日々の出来事

当院の出来事を紹介します

なかなか複雑な病態

2012-10-11 23:53:52 | Weblog
先日、一ヶ月間も入院していたワンちゃんがようやく退院しました。
遠方から来てくださる関係で、目途がたつまで入院加療していました。

この犬は、7月に獣医大学の動物病院で肝臓の腫瘤(しこり)を切除した子です。
切除した病変の病理組織検査では悪性のモノではなく、

 「切り取って終了!」

というケースでした。
術後の経過も良好で退院していきました。

しかし・・・退院後約一ヶ月ほどして、熱を出して再度当院にやってきました。

一週間程度の経過で抗生物質をいくつか使用しても熱が下がりません。
途中から消炎解熱剤を併用しても熱が下がりません・・・。
炎症の指標は高値が続いていました。
この段階で「原因不明発熱」の鑑別診断に入りました。

こういう場合に犬で一番多いのは、免疫が暴走して生じる「多発性関節炎」です。
関節液を採取して診断します。
この子は複数の関節からその所見が得られたため、多発性関節炎と診断しました。

一般にステロイド剤による治療が行われます。
膵炎を誘発することがあるので、無いことを確認してからステロイド剤を使用してみました。
しかし・・・、投与後数日で膵炎を起こしてしまい、そちらの治療を余儀なくされました。

ようやく落ち着いてきたところ、今度は鼻をケージに擦りつけて出血・・・、
単なる鼻擦りかと考えていたら、どんどん病変が拡大してきました。
この段階でピンときました。
「免疫介在性の皮膚病」の合併か・・・?

そこで今度は皮膚の病変をバイオプシー(生検)して、専門家に送付しました。
出てきた診断は予想どおり、「若年性蜂窩織炎様皮膚炎」でありました。
免疫の暴走により生じた皮膚炎であり、それで擦って出血したのでしょう。

治療は多発性関節炎と基本は一緒。
でも膵炎が起きたので、ステロイド剤の使用は厳しい状況です。
しかたないので、ステロイド剤を少なく使用しつつ、高価なシクロスポリンを併用してみました。
シクロスポリンは即効性が期待できないのですが、案外数日で効いてきた印象でした。
今は、自宅で投薬しながら、経過を観察中です。
今から考えると、大学で切除してもらった病変も、免疫介在性の病変だったのかもしれません。
医学的には、まだまだ未解明なことがたくさんあるのです。

診断と治療で結局、一ヶ月間の入院となってしまいました。
飼い主さんが熱心な方で、ここまでの話を理解して、必要なことは全てさせていただきました。
相当な費用がかかってしまい恐縮でしたが、ペット保険に入っていて本当によかった・・・、
そういうケースです。

なんとか目途がたったとはいえ、あとは反応を見ながら薬の減量をしていかなくてはなりません。
まだ終わってはいないのですね・・・。
久しぶりに根気のいるケース