アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

近頃、話題の・・・『花森 安治』のこと。

2016-09-20 | アーティスト

いよいよあと2週間でラストを迎える、今シーズンのNHK朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」を見ているが、中盤くらいから、ググッと興味を惹きつけているのが「花山伊佐治」の存在。モデルは、言わずとしれた稀代の大編集者「花森安治」であります。名前は聞くのだけれど、よく人物のことは知らず、ネットの画像を見ると、「おじさん」なのか「おばさん」なのか、わからない??

Eテレ日曜美術館の特集でも取り上げられ、戦後間もない暮らしに光を灯した雑誌のコンセプトと、素敵なイラストに心打たれ…にわかに『花森安治』はマイブームに。

 花森安治「暮しの手帖」初代編集長 (暮しの手帖 別冊)

この別冊は、タイムリーに7月に発売されました。本冊同様、これも他社の広告は一切載っていません。花森さんの教えは徹底してますね…。

ドラマで演じる唐沢さんは直球の男前ですが、実際の花森さんは、かなーり不思議な様子。写真に残るファッションやヘアスタイルも、どこか女性っぽさが感じられて個性的です。「くらしの手帖」の雑誌づくりには、花森さんのセンスとこだわりにあふれています。ドラマにも描かれていた「直線断ちのワンピース」をはじめとする唯一無二の企画内容はもとより、記事の執筆、表紙のイラストや写真、誌面のデザイン、文字のレタリング、広告紙面づくり…。気を使うようなスポンサーも存在せず、本当にマイワールドを追求して、好きにやってらしたんだな…というのが見て取れます。

表紙のイラストの数々は本当に素敵。誌面デザインも斬新でめちゃくちゃオシャレです。彼の素晴らしい才能を存分に発揮できるのが、この「雑誌」という舞台だったのだなあ、というのをしみじみ感じます。本当に見ていて、楽しい!一緒に携わってみたい!という気持ちになるんですよね~。

とはいえ、花森さんは戦時中は大政翼賛会の宣伝部に所属した経歴を持ち、敗戦後は騙されたという苦い思いとともに、加害者であり被害者であるという二重の苦しみを背負って生きました。「ぼくらに守るに足る幸せな暮らしがあれば、戦争は二度と起こらないはずだ」。「暮らしの手帖」にはこのような強い決意と願いが込められていたのです。

ドラマの中でもかなり物議を醸していた「商品テスト」。今や、高品質として名高いメイド・イン・ジャパンの製品が、このような批評にさらされたが故と思うと、社会的な意義も高かったことでしょう。また、その誌面づくりのインパクトのあること!!ホント、手腕に感心いたします。

このところ、各図書館でも「暮らしの手帖」のバックナンバーが大人気とか?!一度、じっくり見てみたいものです。この人物を紹介してくれた朝ドラには感謝です!

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生誕130年記念「藤田嗣治展」@兵庫県立美術館

2016-09-13 | 展覧会

ここ8年のあいだに、藤田嗣治の展覧会を見るのは4回目。戦後すぐに日本を去ってしまったこの画家のいろいろな側面にようやく光が当たり始め、素晴らしい作品たちを鑑賞できる昨今を、改めて幸せに感じます。

「東と西を結ぶ絵画」と題された今回の展覧会は、藤田の生涯を辿る構成になっており、絵を描き始めた初期の作品から、パリ時代の「乳白色の肌の女性」の作品、そして中南米に旅したときの作品、帰国後の日本や中国を題材にした作品と「戦争画」、そしてフランスへ去った後のキリスト教をテーマとした晩年の作品まで、約120点を見ることができます。

今回、特に興味深かったのは、メキシコやボリビアの人々を描いた中南米を訪ねたときの作品群が充実していたこと。パリで描いた美しい女性たちの作品は、確かにワンアンドオンリーの藤田の代表作ではあるのだけれど、描き続けるには何か飽き足らなかったのかもしれません。中南米で描いた作品は、人物が骨太で色彩も鮮やか、醸し出す生活感も含めて強烈な存在感が感じられます。油彩画よりもササッと描いた感のある水彩画やパステル画が多いのですが、その画力の高いこと!改めて藤田ってめちゃめちゃうまい!と感心してしまいます。

以前紹介した記事で取り上げた藤田の随筆集「地を泳ぐ」を読んでみると、南米からメキシコを向けて、どの土地でも盛大な歓迎を受けたことがわかります。ヨーロッパとは全く異なる異文化の体験だったと思いきや、ブエノスアイレスなどは、ほとんどパリそっくりの都市であったという記述も興味深いことです。メキシコでオロスコの巨大な壁画に出会ったことも、巡り合わせですね…。

そして今回出品されていた戦争画は3点、代表作ともいえる「アッツ島の玉砕」に昨年の秋に続き再会することとなりました。会場が違うと、ずいぶん見え方も違います。東京で見たときは、本当に茶色く描き込まれた画面に人物が折り重なり、絵の奥に向かって熱が充満しているような印象を受けたのですが、今回は照明の具合もあってか、茶色ばかりと思っていた画面には、ところどころにハイライトが入れられており、白く光る部分が際立って、逆に兵士の身体が前へ向かって立体的に飛び出してくるように見えました。

何度見ても恐ろしい絵画です。日本における「戦争画」の位置づけから、この絵を素晴らしいと手放しの賞賛はできないのですが、画家・藤田をつくり上げた生い立ちや環境や時代背景、何よりも彼の画家としての類稀な力、それらが奇跡的に生み出した「稀有」な作品であることはまちがいありません。

展覧会場では、これら「戦争画」に続き、戦後のフランスで描いた作品へと続くのですが、向かい合って展示されている白色をベースにした繊細な少女を描いた作品が、同じ画家の手によるものとは到底思えず、ものすごい対比だなあ…と思いました。

それぞれの時代をなべて概観している分、それぞれの充実度はやや少ないですが、そこはこれまで見てきた展覧会での印象で脳内補完。見れば見るほど、どの時代の作品も素晴らしいし、まさに時代の波にのまれたひとりの画家の人生にも興味が尽きません。次は、秋田で描かれた壁画をぜひ見てみたいな!

展覧会は、9月22日(木祝)まで。あと10日ほどですが、未見の方はぜひ!

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やなぎみわ演出・美術 大阪公演『日輪の翼』

2016-09-06 | 作品

2014年、ヨコハマトリエンナーレでそのド派手な姿を現したステージトレーラー。アーティスト・やなぎみわさんが台湾で出会い、ここで文字通り移動舞台による演劇公演を行うことを企て、自らがデザインした特注品を輸入しました。ヨコトリの会場でパカッと開いていたデコトラの舞台を見て、ここで行われる公演を、ぜひ、見たいものだと思っていました。

そして今年、ついにステージツアーが始まりました。横浜、新宮、高松と巡り、先日、大阪の名村造船所大阪工場跡地で最終公演を迎えたのです。その千秋楽に行ってまいりました!

折しも台風12号が接近しており、天候が心配されましたが、スタッフの「1時間後にスコールになります」という断言にもかかわらず、ついに雨に降られることもなく最後には星まで瞬いていました。9公演すべてが悪天候で中止になることもなく開催されたのも、何だか神がかったこの芝居の成せる業だったような気がします。

3時間を超えるこの芝居、最初閉じていたトレーラーが、ストーリーの進行とともにだんだん開いていき、ステージ上に備えられたドラムが鳴り、ミラーボールがまわり始めます。中上健次の「日輪の翼」「聖餐」「千年の愉楽」を原作に、5人の老婆(オバ)と若者が「路地」を飛び出し、オバたちの思い出の地を訪ねていくストーリー。途中、唄あり、踊りあり、そして目を奪われるロープやリボンによる空中パフォーマンスあり、何とも非現実な世界が繰り広げられます。

トレーラーとそのまわりの小さな舞台ではありますが、トレーラー以外にも軽トラなどが演出で使われ、もちろん野外ということもあり、無限に奥行きを感じさせます。そう、まさにロードムービーならぬロードプレイの中に観客たちもすっぽり入り込んでいるよう…!

旅の終わりに皇居を訪ね、そこでオバたちは消えてしまいます。それでも若者たちの旅は続く…。芝居の終焉とともに小道具・大道具も片づけられ、2台の軽トラと、そしてぴったり閉じられたトレーラーは、本当に走り去ってしまいました。役者たちが戻ってきてカーテンコールが行われることもなく…。虚構と現実が入り交じり、彼らの旅は今もどこかで続いているような余韻を残して。

海岸沿いの廃墟のような工場跡地で、かすかな潮の香り、頬をなでる風、最後に聞こえた鳥の鳴き声(これは演出)。本当に最高のシチュエーションで、夢(半分、悪夢)のような時間でした。すごーくオモシロかった!

最後にやなぎみわさんが挨拶されて、今回のツアーは終わったけど、来年もやる、とおっしゃっていました。彼らの旅は終わらない。機会があれば、ぜひぜひ!ご覧いただきたいと思います。

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