アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭

2018-04-30 | 展覧会

2013年より毎年、春に開催されている「KYOTOGRAPHIE」。京都を舞台に開催されるこのフォト・フェスティバルは、寺院や歴史的建造物など、美術館とはひと味もふた味も違った空間で、写真芸術を楽しめるのが特徴です。すでに6回目を迎えるのですが、今まで行ったことがなく、今年こそは!と、数ある会場のいくつかを訪ねてきました。

まず訪ねた会場は、室町の「誉田屋源兵衛」。ここは、280年も続く老舗の帯屋さんで、精緻な織で生み出される帯はまさに芸術品、また現当主は現代アーティストとコラボするなど、革新への姿勢も鮮明です。このような機会でないと、なかなか足を踏み入れることはできません。

ここの「竹院の間」で開催されていたのが『深瀬昌久<遊戯>』、アップしているチラシは彼の作品です。深瀬は、60年代より森山大道や荒木経惟らとともに第一線で活躍していたが、92年に転落事故により脳に障害を負い、以降写真家として復活することなく、2012年に亡くなりました。私は今回、この写真家を初めて知りましたが、本展は、約四半世紀ぶりに彼の作品にスポットを当てた貴重な機会です。

作品には引き込まれました。代表作の「烏」や、愛猫を写した「サスケ」など、モノクロームの写真は、どれも孤独感に覆われています。決して美しい姿ではない被写体に、自身を投影させているのか、寄り添うような捉え方に、観る人の共感を誘います。また、写真を媒介にしながら、さまざまな表現を試みている作品たちは、とてもラディカル。そして被写体との新しい関係を探るように、自身を撮り続けている作品を見ていると、どんだけ写真に夢中なんだ!と感心してしまいます。もっと、もっと、新しい表現に挑戦したかったんだろうな…、不慮の事故が残念でなりません。いや~、この写真家の作品をたくさん見ることができて、本当に良かったです。

続いて「竹院の間」の奥にある「黒蔵」ではアフリカの写真家『ロミュアル・ハズメ<ポルト・ノボへの路上で>』が開催されていました。貧困問題をテーマにした社会的な作品もありながらも、アフリカ特有の土の色や空気感、人々が身に着けている衣服の鮮やかな色柄に目が釘付けになりました。この会場が、またモダンで特徴的。塔のような造りで回廊風の2階の奥には小部屋があったり、螺旋階段を上ったところに展示スペースがあったり。作家が来日してインスタレーションを制作されたとのこと、場所の面白さの触発もあったことでしょう。

次に訪れたのは、京都新聞ビル。ここの地下には、もう使われていない印刷工場跡があり、そこで『ローレン・グリーンフィールド<GENERATION WEALTH>』が開催されていました。地下に降りると、プンとインクの匂いがします。踏み入れた跡地の廃墟感は、ハンパない!!そこで、アメリカ人写真家が、自国をはじめとする世界各国の富への欲望を写し取った写真やスライドがこれでもかと展示されています。金満セレブのカラフルで巨大なツルツル写真と、工場跡の廃墟感の対比が凄すぎて、言葉を失いました。おもしろい!! 

写真という芸術の分野は、どちらかというとあまり積極的に見に行ってなかったのだけど、改めておもしろいなあ、と思いました。そこに写っているのは、真実ではないかもしれないけど、事実ではある…。(それも技術が発達している昨今では保証されないかも、ですが)そして、写す人がいて、被写体があって、写しているという事実がある。世の中に止まっているものは何もなくて、常に時間の流れの中で変化しているその中で、ある一瞬を切り取る芸術。無限に思える可能性と表現の限界の狭間で格闘する写真家。深いな~と思いました。

今回巡ったのは3ヵ所ですが、市内15ヵ所で開催されています。他にも、美術館「えき」で蜷川実花さん、細見美術館でラルティーグの展覧会はじめ、各所で関連イベントも開催されていています。京都ならではの楽しい写真祭、おすすめです!会期は、5月13日(日)まで。

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没後50年「藤田嗣治 本のしごと」-文字を装う絵の世界-

2018-04-18 | 展覧会

先日、目黒区美術館で始まったこの展覧会、関西では2月まで西宮大谷記念美術館で開催されていて、いつものごとく閉会ギリギリ最終日に訪ねました。今年、没後50年を迎える藤田嗣治。史上最大?の大規模な回顧展も予定されているようで、秋に京都に来るのを心待ちにしています。

本展は、藤田の画業の中でも、装丁・挿絵など、本にまつわる作品を中心に紹介されており、また、藤田直筆の挿絵入り、大変人間味あふれる手紙の数々を見ることができるのも魅力です。

フランスで画家としての地位を確立した藤田は、絵画だけではなく、本の挿絵の仕事にも積極的に取り組みました。当時、ヨーロッパは挿絵本の興隆の時代で、ピカソやシャガールらの挿絵本も出版され人気を博していたそうです。描かれている挿絵は、油彩画のような彩られた画面の魅力はないけれど、確かな画力で描かれた絵、特に伸びやかな線の美しさにはうっとり。特に素敵だったのは、「イメージとのたたかい」という豪華限定本。使われているのは「眠る女性」という水彩画1点のみですが、ページごとに、この絵の違う部分をクローズアップし、文章とそのレイアウトに響きあっていて、非常に美しい!

また、以前「藤田嗣治 手しごとの家(林 洋子)」という書籍を紹介した記事にも書いたように、藤田が筆マメなことには感心いたします。20才前後に友人に宛てたハガキ、最初の妻へフランスから送った手紙、どれも凝った絵が添えられていて、もらった人はさぞかし喜んだことでしょう。

そして今回の手紙のハイライトは、藤田が戦後、日本を離れてニューヨークへ向かい、妻の君代さんを呼び寄せるまで、日本に滞在していたアメリカ人の友人、シャーマンに宛てて連日のように書いた絵手紙。英語で書かれているので、意味を完全には理解できないけれど、近況や出来事がユーモアたっぷりに書かれた絵が楽しくて、見ていて全然飽きない!全部じっくり見るには時間切れだったのですが、本展のカタログには全部掲載されていたので、即買いしてしまいました。

美しい乳白色の美人画や、ヨーロッパの群像画を思わせる大壁画、そして恐ろしい戦争画、そんな大作を生み出してきた藤田ですが、一方、このような本当に手の中で慈しみたいような小さな作品を、愛すべき作品を、たくさん生み出したのも藤田なのです。本当に魅力的な人!

目黒区美術館では、6月10日(日)まで、その後もベルナール・ビュフェ美術館(静岡県)、東京富士美術館(八王子市)へ巡回いたします。ぜひ、大回顧展と合わせて鑑賞していただきたい! 

チラシを入手し損ねちゃいましたので、書影を掲載しておこう…。会田誠さんによる「藤田嗣治の少女」も興味深い、読みたいです!

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東郷青児展@あべのハルカス美術館

2018-04-11 | 展覧会

甘く憂いを秘めた女性像で人気を博した東郷青児(1897-1978)。昨年より生誕120年を記念して開催されている本展ですが、今年、没後40年でもあるのですね。この展覧会で、初期から晩年の作品までを概観し、すごく「時代」に寄り添った画家だったんだな~と改めて感じました。

時代によって作風の変遷が見られるのですが、私は特に初期の作品が魅力的だなと思いました。10代の頃に描かれた「コントラバスを弾く女」という作品の骨太なこと!その後、二科展で発表された作品は、非常に形態にこだわった、キュビスムのような、未来派のような。当時としては、相当、前衛的だったんでしょうね。写真を見ても、モダンなお姿。そう、ちょうど小倉遊亀さんと同年代なんだ。世間には、どのように受け取られていたのでしょうか。

20代半ばからフランスに留学し、そこでピカソや藤田嗣治などと交流があったとのこと。この頃、描かれている、ちょっと木の人形を思わせる太い手足の人物像が、すごくいいなと思いました。「ベッド」という作品が好きだったのですが、グッズなどには全く取り上げられてなくて残念でした。

帰国して後の戦前のモダニズムの空気は、この画家の作風にすごくマッチしていたように思えました。戦争の足音も聞こえ始めていたのかもしれませんが、この時代の文化の様子は、かなりモダンでおしゃれ。翻訳と装丁を手掛けた書籍の数々、デザインを担当した舞台芸術など、今見ても斬新です。

30年代の転機として、時代の最先端であった百貨店での仕事があげられます。中でも、京都の丸物百貨店で、藤田嗣治とともに対となる壁画を競作、東郷青児の「山の幸」と藤田嗣治の「海の幸」が並べられて展示されていたのは、壮観でした。こんな巨匠の作品たちが、大食堂に飾られていたなんて、めっちゃ贅沢な空間!

戦後の復興の中から、「東郷様式」と言われる美人画を確立させていく作品を見ることができるのですが、この完成された美人画の、画面の滑らかさは凄いものがあります!陶器のようなツルツルの肌、真っ白な髪の毛、表情のなくなった顔の女性像を見ていると、美しく官能的ではあるけれど、血の通っていないサイボーグのよう…。それでいて、存在感のある手足の丸みは、すごく立体感があり、幻想的で不思議な絵です。以前見た「レンピッカ展」のサイボーグのような女性像と重なるところがあるように感じました。

Wikiを見ていたら、歌手デビューしたり、映画に出演したり、数々の浮名も流したりして、けっこうワイドショー的な話題になっていた方のよう??そのへんのところを、もう少し年上の方に聞いてみたいものです。

展覧会は4月15日(日)まで。初期の素晴らしい作品がたくさん見れる貴重な機会、まもなく終了です!

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