読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

抗しがたい孤独と集団心理が生んだ惨劇、「アメリカン・クライム」(アメリカ/2007年)

2009-06-22 08:48:50 | 映画;洋画
~シルビアとジェニーの姉妹は、父母がカーニバルで働く間、7人の子供を持つシングルマザー、ガートルードのもとに預けられた。しかし父母がガートルードに支払うはずの送金が滞ったため、姉妹に対する虐待が始まった。最初は怯えていたガードルードの子供たちも、次第に虐待に参加。さらには近所の子供たちも参加し、虐待は悲劇的な結末を迎えることとなる…。~

原題:AN AMERICAN CRIME
監督、脚本:トミー・オヘイヴァー
脚本:アイリーン・ターナー
音楽:アラン・レイザー
撮影:バイロン・シャア
出演:キャサリン・キーナー、エレン・ペイジ、ジェームズ・フランコ、ブラッドリー・ウィットフォード

実際の事件を基にした「あるアメリカの犯罪」と直訳される本作。登場人物のシングルマザー・ガートルード、彼女が預かったシルビアとジェニー姉妹他は実名なんですね。この事件が起きた当時、シルビアは16歳、ガートルードは36歳。実に衝撃的な事件ですが、それは、決して「あるアメリカの」ではなくとも、この日本でも起きうる事件だと思えます。

子沢山ながらシングルマザーとして一家の家計を背負う母は一人の女であり、寂しさを紛らわすための年下の男性との関係で子どもも作っている。その男性は夫としての自覚など微塵もない。そんな環境の中で、生活費を得るために隣人の娘を預かることになる。カーニバルでの地方巡業のため娘を預けた両親の小切手が後れたことからガートルードの気持ちが切れ、シルビアにその鬱積した気持ちが向ってしまう。

私はこの映画を観て、2006年に起きた秋田県の連続児童殺害の畠山鈴香被告のことを思い起こしました。無期懲役判決が下ったこの事件、二名の幼子を殺めてしまった事実の無惨さは償うことのできない犯罪ですが、その量刑として個人的には死刑が摘要されずに良かったと思います。自ら作った環境ではあるものの、生活に追われた彼女の状況を救うものがなかったという事実に思いを馳せます。

本作の事件は、"the single worst crime perpetrated against an individual in Indiana's history".(インディアナ州史上、個人に対して犯された唯一にして最悪の犯罪)と呼ばれているそうですが、実在の二人は次のような女性でした。


<Gertrude Baniszewski>(September 19, 1929 – June 16, 1990)
http://en.wikipedia.org/wiki/Gertrude_Baniszewski


<Sylvia Likens>(January 3, 1949 - October 26, 1965)
http://en.wikipedia.org/wiki/Sylvia_Likens


さらに、この事件には、ガートルードの指示によって、いや、無関心によって、複数の子どもたちがシルビアに虐待を行っています。そして、なぜそのようなことをしたのかという問いに、彼らは「わからない」と答えています。

かつて「ミルグラム実験」という有名な実験がありました。「閉鎖的な環境下における、権威者の指示に従う人間の心理状況を実験した」ものです。誤答した被験者への罰則として最初は45ボルトから始める電流が、上位者からの指示があるという条件下で、最終的に最大ボルト数として設定されていた450ボルトの電流を流すようになるという人間心理を示しました。

<ミルグラム実験 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%92%E3%83%9E%E3%83%B3%E5%AE%9F%E9%A8%93

まさにこの事件は、どうしようもない孤独とその孤独から発っせられた命令に応じた集団心理が最悪の形で生じてしまったということでしょうか。


監督はトミー・オヘイヴァー。彼は1968年、インディアナ州に生まれています。彼がこの映画を撮った理由がわかりました。「恋人にしてはいけない男の愛し方(GET OVER IT)」(2001)、「Breakfast with Tiffany」 (2008)などの作品があるようですが、これからが楽しみな監督の一人だと思います。

<Tommy O'Haver – Wikipedia>
http://en.wikipedia.org/wiki/Tommy_O%27Haver


シングルマザーのガートルードを演じたキャサリン・キーナー。「8mm」(1999)、「ザ・インタープリター」(2005)などに出演していたようですが、これまでには印象に残っていませんでしたが、本作で記憶に残る女優さんになりました。

キャサリン・キーナー(Catherine Keener, 1960年3月26日 - )は、「アメリカ合衆国フロリダ州マイアミ出身の女優である。妹のエリザベスも女優。父親はアイルランド系、母親はレバノン系。マサチューセッツ州のウィートン・カレッジで英語と歴史を学び、卒業後にロサンゼルスで女優を目指すようになる。
1986年に映画デビュー」。

「以後、トム・ディチロやスパイク・ジョーンズなどが監督するインデペンデント系作品で活躍をしているが、2001年に『マルコヴィッチの穴』、2006年に『カポーティ』でそれぞれアカデミー賞助演女優賞候補となっている。1990年に俳優のダーモット・マローニーと結婚し、息子が一人いるが2007年に離婚している」。

<キャサリン・キーナー - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%BC


シルビアに扮したのが、エレン・ペイジ。本作当時、20歳なんですが、16歳の少女を見事に演じきっています。

エレン・フィリポッツ=ペイジ(Ellen Philpotts-Page、1987年2月21日 - )は、「カナダの女優。10歳の時にカナダのテレビシリーズ『Pit Pony』でデビューを果たしている。この作品でジェニー賞などの受賞およびノミネートを受け、注目の子役となる。その後もいくつかの小規模作品に出演しており、カナダのモキュメンタリー番組『Trailer Park Boys』のトリーナ・ラエ役が当たり役となっている。またテレビ以外では、16歳の時にヨーロッパのインディペンデント映画『Mouth to Mouth』に出演している」。

「2005年に『ハードキャンディ』、翌年は『X-MEN:ファイナル ディシジョン』でキティ・プライド役に抜擢されるなど、ハリウッドでも注目を集めるようになる。2007年公開の『JUNO/ジュノ』で16歳で妊娠をしてしまった女子高生を好演し、20歳と335日という史上4番目の若さでアカデミー主演女優賞にノミネートされた。」

<エレン・ペイジ - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9A%E3%82%A4%E3%82%B8


ガートルードの年下の彼を演じたのがジェームズ・フランコ。「ウィッカーマン」(2006)、「告発のとき」(2007)などに出演していたんですね。

ジェームズ・エドワード・フランコ(James Edward Franco、1978年4月19日 - )は、「アメリカ合衆国の俳優。1999年に『25年目のキス』で映画初出演を果たし、同年放送開始のテレビシリーズ『フリークス学園』で人気となる。2001年にはテレビ映画『DEAN/ディーン』でジェームス・ディーンを好演してゴールデングローブ賞(ミニシリーズ・テレビ映画部門)を受賞、エミー賞にもノミネートされた」。

「2002年からの『スパイダーマン』シリーズのハリー役で世界的に知られるようになる(当初は主人公のピーター役のオーディションを受けていた)。2008年公開のコメディ映画『スモーキング・ハイ』でゴールデングローブ賞 主演男優賞 (ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされ、同年公開の『ミルク』ではスコット・スミスを好演してインディペンデント・スピリット賞助演男優賞を受賞した」。

<ジェームズ・フランコ - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B3

<アルコール依存克服と治療中の二人が演じる、「スパイダーマン3」(米/2007年)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/0601229985c9622f4ee3e75b0902c94f


検事を演じたのはブラッドリー・ウィットフォード。米NBCネットワークで1999年から2006年放送の政治ドラマ「ザ・ホワイトハウス」で大統領補佐官ジョシュ・ライマン役を演じていましたね。

<ブラッドリー・ウィットフォード>
http://www.jttk.zaq.ne.jp/jd_tww/bj/bw.html

<Bradley Whitford - Wikipedia>
http://en.wikipedia.org/wiki/Bradley_Whitford


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