逃れた幕府陸軍は、奥羽越列藩同盟への合流を図る。一方、徳川家の海軍となった艦隊を率いる武揚は、徳川家の家臣としての務めを全うせんと苦闘するが……。

(下巻)

   

(下巻の内容)

押し寄せる西軍の前に奥羽越列藩同盟の中心であった仙台藩が降伏、会津は陥落した。榎本武揚は徳川家艦隊を引き連れ蝦夷ガ島に向かい箱館を攻略することに成功。英仏米露普を相手に自治州を宣言し、理想を求めてエゾ共和国を樹立した。だが荒天により苦楽をともにした開陽丸が沈んでしまう。その後、榎本軍は五稜郭に拠り奮戦したが、土方歳三は倒れ、そして武揚は……。

(感想など)

佐々木譲さんは、好きな作家のひとりで、『道警シリーズ』など警察小説を主に読んできました。今回、時代小説文庫で榎本武揚の前半生を綴った『武揚伝』が刊行されたので、全3冊を購入。以前から読みたいと思っていた小説ですが、今回、文庫本ではあるものの、大きな活字で刊行されたので、読みやすく、その点も良かった。

下巻の著者あとがきには、『愛蔵版は、あくまで武揚の目を通じた幕末史、戊辰戦争史として記述することができたのだ』とあり、『武揚伝』は2001年に最初の上梓、2015年に決定版の刊行、今回は3度目の書き直しによる刊行です。榎本武揚や幕末史に関する研究が進んだことを受けての書き直しですが、著者の意気込みや使命感が感じられます。

僕は、榎本武揚については、幕末に幕府海軍を率き、函館に行ったことくらいしか知らなかったので、史実を踏まえての記述には、目が見開かれるようでした。内容がエキサイティングなことに加え、文章の流れもいいので、スムーズに読了できました。明治政府に出仕後の榎本武揚の後半生も、著者に書いてほしいと願っています。

(著者略歴)

【佐々木譲 ホームページ】

佐々木譲資料館 (sasakijo.com)

【角川春樹事務所ホームページ】

書籍情報|株式会社 角川春樹事務所 - Kadokawa Haruki Corporation


渋谷ゆう子著「揺らぐ日本のクラシック」(NHK出版新書)。各国の音楽事情をまとめ、クラシック界の現状がわかる力作。

2025-03-25 19:30:00 | 読書

渋谷ゆう子著「揺らぐ日本のクラシック」(NHK出版新書)が、書店で目に留まったので、読んでみました。

   

表紙

(本書の紹介)

   

(帯裏にある目次など)

 

   

(感想など)

著者の渋谷ゆう子さんは、音源制作・権利交渉・コンサルティングなど主にクラシック音楽家のサポートを行う(株)ノモス代表取締役で、香川県民ホール文化事業プロデューサーの職にもあり、それらの事業経験も踏まえながら提案を行うなど、前向きな内容で、感心しました。

オーケストラの運営や音楽教育に関する欧米、アジア各国の状況を記した第5章~第7章は、興味深かった。日本の現状も浮き彫りにし、クラシックのリスナーや音楽家を育てるため、地方における音楽祭の開催や、学校訪問などのアウトリーチ活動の必要性を説いています。

それらの活動だと、地元にプロのオーケストラがある地域(群馬県や山形県など)は、既に取り組んでいますが、その他の地域では、行政当局や文化事業を受託した者は、前例踏襲の運営を行い、アウトリーチなどとは無縁のところが多いと思われ、課題だろうと考えさせられました。

(著者略歴)

   

【NHK出版新書のホームページ】

新書 | 商品一覧| NHK出版

【(株)ノモス ホームページ】

NOMOS Inc. 丨 株式会社ノモス