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予防に必要性を感じない・・・と言われちゃいました

2010-04-12 21:47:40 | Weblog
先日いらした患者さんには、ちょっとビックリしてしまいました。
いつもは、ご年配のお母さんが犬を連れていらっしゃいます。
今回はお子さんでしょうか、お見かけしないご家族が同行していました。

狂犬病ワクチンは法的義務があるからする、しかし今元気だから混合ワクチンやフィラリアの予防、健康診断はしない、と受付で申されたようです。
例年、きちんと全部をプログラム通りに実践してきた方です。
お金の事情ができたのならまだしも、予防に意義を感じないという反応は、プロの獣医師としてそのまま許容するわけにはいきませんでした。

8歳を越えたらどんな犬でも立派は中年犬です。
ましてや10歳越えなら老犬の部類に入ってきます。
半年ごとの定期健康診断はなるべく受けていただきたいと思います。
確かに今元気ならよいのかもしれません。
しかし見てわかるレベルなら、それは相当進行した変化なのですね。
一見わからない異常こそ、早期に検出したいのです。
そこがわかっていない印象でした。

フィラリアの予防も「蚊がいない地域だから」必要性を感じないとおっしゃる・・・。
他の方々でも、毎年同じような会話を繰り返しています。
昨年は、「フィラリアにかかっても駆虫すればいい」という間違った情報を持って来た方がいました。
これは100%間違っています。
なぜなら薬剤で駆虫してフィラリアを除去しても、血管の硬化病変(後遺症)は残ってしまうからです。
蚊がいないから、も理由としては脆弱です。
フィラリアは、犬だけでなく野生のタヌキなどの動物も保有しています。
蚊は風に乗って相当な距離を移動することが実証されています。
濃厚に汚染された地域とそうでない地域があるのは事実です。
したがって、蚊のいない地域だからフィラリア予防は必要ない、というのは愛犬家が考えてはならない発想です。
ちなみに最近は、猫でフィラリア症の診断にいたるケースが増えてきました。
犬特有な病気だと思って、予防していないからでしょう。
猫のほうが診断が難しく、治療も厄介です。症状もまったく異なります。

混合ワクチンを毎年打つべきかについても、専門家の間で意見が様々でています。
抗体価を測ってから打てればいいのですが・・・、現場では現実的ではありません。
犬のジステンパーと類似した病気であるヒトの「はしか」は、ワクチンをしなくなったことで、
抵抗力の低い世代があり、結果として成人になって感染し重症化するケースが増えてしまいました。
強化できる免疫は付与しておく、これは予防の観点から重要だと思います。

する必要のない予防や、費用負担のできない検査はするべきではないでしょう。
しかし、するべきことをしないのを「怠慢」というのもまた事実です。
「予防」の意義を理解した上で、上手に予防方法を活用する、ことが必要です。
まともな獣医師が、本来なら予防できる疾患に遭遇してしまい助けられなかった時の悔しさ・・・。
これは当事者にしかわからない辛さです。
人間の子供を、100%に近く防げる病気で亡くすことになったらどう悔やむのでしょう?
動物だって家族です。しかも自分で予防や定期検査を選択することはできないのです。
思いやりの気持ちがあれば、安易な発言はできないと思うのですが、理想に走り過ぎでしょうか?