美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

映画「サムジンカンパニー1995」 映画評

2021-07-19 12:29:08 | Weblog

 

世界経済フォーラムから「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート(世界男女格差指数)2021」が発表された。156ヵ国を対象に、「経済」「教育」「医療へのアクセス」「政治参加」の主要4分野に対する男女格差縮小への取組みをもとにランキングを行っている。歴史的、文化的背景もあってか、調査が公表されて以降、日中韓の3国は軒並み下位圏に留まっている。特に儒教的価値観、家父長的家族制度を重んじてきた韓国は3国中でも例年最下位。しかし一昨年頃から少しずつ改善し、今年は102位と僅かながら順位を上げた(中国107位、日本120位)。アメリカの‘Me too運動’を発端とした韓国内での様々な社会活動と政府のジェンダー格差解消に対する取り組みの結果である。とはいえ最近も軍部内で性被害を訴えた女性下士官が自殺するという事件が大きく取り上げられて、女性に対する差別や待遇格差の問題は今も根深い。

韓流ドラマや映画は、今では韓国内だけでなく日本を含めた海外でも多くの人々、特に広い世代の女性を惹きつけ、指示されている。その理由には、エンターテイメントとしての高い完成度に加え、ジェンダー問題をはじめ様々な社会問題を大衆の視線から提起し共感を得ている為ではないか。本作「サムジンカンパニー1995」もある韓国企業で働いていた高卒の女性社員が仲間たちと団結し、不当な扱いをする会社を相手に自分たちの主張を貫いた実話をもとに作られた物語である。映画の原題は「サムジングループ 英語TOEIC班(クラス)」。1988年のソウルオリンピックを経て、急激な戦後復興から高度成長の成熟期に入ろうとしていた韓国は、国を挙げてグローバル化をスローガンに掲げていた時代。商業高校を卒業した女性社員向けのTOEICクラスを開設し、英語教育を後押しする企業もあった。しかし、彼女らの努力と目標とは別に、越えられない確然たる性差別と学歴格差が存在したのも事実である。監督イ・ジョンピルは「自分が女性だったらもっと良い作品になるのではないか?」と躊躇い、また、この作品のもう一つの社会的テーマである会社の不正(汚染物漏出)隠匿に対する内部告発問題を描き方にも頭を悩ます。結果的に「フェミニズム的内容を望む人にも、もっと普遍的な話を求める人にも楽しめる映画を。そして何より社会の大多数の黙々と自分のいる場所で走り続ける普通の人への‘ファイト!’となる物語を作ろう。」と決心する。ストーリーは、実務能力は高く、やる気も人一倍あるものの雑用しか与えられない3人の女性社員が偶然、自社工場が有害物質を川に排出していることを知る事から事件がスタートする。事実を隠蔽する会社を相手に解雇の危険を顧みず、力を合わせ真相解明に向けて奔走する。三人組のひとりイ・ジャインを演じるのは、「クエムルー漢江の怪物」の少女役で熱演したコ・アソン。子役から確実にキャリアアップし、実力派の女優に成長した姿を魅せてくれる。

韓国と日本は、社会制度、文化、価値観でも共有する部分は多い。また、人種的な特徴、容貌、食文化、文法的言語構造もかなり類似している。そんな両国の女性を取り巻く社会環境や、直面している問題もやはり驚くほど共通点がある。しかし近年、メディアやエンターテイメントにおけるジェンダー意識は、明らかに韓国が一歩進んでみえる。人気となった日本の刑事ドラマでは、女性の役柄は相変わらず主人公男性の癒し役、また情報番組は女性アナウンサーやアシスタント女性は年配司会者の傍らいるだけ。さらには、スタジオの後方で、あたかもセットの一部のように大勢の若い女性を同じユニホーム服で座らせているバラエティー番組に至っては流石に首を傾げざるを得ない。勿論、映画を含めメディアコンテンツは創作であり現実ではないが、その国の価値観や内在する欲望を示す鏡とも言える。そんな意味で、この映画は女性陣による社会の様々な不条理に向けたファイティングポーズである。


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