日々の出来事

当院の出来事を紹介します

術前検査でひっかかり…

2012-10-30 16:02:19 | Weblog
火曜日は予約診療日とさせていただいています。
今日は午前中から、重度の歯周病のダックスに、抜歯処置を予定していました。

しかし…

聴診で不整脈があったため、術前検査として心臓のエコー検査をしました。
そうしたら…
右心室の拡大・三尖弁閉鎖不全、僧帽弁の変性が確認されてしまいました。
当然、麻酔が必要になる抜歯処置は延期です。

心不全ではないけれど、気づかないまま異常があったわけですね。
最近の転院症例であり、前の先生は心臓の異常は認識していなかったのでしょう。
予め気づいてよかった…と一安心した次第です。

麻酔学のセミナー

2012-10-15 19:28:58 | Weblog
昨日は、ノースカロライナ州立大学の久代季子先生の麻酔学セミナーに参加してきました。

卒業大学が同じですが、講師の先生の方が年下で、学校で一緒になったことはありません。
そういう若い先生が、外国で勉強されて日本に帰ってきて講義をする・・・、
そんな時代になったのですね。

麻酔学は興味大なので、すでに知っていることは多々あれど、
新しい視点や考え方の違いが伺えて、とても参考になりました。
局所麻酔を上手に使うべき・・・というご意見にはとても賛同できました。

私が麻酔を習い始めた頃は、けっこう心拍数重視の時代でした。
その後、獣医領域でも血圧測定・モニタリングが常識となり、
最近は血圧重視で麻酔管理を行うトレンドです。

動物病院の手術では、大半のところで麻酔の獣医師や専門家(麻酔医)をおけないでしょう。
手術をしている獣医師本人が麻酔もみているのが実情でしょう。
麻酔に慣れている看護師を置き、適宜指示していくのが大半の動物病院の現実です。

うちのように、いざという場合には麻酔が得意な獣医師を呼ぶことが可能な動物病院は少ないですね。
大塚先生は東大を出て獣医師になりましたが、麻酔をしっかり学んでいるので助かります。

麻酔は縁の下の力持ち、麻酔の安定なくしてよい手術なしです。
状態の悪い犬猫に、安定して安全に麻酔をかけるには、それ相応の実力が必要です。
昨日はペイン・コントロールについてよい勉強ができました。
さっそく今日は、猫で避妊手術+抜爪手術があったので、
しっかりペイン・コントロールを実施しました。

ちなみに飼い主さん自身が人の麻酔科医なんですよね・・・。
(平常心でお願いしますって言われちゃいました)



なかなか複雑な病態

2012-10-11 23:53:52 | Weblog
先日、一ヶ月間も入院していたワンちゃんがようやく退院しました。
遠方から来てくださる関係で、目途がたつまで入院加療していました。

この犬は、7月に獣医大学の動物病院で肝臓の腫瘤(しこり)を切除した子です。
切除した病変の病理組織検査では悪性のモノではなく、

 「切り取って終了!」

というケースでした。
術後の経過も良好で退院していきました。

しかし・・・退院後約一ヶ月ほどして、熱を出して再度当院にやってきました。

一週間程度の経過で抗生物質をいくつか使用しても熱が下がりません。
途中から消炎解熱剤を併用しても熱が下がりません・・・。
炎症の指標は高値が続いていました。
この段階で「原因不明発熱」の鑑別診断に入りました。

こういう場合に犬で一番多いのは、免疫が暴走して生じる「多発性関節炎」です。
関節液を採取して診断します。
この子は複数の関節からその所見が得られたため、多発性関節炎と診断しました。

一般にステロイド剤による治療が行われます。
膵炎を誘発することがあるので、無いことを確認してからステロイド剤を使用してみました。
しかし・・・、投与後数日で膵炎を起こしてしまい、そちらの治療を余儀なくされました。

ようやく落ち着いてきたところ、今度は鼻をケージに擦りつけて出血・・・、
単なる鼻擦りかと考えていたら、どんどん病変が拡大してきました。
この段階でピンときました。
「免疫介在性の皮膚病」の合併か・・・?

そこで今度は皮膚の病変をバイオプシー(生検)して、専門家に送付しました。
出てきた診断は予想どおり、「若年性蜂窩織炎様皮膚炎」でありました。
免疫の暴走により生じた皮膚炎であり、それで擦って出血したのでしょう。

治療は多発性関節炎と基本は一緒。
でも膵炎が起きたので、ステロイド剤の使用は厳しい状況です。
しかたないので、ステロイド剤を少なく使用しつつ、高価なシクロスポリンを併用してみました。
シクロスポリンは即効性が期待できないのですが、案外数日で効いてきた印象でした。
今は、自宅で投薬しながら、経過を観察中です。
今から考えると、大学で切除してもらった病変も、免疫介在性の病変だったのかもしれません。
医学的には、まだまだ未解明なことがたくさんあるのです。

診断と治療で結局、一ヶ月間の入院となってしまいました。
飼い主さんが熱心な方で、ここまでの話を理解して、必要なことは全てさせていただきました。
相当な費用がかかってしまい恐縮でしたが、ペット保険に入っていて本当によかった・・・、
そういうケースです。

なんとか目途がたったとはいえ、あとは反応を見ながら薬の減量をしていかなくてはなりません。
まだ終わってはいないのですね・・・。
久しぶりに根気のいるケース



忘れないでいるよ

2012-10-08 23:50:23 | Weblog
先日、長生きしてくれた猫ちゃんが自宅で大往生しました。
腎臓を患っておられましたが、毎週の通院治療でそれなりの状態で過ごしていました。
急に具合が悪くなり、数日間入院治療を行いましたが、あまり良い反応が得られませんでした。

「慣れた自宅で看取りたい・・・」

そういうお話がまとまり、それ以上の「見込みのない」延命治療は同意の上で行いませんでした。

お亡くなりになった後、火葬してきたとのご報告で飼い主さんがご来院くださいました。
そういう挨拶はとてもうれしいものです。
人も動物も、いつかは必ずお迎えがくる・・・これは現在において確実な真理の一つでしょう。
だからこそ、限られた時間をどう生きるか、生き切るか、私たちは真剣に考えなくてはなりません。

動物たちは、「ただ生きること」が人生でしょう。
その中で、縁あって飼い主さんと出逢っていることの奇跡・・・。
そこに深い因縁を感じるのは私だけでしょうか?

獣医師としてあるいは動物病院のスタッフとして、私たちにできることは、
飼い主さんと動物の間にある絆を守ること、動物の苦痛を取り除くこと、
飼い主さんのお気持ちを大切にすること、です。

そして、その旅立って行った子たちを「忘れないでいてあげること」、
それが私たちにできることです。
毎朝のミーティングで、亡くなっていった子たちの名簿を見ます。

あの子が亡くなってもう一年か・・・と感じることがあります。
時がたつのは本当に早いものなのですね。