アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭

2018-04-30 | 展覧会

2013年より毎年、春に開催されている「KYOTOGRAPHIE」。京都を舞台に開催されるこのフォト・フェスティバルは、寺院や歴史的建造物など、美術館とはひと味もふた味も違った空間で、写真芸術を楽しめるのが特徴です。すでに6回目を迎えるのですが、今まで行ったことがなく、今年こそは!と、数ある会場のいくつかを訪ねてきました。

まず訪ねた会場は、室町の「誉田屋源兵衛」。ここは、280年も続く老舗の帯屋さんで、精緻な織で生み出される帯はまさに芸術品、また現当主は現代アーティストとコラボするなど、革新への姿勢も鮮明です。このような機会でないと、なかなか足を踏み入れることはできません。

ここの「竹院の間」で開催されていたのが『深瀬昌久<遊戯>』、アップしているチラシは彼の作品です。深瀬は、60年代より森山大道や荒木経惟らとともに第一線で活躍していたが、92年に転落事故により脳に障害を負い、以降写真家として復活することなく、2012年に亡くなりました。私は今回、この写真家を初めて知りましたが、本展は、約四半世紀ぶりに彼の作品にスポットを当てた貴重な機会です。

作品には引き込まれました。代表作の「烏」や、愛猫を写した「サスケ」など、モノクロームの写真は、どれも孤独感に覆われています。決して美しい姿ではない被写体に、自身を投影させているのか、寄り添うような捉え方に、観る人の共感を誘います。また、写真を媒介にしながら、さまざまな表現を試みている作品たちは、とてもラディカル。そして被写体との新しい関係を探るように、自身を撮り続けている作品を見ていると、どんだけ写真に夢中なんだ!と感心してしまいます。もっと、もっと、新しい表現に挑戦したかったんだろうな…、不慮の事故が残念でなりません。いや~、この写真家の作品をたくさん見ることができて、本当に良かったです。

続いて「竹院の間」の奥にある「黒蔵」ではアフリカの写真家『ロミュアル・ハズメ<ポルト・ノボへの路上で>』が開催されていました。貧困問題をテーマにした社会的な作品もありながらも、アフリカ特有の土の色や空気感、人々が身に着けている衣服の鮮やかな色柄に目が釘付けになりました。この会場が、またモダンで特徴的。塔のような造りで回廊風の2階の奥には小部屋があったり、螺旋階段を上ったところに展示スペースがあったり。作家が来日してインスタレーションを制作されたとのこと、場所の面白さの触発もあったことでしょう。

次に訪れたのは、京都新聞ビル。ここの地下には、もう使われていない印刷工場跡があり、そこで『ローレン・グリーンフィールド<GENERATION WEALTH>』が開催されていました。地下に降りると、プンとインクの匂いがします。踏み入れた跡地の廃墟感は、ハンパない!!そこで、アメリカ人写真家が、自国をはじめとする世界各国の富への欲望を写し取った写真やスライドがこれでもかと展示されています。金満セレブのカラフルで巨大なツルツル写真と、工場跡の廃墟感の対比が凄すぎて、言葉を失いました。おもしろい!! 

写真という芸術の分野は、どちらかというとあまり積極的に見に行ってなかったのだけど、改めておもしろいなあ、と思いました。そこに写っているのは、真実ではないかもしれないけど、事実ではある…。(それも技術が発達している昨今では保証されないかも、ですが)そして、写す人がいて、被写体があって、写しているという事実がある。世の中に止まっているものは何もなくて、常に時間の流れの中で変化しているその中で、ある一瞬を切り取る芸術。無限に思える可能性と表現の限界の狭間で格闘する写真家。深いな~と思いました。

今回巡ったのは3ヵ所ですが、市内15ヵ所で開催されています。他にも、美術館「えき」で蜷川実花さん、細見美術館でラルティーグの展覧会はじめ、各所で関連イベントも開催されていています。京都ならではの楽しい写真祭、おすすめです!会期は、5月13日(日)まで。

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没後50年「藤田嗣治 本のしごと」-文字を装う絵の世界-

2018-04-18 | 展覧会

先日、目黒区美術館で始まったこの展覧会、関西では2月まで西宮大谷記念美術館で開催されていて、いつものごとく閉会ギリギリ最終日に訪ねました。今年、没後50年を迎える藤田嗣治。史上最大?の大規模な回顧展も予定されているようで、秋に京都に来るのを心待ちにしています。

本展は、藤田の画業の中でも、装丁・挿絵など、本にまつわる作品を中心に紹介されており、また、藤田直筆の挿絵入り、大変人間味あふれる手紙の数々を見ることができるのも魅力です。

フランスで画家としての地位を確立した藤田は、絵画だけではなく、本の挿絵の仕事にも積極的に取り組みました。当時、ヨーロッパは挿絵本の興隆の時代で、ピカソやシャガールらの挿絵本も出版され人気を博していたそうです。描かれている挿絵は、油彩画のような彩られた画面の魅力はないけれど、確かな画力で描かれた絵、特に伸びやかな線の美しさにはうっとり。特に素敵だったのは、「イメージとのたたかい」という豪華限定本。使われているのは「眠る女性」という水彩画1点のみですが、ページごとに、この絵の違う部分をクローズアップし、文章とそのレイアウトに響きあっていて、非常に美しい!

また、以前「藤田嗣治 手しごとの家(林 洋子)」という書籍を紹介した記事にも書いたように、藤田が筆マメなことには感心いたします。20才前後に友人に宛てたハガキ、最初の妻へフランスから送った手紙、どれも凝った絵が添えられていて、もらった人はさぞかし喜んだことでしょう。

そして今回の手紙のハイライトは、藤田が戦後、日本を離れてニューヨークへ向かい、妻の君代さんを呼び寄せるまで、日本に滞在していたアメリカ人の友人、シャーマンに宛てて連日のように書いた絵手紙。英語で書かれているので、意味を完全には理解できないけれど、近況や出来事がユーモアたっぷりに書かれた絵が楽しくて、見ていて全然飽きない!全部じっくり見るには時間切れだったのですが、本展のカタログには全部掲載されていたので、即買いしてしまいました。

美しい乳白色の美人画や、ヨーロッパの群像画を思わせる大壁画、そして恐ろしい戦争画、そんな大作を生み出してきた藤田ですが、一方、このような本当に手の中で慈しみたいような小さな作品を、愛すべき作品を、たくさん生み出したのも藤田なのです。本当に魅力的な人!

目黒区美術館では、6月10日(日)まで、その後もベルナール・ビュフェ美術館(静岡県)、東京富士美術館(八王子市)へ巡回いたします。ぜひ、大回顧展と合わせて鑑賞していただきたい! 

チラシを入手し損ねちゃいましたので、書影を掲載しておこう…。会田誠さんによる「藤田嗣治の少女」も興味深い、読みたいです!

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東郷青児展@あべのハルカス美術館

2018-04-11 | 展覧会

甘く憂いを秘めた女性像で人気を博した東郷青児(1897-1978)。昨年より生誕120年を記念して開催されている本展ですが、今年、没後40年でもあるのですね。この展覧会で、初期から晩年の作品までを概観し、すごく「時代」に寄り添った画家だったんだな~と改めて感じました。

時代によって作風の変遷が見られるのですが、私は特に初期の作品が魅力的だなと思いました。10代の頃に描かれた「コントラバスを弾く女」という作品の骨太なこと!その後、二科展で発表された作品は、非常に形態にこだわった、キュビスムのような、未来派のような。当時としては、相当、前衛的だったんでしょうね。写真を見ても、モダンなお姿。そう、ちょうど小倉遊亀さんと同年代なんだ。世間には、どのように受け取られていたのでしょうか。

20代半ばからフランスに留学し、そこでピカソや藤田嗣治などと交流があったとのこと。この頃、描かれている、ちょっと木の人形を思わせる太い手足の人物像が、すごくいいなと思いました。「ベッド」という作品が好きだったのですが、グッズなどには全く取り上げられてなくて残念でした。

帰国して後の戦前のモダニズムの空気は、この画家の作風にすごくマッチしていたように思えました。戦争の足音も聞こえ始めていたのかもしれませんが、この時代の文化の様子は、かなりモダンでおしゃれ。翻訳と装丁を手掛けた書籍の数々、デザインを担当した舞台芸術など、今見ても斬新です。

30年代の転機として、時代の最先端であった百貨店での仕事があげられます。中でも、京都の丸物百貨店で、藤田嗣治とともに対となる壁画を競作、東郷青児の「山の幸」と藤田嗣治の「海の幸」が並べられて展示されていたのは、壮観でした。こんな巨匠の作品たちが、大食堂に飾られていたなんて、めっちゃ贅沢な空間!

戦後の復興の中から、「東郷様式」と言われる美人画を確立させていく作品を見ることができるのですが、この完成された美人画の、画面の滑らかさは凄いものがあります!陶器のようなツルツルの肌、真っ白な髪の毛、表情のなくなった顔の女性像を見ていると、美しく官能的ではあるけれど、血の通っていないサイボーグのよう…。それでいて、存在感のある手足の丸みは、すごく立体感があり、幻想的で不思議な絵です。以前見た「レンピッカ展」のサイボーグのような女性像と重なるところがあるように感じました。

Wikiを見ていたら、歌手デビューしたり、映画に出演したり、数々の浮名も流したりして、けっこうワイドショー的な話題になっていた方のよう??そのへんのところを、もう少し年上の方に聞いてみたいものです。

展覧会は4月15日(日)まで。初期の素晴らしい作品がたくさん見れる貴重な機会、まもなく終了です!

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坂本龍一 with 高谷史郎 設置音楽2 IS YOUR TIME

2018-03-11 | 展覧会

その展示空間に足を踏み入れるのは、ちょっと怖かった。なぜなら、目が慣れていなくて真っ暗だったから。中は広い長方形の空間、両側に背の高いモニターが5台ずつ並べられていて、音と光が瞬いている。そこに映るのは、具体的な映像ではなく、音に連動した電子の軌跡。そして、一番奥にぼんやり浮かび上がって見えてきたのが、小さなグランドピアノだった。

「何がなんだ」って全然わからないまま、この二人が協働してるなんて、絶対見に行かなければ…!と思って新宿までやって来た。音と映像のコラボレーションが展示空間に設置される「設置音楽2」は、昨年、坂本龍一が8年振りに発表したアルバム「async」を携え、ワタリウム美術館で行った展覧会の続編だ。

音と映像のコラボレーションは、約70分ほどでワンサイクルとのこと、水の流れる音や鳥の声など自然の音や人の声や電子音、そしてピアノの音…。緻密に組み立てられたであろう、さまざまな音が映像の光とともに空間を満たす。あちらこちらと音の出るスピーカーも変化するので、自分の立ち位置を変えると、音の聞こえ方も変わる、映像の見え方も変わる。オモシロイ!

ピアノにそっと近づいていって「あっ」と声をあげそうになった。汚れて泥をかぶったYAMAHAのベビーグランド。中を覗くと、高音のピアノ線が切れている。これは、東日本大震災の津波で被災した宮城県名取市の高校のピアノだそうだ。線は一部切れ、躯体は傷ついているけど、フレームがすごくしっかりしていることに、むしろ驚いた。自動で鍵盤を押すことができるよう、がっしりとピストンのような機械に覆われている。スピーカーから流れる、さまざまな音の中で、このピアノが時にかすかに、時にダーンと強く、ナマの音を発するのだ。

例えば、全体の音が止んで静寂が訪れた時、ピアノの低音がダーンダーンと鳴ったり、そのタイミングが絶妙すぎて、てっきりプログラムに組み入れられていると思ったら、それは全くの偶然だった。このピアノの音は、世界中で起こっている地震の揺れを音に置き換えたもの、ひっきりなし発せられるピアノの音に、地球の奥にうごめくエネルギーを感じる。

どうも、ピアノが怪我をしてギプスをつけられている子に見えて、何だか傍を離れがたかった。先のブログに書いたように、ピアノについての本を読んでいたから、ある意味「無残」な姿が悲しくもあり、それでも音を発することのできる強さに胸が締めつけられるようでもあり…。何とも言えない気持ちになった。坂本さんは、このピアノは「自然によって調律された」とおっしゃっている。

五感が揺さぶられる、素晴らしい空間を味わい、ホントに感動しました。ちょうど京都で坂本龍一のドキュメンタリー「CODA」が始まるので、それを見て記事を書こうと思っていて遅くなりました。結局、家の事情で見に行けなかったのですが、3月10日夜にNHKで坂本さんとこの津波ピアノをめぐるドキュメンタリーが放映されます。それを待ってると、展覧会が終わっちゃうからネ。ぜひ、この稀有な体験を多くの人に味わっていただきたい!

展覧会は3月11日(日)まで。絶対、行くべし!!

※坂本龍一さんと津波ピアノのドキュメンタリーを見て、訂正と追記。

会場に並んでいたモニターは両側5台ずつの計10台、スピーカーが14台でした。訂正します。また、津波で被災したピアノとは、私は流されたと思い込んでいましたが、体育館で水に浸かり、あれほどの重量が水に浮かんだということです。被災直後に体育館で坂本さんが奏でたピアノの音は、殊の外美しかった。高校の音楽の先生が、体育館と一緒に壊されなくて本当に良かった、と言われていたのが印象的でした。

津波ピアノは、この後、世界中で展示されるということです。東京展は3/11で終了、お見逃しなく!

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谷川俊太郎展@東京オペラシティ

2018-01-28 | 展覧会

詩人、谷川俊太郎さん。私にとって、詩人とは小説家より遠い存在で、その著書を手に取ることも実は多くないのですが、谷川さんは別。とっても身近に感じる詩人です。といっても作品をよく知っているわけでもなく、今回、「マザーグースのうた」が谷川さんの翻訳だったと初めて知りました。私の谷川さんの作品との初めて出会いは、中学時代に知ったそれだったかも。

詩人の谷川さんを見せる展覧会、やはり膨大な作品を紹介する手法として、書籍の展示とかがメインかな…?って想像してたら、全然ちがった!

リアルに今を生きている、そして言葉に向き合い創作を続けてきた65年の積み重ねを経た「谷川俊太郎」という人物を、まるごと見せてやるって意欲にあふれた展示で、とってもおもしろかった。今までの膨大なご自身の著書は、その、ほんの一角の本棚に並べられていただけ。谷川さんが、ホントに特定にフィールドにこだわらず、言葉の可能性を広げるべく、いろんな分野に挑戦してきたことの証だな~と改めて思いました。

展覧会の冒頭のコーナーでは、壁の四方に映像のモニターがいくつも並べられ、文字と映像と色と音楽による詩のコラボを見ることができます。詩を朗読する言葉に音楽が寄り添う。そこに、まさに「うた」が生まれる!

コトバ ウタ オト リズム キゴウ モジ ・・・ 詩ってなんだろう?

そうは言っても、アートギャラリーのショップでは、ご著書がたくさん並べられていました。美しい造本のものがいっぱいあって目移りしましたが、この本に一目惚れ。

  せんはうたう

望月通陽さんのシンプルな線描の絵と谷川さんの詩との、美しいコラボレーション。望月さんの心おもむくままに描かれた絵に、谷川さんが詩をつけられたそう。絵には、人物のほかに動物や鳥やピアノが描き込まれていて、谷川さんの言葉とともに、すごく豊かな世界が広がっている気がします。

 おんがくも おと   なきごえも おと   ちきゅうは おとのほし

 

この素敵な展覧会は、3月25日(日)まで。

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「福岡道雄 つくらない彫刻家」@国立国際美術館

2018-01-14 | 展覧会

会期終了も迫ったクリスマスに見に行った、この展覧会。福岡道雄さんのことは、2014年のヨコトリ他、このブログで何度か取り上げた。繰り返しにはなるが、最初に見た作品が「風景彫刻」であったため、材質は特徴的だが、とてものどかな作品を作る作家だと思い込んでいた。何だか違うゾ?と思い始めてから、俄然興味がわき、もっと深く知りたいと思っていたので、この展覧会はとても楽しみにしていたのだ。

福岡さんは1936年大阪生まれ、80才を超えて今だご健在ではあるが、2005年に「つくらない彫刻家」となることを宣言した。それから10年以上。展覧会は、彫刻家として出発してから、常に「つくること」の意味を問い続け、美術界や美術のあり方、そして自身の作品にも抗い格闘し続けた、その60年以上の作品の変遷を辿っている。6つのゾーンに分けられた展示会場のタイトルが誠に興味深い。

「第1章:彫刻らしきそれを創ろうと思えば思う程、真実らしい仮面をかぶった偽作が出来る」地中で生まれた砂まみれの彫刻<SAND>、地べたを這う<奇蹟の庭>といった初期の作品は、なるほど、いきなり彫刻らしくない。とがってるな~って感じ。

そして「第2章:空中で、もうだめになって、地上へ舞いもどることもできないし、だからといって、もっともっと高く舞いあがることもできないでいる毎日の僕達なのだ」

このゾーンだけ写真撮影OK。一見ピンクでファンシーに見えるこの作品、ヨコトリでも見たが、よくよく見ると表面は臓器を思わせ、軽々しくもないのに空中に浮いている、なんとも落ち着かない浮遊感なのだ。タイトルのような思いが込められてるとすると、なおさら重々しく感じてくる…バルーンなのに!でも、この展示は好きだった。

次のコーナーの巨大な黒い蛾は、ちょっと不気味で引いた。だって畳ぐらいでの大きさで黒光りしているのだもの…。ここで、以前ギャラリーほそかわで見た3つの顔の作品にも再会した。

その次のお部屋は、対照的。壁も床も真っ白なスペースに、おなじみの「風景彫刻」が配されている。FRP(繊維強化プラスチック)で出来た黒い立方体。その上面に琵琶湖の凪ている湖面や、唐津の立っている波が表現されていたり、水辺で小さな人が釣りをしたり、石を投げたりしている。高さはだいたい50~60センチなので、よく見ようとすると、しゃがんだりかがんで覗き込んだり、けっこう体を使う。この展示会場の静謐な空気感が、すごく作品にマッチしていて心地良かった。

一番、印象深かったのは「第5章:中心の無い彫刻、あるいは無数に中心のある彫刻」。2000年前後から制作し始めた、FRPの黒い画面一面に、文字を刻んだ作品。確かにこれは「オールオーバー」だ。刻まれている言葉は、「何もすることがない」とか「何をしても仕様がない」とか「何もしたくない」とか「何をしていいのか分からない」とか…。こんな言葉が無数にひたすら刻み込まれているのを見ていると、念仏を思わせるようで重苦しく、あまりに切々として胸が詰まるというか…。ここまで追い詰められていたのか、となんだか辛くなってしまった…。

ところが!一度見て、再度まわっていたら、少し離れて見ると、この文字の並びがまるで織柄のように美しく見えることがわかった。これは、ただ思いを刻みつけたのたものではなく、やはり出来栄えを意識した作品なんだなあ、と。また、同じ言葉がひたすら並んでいる中に、いくつか小さな絵が描かれていて、よく見るとそのまわりには、絵にまつわるエピソードが忍ばせてあったりして、クスリと笑えたり。なんだか、やっぱりタダモノではないお方だわ~。

最後は「第6章:なに一つ作らないで作家でいられること、何も表現しないで作家として存在できること」。<飛ぶミミズ>や<腐ったきんたま>という作品を最後に、「つくらない作家」を宣言した福岡さんが、2012年に"はからずも"生み出してしまった<つぶ>。まさに豆粒のようなその作品は、つくることに抗い続けた作家の手が、無意識に生み出した彫刻の結晶のように思えて、神々しかった。

展覧会の会期中には、2回も作家ご本人のアーティストトークがあったのに、行くことが出来なくて、本当に残念だった。どんな声でどんなしゃべり方なんだろう?福岡道雄さんの口から自身の作品のことをぜひ聞きたかった。また機会があるといいなあ。作家に対してますます興味の掻き立てられる、本当にインパクトある展覧会だった。

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2018謹賀新年 ~昨年の展覧会を振り返る

2018-01-06 | 展覧会

大変遅くなりましたが、明けましておめでとうございます! 昨年も時々アップの記事をお読みくださり、誠にありがとうございました。

今年のお正月、1、2日は暖かくのどかでしたね~。3年ぶりに新春健康マラソン(3キロ)に出場し、爽快でしたが盛大な筋肉痛となりました…。

さて、恒例の昨年の展覧会の振り返りですが、鑑賞したのは20本程度、春から夏にかけて仕事の都合でブランクがありましたので、例年よりさらに少なめとなりました。年末に、Twitterの「#2017年の展覧会トップ3」というタグにのっかって、以下の展覧会をあげさせていただきました。

オルセーのナビ派展

ナビ派の作品がたくさん見られるとあって、楽しみに出かけました。中でもお目当てのヴュイヤールの絵画に感動!初めて見たヴァロットンもスゲーと思いました。

奈良美智 for better or worse

ペインティングを中心に、奈良さんの初期から現在までの作品を概観できる貴重な機会でした。改めて画力に感嘆し、奈良さんの世界観にすっぽりはまり込んだ満足の時間でした。

北斎 ー富士を超えてー

特筆すべきは、肉筆画でした。北斎の晩年の自由な境地もよかったけど、何といっても娘、葛飾応為の「吉原格子先之図」には震えました!激混みではあったけど、あれは見ることができて、本当に良かった。

その他にも、ヴェルフリやクラーナハ、バベルの塔、有元利夫など、人の手が生み出す、一筆一筆がこんなにも素晴らしい絵をつくりあげるんだ!という画力に魅せられた展覧会が多かった気がしています。

とはいえ、実はインパクトが非常に大きかったのは、ブログには書けていない次のふたつの(絵画ではない)展覧会。

年末に見た「福岡道雄展」。福岡さんは、美術家としてのあり方が、ロックすぎる!後日、ブログで記事をアップいたします。

そして、「末法/APOCALYPSE -失われた夢石庵コレクションを求めて」@細見美術館。

この展覧会、行列を成す大盛況の「国宝展」の陰に隠れるようにひっそりと開催されながら、実はかなり話題になっていました。チラシとかHPを見ただけではイマイチ触手が動かなかったのですが、SNSでの「裏国宝展」という評判が気になり見に行ってみたところ…!

展覧会が終わるまでは、内密に…とされていたのですが、夢石庵という架空のコレクターが、自身の美意識で自分が堪能するためだけに蒐集した美術品たちを愛でる…という設定。会場に入ると他には誰もおらず、強烈なライティングで劇的に照らされた平安時代の仏像が、私とだけの世界をつくる。そこに流れる濃密な空気。作品たちは、「国宝展」のようによそよそしくなく、何かしら魅せられる点があって、とても親密に語りかけてくるよう。平安時代に広まった末法思想、その到来に備え、経典を地中に埋めた「経塚」。金峯山の出土した遺物を再現した、神像、鏡などの金工品を積み上げた展示は、すごいナマナマしい現実感があってビックリしました。

「種あかし」を知ってからの方が、いっそうこの展覧会をおもしろく感じましたので、もっとたくさんの人に見てもらいたかった気もしますが、ひっそりと鑑賞することも重要なポイントなのでね~。うまく自分のアンテナに引っかかってくれて、見に行くことができ、大変満足でした。

今年は、どんな素晴らしい展覧会、アート作品に出会えるでしょうか?昨年も、見に行った展覧会より、行きたくて見逃した展覧会の方がずっと多かった(涙)。

ミュシャ、運慶、不染鉄、テオヤンセン、ジャコメッティ、長沢芦雪…、それから淺井裕介さんの土の絵画も見に行けなかったなあ。

一方、もくろんでいた直島への旅を実現できたのはヨカッタ!シリーズ最終回も近日アップいたしますので、お楽しみに!

というわけで、今年もボチボチになりますが、何卒よろしくお願いいたします! 

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有元利夫展 — 物語をつむぐ

2017-11-26 | 展覧会

有元利夫さんの、関西では10年ぶりとなる展覧会を見に、紅葉の美しく染まった山間の美術館「アサヒビール大山崎山荘美術館」を訪ねました。

1985年に38才の若さで亡くなった有元さん、私が彼の作品を知ったのは亡くなられた直後だったのですが、それからもう30年以上が経ってしまったのですね。以前にも展覧会を拝見していて、お気に入りの作品たち「花降る日」や「室内楽」「厳格なカノン」などなどに、また会えたことを嬉しく思いました。そして、作品がそれ以上増えないことが、とても切ないです。

そんな中でも、今回アトリエにたくさん残されていたという未完成作品が2点展示されていたのは、興味深かったです。もし30年という歳月を重ねていたならば、どんな作品が生み出され、どんな作風の変化が見られたのでしょうか…。

改めて作品の前に立つと、「詩情」という言葉が本当にぴったりで、また有元さんがバロック音楽を好まれたということもあってか、なんだか絵画の世界が天上の音楽に包まれているように感じるのです。今回、有元さんが愛用していたというリコーダーも展示されており、そして、なんとミュージアムショップでは、有元さんが作曲されたという「ROND」という曲のCDも販売されていましたので、思わず購入し、その美しい音楽を聴きながらこのブログを書いています。

フレスコ画を思わせる画面の肌合、有元さんは大学在学中に訪ねたイタリアで、ピエロ・デラ・フランチェスカの影響を受けたそうですが、私がピエロ・デラ・フランチェスカの作品が好きなのは、逆に有元さんの作品が好きだったから。絵画作品でも滋味のあるけぶったような色彩が好きなのも、有元さんの作品の影響かも。若い頃に出会ったこの作品たちは、私の感性に深くインパクトを与えたのかもしれないな、と改めて思いました。

洋館づくりの古い別荘である美術館で、ひっそりと有元さんの作品と対話できると思っていましたが、思いの外、お客様が多くてびっくりしました。ますます評価を高めているのは、とても素晴らしいことです!紅葉もちょうど見頃で、バルコニーからの景観は素晴らしかったです。

また、通常は非公開の茶室「彩月庵」で、年に1回開催されているお茶席が行われており、美味しいお抹茶とお菓子をいただきました。素敵な美術作品とともに、とても豊かな時間を過ごすことができました。あー、楽しかった!

展覧会は、12月10日(日)まで。

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北斎 -富士を超えて- @あべのハルカス美術館

2017-11-09 | 展覧会

先日の「国宝展」につづき、この「北斎展」も、大盛況!会場は大混雑であります。また、浮世絵の展覧会は作品が小さいものだから、混んでいると作品がよく見えない(泣)。そこで、平日閉館前を狙って見に行ってまいりました。

今年は北斎の当たり年。東京でも北斎とジャポニスムにスポットを当てた展覧会が行われていますが、本展はロンドン・大英博物館で開催された展覧会の里帰り、北斎の長きにわたる画業の特に晩年30年に焦点を当て、肉筆画を多く集めているのが特徴です。11月1日から後期展示が始まり、いくつかの作品が入れ替わりましたが、私の最大のお目当ては、北斎ではなく娘の応為が描いた「吉原格子先之図」。これは、楽しみ~。

浮世絵(錦絵)を目にすると、いつもながら絵師・彫師・摺師の高度なコラボに驚嘆してしまいます。今回、出品されていた下絵は、作品の原型を見ることができた点で、かなり興味深かった!やっぱり下絵がおもしろいからこそ、彫師・摺師の腕を奮わせ、絵を最大限に活かし表現する錦絵が生み出されたのでしょう。

それにしても北斎の画力は素晴らしく達者です。本当に、自在に何でもどんな技法ででも描けた人だったんだろうなあ。90才まで衰えを知らぬ画力を見ると、北斎にとって描くこと=生きることだったんだな、と感じます。展示のキャプションの隅に描いたときの年齢が記されているのは良かった。常に「北斎」という人物を、意識しながら見ることができたように思います。

北斎の作品で、一番心に残ったのは、最後の作品、90才で描いた「雪中虎図」。何だか毛皮をパッチワークしたような虎の姿は、ふんわり宙に浮かんで、楽しそうに手足を掻いています。楽天的な表情とは対照的に鋭くとがった爪が、雪をかぶった木の葉の鋭さと呼応していて印象的でした。全体的な空気感は、神々しい!

そして、お目当ての葛飾応為「吉原格子先之図」は…思ったより小さな作品で、軸装されていました。ものすごい人だかりで、全然ゆっくり見れなかったのですが、北斎とは全く違ったすさまじい魅力のある作品です。何といっても、光と影の対比が素晴らしい。格子の向こうの光輝く世界、外から眺める人物たちの暗さ。でも格子の向こうの遊女たちの境遇を思うと…。とてもドラマチックで、この小さな絵に表現されているものの深さに、いつまでもいつまでも眺めていたくなる、そんな作品でした。実物を見ることができて、本当に良かった!

応為の作品は3点ほど見れたのですが、北斎と共作とされている「菊図」は、速水御舟を思わせるような、細密緻密な描き込みに圧倒されました。色彩が美しく、絵にとても重厚感があるように感じます。北斎が60~70才の頃に描いた、ライデンからやって来たちょっと西洋絵画を思わせる画風の作品も、もしかして応為の手になるものか?と思ったり。(この前のTVドラマではそうなってましたね)

里帰り展だけあって、大部分が大英博物館の所蔵、その他にも国内外のコレクションから珠玉の作品が集められた素晴らしい展覧会だと思いました。今回、時間も限られていて、実は版画作品をじっくり見ることができなかったのですが、「富嶽三十六景」を始めとする画面の斬新なデザイン感覚も素晴らしい。やはり、北斎は世界中が認める、優れたアーティストであることを再認識いたしました。

展覧会は11月19日(日)まで。これからますます混雑しそうですが、貴重な機会なのでぜひ! 

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特別展覧会「国宝」@京都国立博物館

2017-10-22 | 展覧会

ずいぶん前から話題になっていた、京都国立博物館開館120周年記念展覧会が、いよいよ始まりました!展示作品、すべて国宝!しかも、4期に分けて展示替えをしながら約200点がお目見えします。訪ねる時期によって、見られる作品が変わりますので、いつ行くかも重要なポイント。

ということで、早速訪ねてまいりました。とにかく大混雑が予想されるので、まだマシと言われている夜間開館を狙いましたが、それでもかなり混んでいました。オープニングⅠ期の最大の見どころは、雪舟。どの画家よりも多くの作品が国宝に指定されている雪舟、その6点が一堂に揃いました。

伝統的なようで斬新な、なんだかワイルドな印象の風景画5点と、タイプの異なる21世紀に入って国宝指定された「慧可断臂図(えかだんぴず)」。達磨大師の逸話をあらわした劇的な場面なのだけど、人物が妙に困惑した表情で、しかも人物の顔と背景の岩はすっごく細密描写なのに、衣は、グイグイとした単純な太い線だけで表現されている。その対比がとっても不思議な感じで、何だか、ヘン(?)な絵なのです。そのへんのことろは、山口晃氏の「ヘンな日本美術史」を参照するとおもしろいです。

作品展示は、12ジャンルに分かれているのですが、まずお目当ては「考古」。岡本太郎も驚愕の火焔型縄文土器。ニョキニョキした縁の装飾は、すごい強い生命力が宿っているようで迫力があります。そして同じく縄文時代の土偶が3点。すごい造形だなあ~と感心します。想像力があるようで、実はとっても写実的なのかも。どんな人が何のために作ったのでしょうね。

この土偶にも、また、同じ弥生時代の銅鐸などにも見られたのですが、刻まれているグルグル渦巻模様が興味深かったです。ケルトとか、全世界で見られる渦巻模様の持つ意味って…世界の始まり?

次のお目当ては「絵巻物」!残念ながら「源氏物語絵巻」はまだ展示されていなかったのですが(Ⅲ・Ⅳ期)、「信貴山縁起絵巻」とか「病草紙」とか、いきいきとした物語を追っていくのが、めちゃめちゃおもしろかったです!もっといっぱい見たいなあ…。

絵画のもうひとつの目玉は、俵屋宗達「風神雷神図屏風」。「琳派展」以来の再会です。相変わらず、愛くるしい風神・雷神さま…。尾形光琳の「風神雷神図屏風」は、国宝ではないのね…、でも「燕子花図屏風」は出品されます(Ⅳ期)。これも、ぜひ見てみたいですね~。長谷川等伯の「松林図屏風」はⅢ期出品です。うまく散らされております!

この展覧会の予習・復習には、これがおススメ! 

 BRUTUS(ブルータス) 2017年 10/15号[特集 国宝。]

日本美術ご専門のライター橋本麻里さんによる編集、いろいろな興味深い切り口で、ほぼすべての作品を網羅し、しかも綴じ込みの展覧会パーフェクトガイド付き!

1回行くと、ハマってしまう「国宝」展。あれもこれも見たくなってしまいますね。ますます混雑が予想されますが、貴重な機会なのでぜひ。

展覧会は11月26日(日)まで。現在、Ⅱ期(~10/29)で、Ⅲ期(10/31~11/12)、Ⅳ期(11/14~26)と続きます。出品作品の詳細はこちらから。

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