アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

谷川俊太郎展@東京オペラシティ

2018-01-28 | 展覧会

詩人、谷川俊太郎さん。私にとって、詩人とは小説家より遠い存在で、その著書を手に取ることも実は多くないのですが、谷川さんは別。とっても身近に感じる詩人です。といっても作品をよく知っているわけでもなく、今回、「マザーグースのうた」が谷川さんの翻訳だったと初めて知りました。私の谷川さんの作品との初めて出会いは、中学時代に知ったそれだったかも。

詩人の谷川さんを見せる展覧会、やはり膨大な作品を紹介する手法として、書籍の展示とかがメインかな…?って想像してたら、全然ちがった!

リアルに今を生きている、そして言葉に向き合い創作を続けてきた65年の積み重ねを経た「谷川俊太郎」という人物を、まるごと見せてやるって意欲にあふれた展示で、とってもおもしろかった。今までの膨大なご自身の著書は、その、ほんの一角の本棚に並べられていただけ。谷川さんが、ホントに特定にフィールドにこだわらず、言葉の可能性を広げるべく、いろんな分野に挑戦してきたことの証だな~と改めて思いました。

展覧会の冒頭のコーナーでは、壁の四方に映像のモニターがいくつも並べられ、文字と映像と色と音楽による詩のコラボを見ることができます。詩を朗読する言葉に音楽が寄り添う。そこに、まさに「うた」が生まれる!

コトバ ウタ オト リズム キゴウ モジ ・・・ 詩ってなんだろう?

そうは言っても、アートギャラリーのショップでは、ご著書がたくさん並べられていました。美しい造本のものがいっぱいあって目移りしましたが、この本に一目惚れ。

  せんはうたう

望月通陽さんのシンプルな線描の絵と谷川さんの詩との、美しいコラボレーション。望月さんの心おもむくままに描かれた絵に、谷川さんが詩をつけられたそう。絵には、人物のほかに動物や鳥やピアノが描き込まれていて、谷川さんの言葉とともに、すごく豊かな世界が広がっている気がします。

 おんがくも おと   なきごえも おと   ちきゅうは おとのほし

 

この素敵な展覧会は、3月25日(日)まで。

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「福岡道雄 つくらない彫刻家」@国立国際美術館

2018-01-14 | 展覧会

会期終了も迫ったクリスマスに見に行った、この展覧会。福岡道雄さんのことは、2014年のヨコトリ他、このブログで何度か取り上げた。繰り返しにはなるが、最初に見た作品が「風景彫刻」であったため、材質は特徴的だが、とてものどかな作品を作る作家だと思い込んでいた。何だか違うゾ?と思い始めてから、俄然興味がわき、もっと深く知りたいと思っていたので、この展覧会はとても楽しみにしていたのだ。

福岡さんは1936年大阪生まれ、80才を超えて今だご健在ではあるが、2005年に「つくらない彫刻家」となることを宣言した。それから10年以上。展覧会は、彫刻家として出発してから、常に「つくること」の意味を問い続け、美術界や美術のあり方、そして自身の作品にも抗い格闘し続けた、その60年以上の作品の変遷を辿っている。6つのゾーンに分けられた展示会場のタイトルが誠に興味深い。

「第1章:彫刻らしきそれを創ろうと思えば思う程、真実らしい仮面をかぶった偽作が出来る」地中で生まれた砂まみれの彫刻<SAND>、地べたを這う<奇蹟の庭>といった初期の作品は、なるほど、いきなり彫刻らしくない。とがってるな~って感じ。

そして「第2章:空中で、もうだめになって、地上へ舞いもどることもできないし、だからといって、もっともっと高く舞いあがることもできないでいる毎日の僕達なのだ」

このゾーンだけ写真撮影OK。一見ピンクでファンシーに見えるこの作品、ヨコトリでも見たが、よくよく見ると表面は臓器を思わせ、軽々しくもないのに空中に浮いている、なんとも落ち着かない浮遊感なのだ。タイトルのような思いが込められてるとすると、なおさら重々しく感じてくる…バルーンなのに!でも、この展示は好きだった。

次のコーナーの巨大な黒い蛾は、ちょっと不気味で引いた。だって畳ぐらいでの大きさで黒光りしているのだもの…。ここで、以前ギャラリーほそかわで見た3つの顔の作品にも再会した。

その次のお部屋は、対照的。壁も床も真っ白なスペースに、おなじみの「風景彫刻」が配されている。FRP(繊維強化プラスチック)で出来た黒い立方体。その上面に琵琶湖の凪ている湖面や、唐津の立っている波が表現されていたり、水辺で小さな人が釣りをしたり、石を投げたりしている。高さはだいたい50~60センチなので、よく見ようとすると、しゃがんだりかがんで覗き込んだり、けっこう体を使う。この展示会場の静謐な空気感が、すごく作品にマッチしていて心地良かった。

一番、印象深かったのは「第5章:中心の無い彫刻、あるいは無数に中心のある彫刻」。2000年前後から制作し始めた、FRPの黒い画面一面に、文字を刻んだ作品。確かにこれは「オールオーバー」だ。刻まれている言葉は、「何もすることがない」とか「何をしても仕様がない」とか「何もしたくない」とか「何をしていいのか分からない」とか…。こんな言葉が無数にひたすら刻み込まれているのを見ていると、念仏を思わせるようで重苦しく、あまりに切々として胸が詰まるというか…。ここまで追い詰められていたのか、となんだか辛くなってしまった…。

ところが!一度見て、再度まわっていたら、少し離れて見ると、この文字の並びがまるで織柄のように美しく見えることがわかった。これは、ただ思いを刻みつけたのたものではなく、やはり出来栄えを意識した作品なんだなあ、と。また、同じ言葉がひたすら並んでいる中に、いくつか小さな絵が描かれていて、よく見るとそのまわりには、絵にまつわるエピソードが忍ばせてあったりして、クスリと笑えたり。なんだか、やっぱりタダモノではないお方だわ~。

最後は「第6章:なに一つ作らないで作家でいられること、何も表現しないで作家として存在できること」。<飛ぶミミズ>や<腐ったきんたま>という作品を最後に、「つくらない作家」を宣言した福岡さんが、2012年に"はからずも"生み出してしまった<つぶ>。まさに豆粒のようなその作品は、つくることに抗い続けた作家の手が、無意識に生み出した彫刻の結晶のように思えて、神々しかった。

展覧会の会期中には、2回も作家ご本人のアーティストトークがあったのに、行くことが出来なくて、本当に残念だった。どんな声でどんなしゃべり方なんだろう?福岡道雄さんの口から自身の作品のことをぜひ聞きたかった。また機会があるといいなあ。作家に対してますます興味の掻き立てられる、本当にインパクトある展覧会だった。

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直島への旅(4)アート待つ島

2018-01-09 | 旅×アート

今回の旅で特に楽しみにしていたのは、ベネッセハウスに宿泊すること。ベネッセホールディングスの福武總一郎氏が、直島を「現代美術によって世界中から人が集まる国際的な文化の島にしたい」という熱いで想いで安藤忠雄氏に依頼したプロジェクト、その最初の建物がこのベネッセハウスミュージアムです。島の南側、瀬戸内海に面したゆるやかな岬の斜面に建てられており、高台から空と海を臨む景色が抜群に素晴らしい!

ここは宿泊施設でもあり美術館でもある、館内にはたくさんの作品が展示されています。杉本博司さんの「海景」の写真作品がレストランの窓から見える屋外に展示されていたり、バスキアやサイ・トゥオンブリーの作品が、日光が差し込んで屋外に出られる扉がついている部屋に展示されてたりして、「い、いいのか…?」と思ってしまうぐらいの贅沢空間。何といっても、夕食も終わって就寝までのひと時を、ゆっくり美術作品を見て回ることのできる心豊かな時間よ!(宿泊者は22時まで鑑賞OK!)あ~、幸せでした。

再訪となった直島、3度の「瀬戸内国際芸術祭」を経て、すっかりアートの島として定着し、今や多くの美術ファンを集めています。今回の旅でも、特に外国人の方々が多いな~と感じました。思ったより若い人は少なくて(時期的なものもあるか)、熟年の女性グループが多いのはちょっと意外でした。

そして前回と大きく変わったのが、そのようなアートを提供する施設のスタッフに、明らかに島外から来たであろう若い人がたくさんいたこと。みんな、アートを愛していて携わりたくて来たのだろうなあ。なぜなら、どの施設でも、作品や作家について質問してみると、すごく詳しくいろいろなことを教えてくださったから。きっと、しっかり勉強もしているのでしょう、おかげで作品への視点が深まって、本当に良い体験となりました。

直島への旅、最終日は本村の「家プロジェクト」へ。ここは前回来たときも巡っています。当時は写真を撮っている杉本博司さんが護王神社をつくった意味がわかっていなかったけど、今ならすごくよく理解できる。そしてジェームズ・タレルの南寺は、安定の(?)興奮体験。宮島達男さんの角屋では、きょうも水底で光るデジタル数字が時を刻んでいました。

新しく増えていた作品としては、須田悦弘さんの「碁会所」。かつて島民が碁を楽しんだ場所を再現し、本物そっくりの椿の花の彫刻を畳の上に散らしている。吹きっさらしのその部屋で、椿の花はコロコロところがるそうだ。その部屋の前の庭に、本物の椿の木が。ほころび始めた花を見て咲きそろったときを想像し、その対比の美しさに感動!ここでは、島民のおじさんが説明してくれました。とても作品を愛していたし、誇らしげだったな~。

それから大竹伸朗さんの「はいしゃ」も初見。前日に入湯した銭湯「I❤湯」もですが、これまで外から眺めていた大竹さんの作品の中に入れたとあって、コーフン体験。銭湯は特にトイレがよかったですね~。思わず「ギャー」と叫んで鏡のまわりのコラージュをすりすりしてしまいました。銭湯でも地元のおじさん、おばさんが親切だったなあ。

思うに、芸術祭の喧騒を経ていくごとに、ますますこの島のアートが堅牢になっていくような気がします。しっかり地元に溶け込み、そこに住む人たち、移り住んできた人たちの手によって支えられている。祭りが終わっても消え去ることなく、島に根をおろす作品たち、そして訪ねていけば、いつでも待っていてくれる、また会えることの安心感。このような魅力ある場所は、本当に唯一無二であり、福武さん、安藤さんの功績はものすごく大きいなと感心しました。

2泊3日アート三昧、夢のような時間を過ごした直島への旅。いつまでも心を暖めてくれる思いを胸に、また会いに行ける日を楽しみにしていよう!

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2018謹賀新年 ~昨年の展覧会を振り返る

2018-01-06 | 展覧会

大変遅くなりましたが、明けましておめでとうございます! 昨年も時々アップの記事をお読みくださり、誠にありがとうございました。

今年のお正月、1、2日は暖かくのどかでしたね~。3年ぶりに新春健康マラソン(3キロ)に出場し、爽快でしたが盛大な筋肉痛となりました…。

さて、恒例の昨年の展覧会の振り返りですが、鑑賞したのは20本程度、春から夏にかけて仕事の都合でブランクがありましたので、例年よりさらに少なめとなりました。年末に、Twitterの「#2017年の展覧会トップ3」というタグにのっかって、以下の展覧会をあげさせていただきました。

オルセーのナビ派展

ナビ派の作品がたくさん見られるとあって、楽しみに出かけました。中でもお目当てのヴュイヤールの絵画に感動!初めて見たヴァロットンもスゲーと思いました。

奈良美智 for better or worse

ペインティングを中心に、奈良さんの初期から現在までの作品を概観できる貴重な機会でした。改めて画力に感嘆し、奈良さんの世界観にすっぽりはまり込んだ満足の時間でした。

北斎 ー富士を超えてー

特筆すべきは、肉筆画でした。北斎の晩年の自由な境地もよかったけど、何といっても娘、葛飾応為の「吉原格子先之図」には震えました!激混みではあったけど、あれは見ることができて、本当に良かった。

その他にも、ヴェルフリやクラーナハ、バベルの塔、有元利夫など、人の手が生み出す、一筆一筆がこんなにも素晴らしい絵をつくりあげるんだ!という画力に魅せられた展覧会が多かった気がしています。

とはいえ、実はインパクトが非常に大きかったのは、ブログには書けていない次のふたつの(絵画ではない)展覧会。

年末に見た「福岡道雄展」。福岡さんは、美術家としてのあり方が、ロックすぎる!後日、ブログで記事をアップいたします。

そして、「末法/APOCALYPSE -失われた夢石庵コレクションを求めて」@細見美術館。

この展覧会、行列を成す大盛況の「国宝展」の陰に隠れるようにひっそりと開催されながら、実はかなり話題になっていました。チラシとかHPを見ただけではイマイチ触手が動かなかったのですが、SNSでの「裏国宝展」という評判が気になり見に行ってみたところ…!

展覧会が終わるまでは、内密に…とされていたのですが、夢石庵という架空のコレクターが、自身の美意識で自分が堪能するためだけに蒐集した美術品たちを愛でる…という設定。会場に入ると他には誰もおらず、強烈なライティングで劇的に照らされた平安時代の仏像が、私とだけの世界をつくる。そこに流れる濃密な空気。作品たちは、「国宝展」のようによそよそしくなく、何かしら魅せられる点があって、とても親密に語りかけてくるよう。平安時代に広まった末法思想、その到来に備え、経典を地中に埋めた「経塚」。金峯山の出土した遺物を再現した、神像、鏡などの金工品を積み上げた展示は、すごいナマナマしい現実感があってビックリしました。

「種あかし」を知ってからの方が、いっそうこの展覧会をおもしろく感じましたので、もっとたくさんの人に見てもらいたかった気もしますが、ひっそりと鑑賞することも重要なポイントなのでね~。うまく自分のアンテナに引っかかってくれて、見に行くことができ、大変満足でした。

今年は、どんな素晴らしい展覧会、アート作品に出会えるでしょうか?昨年も、見に行った展覧会より、行きたくて見逃した展覧会の方がずっと多かった(涙)。

ミュシャ、運慶、不染鉄、テオヤンセン、ジャコメッティ、長沢芦雪…、それから淺井裕介さんの土の絵画も見に行けなかったなあ。

一方、もくろんでいた直島への旅を実現できたのはヨカッタ!シリーズ最終回も近日アップいたしますので、お楽しみに!

というわけで、今年もボチボチになりますが、何卒よろしくお願いいたします! 

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