アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

MOMATコレクション『藤田嗣治、全所蔵作品展示。』

2015-10-29 | 展覧会

今年の秋の日帰りアートツアーは、東京へ。藤田嗣治の作品たちに会ってきました。

東京国立近代美術館が所蔵する藤田の作品は、全25点。今回、特筆すべきは、戦争画14点が初めて一堂に展示されること。藤田の芸術を深く知るには、はずせない機会です。

作品は主に3つのパートに分かれています。まずは、パリ時代。藤田を一躍スターにした美しき「乳白色」の裸婦を描いた作品は2点。うち1点は、京都国立近代美術館からの特別出品でした。

藤田の裸婦像の作品は、輝くような肌の色も素敵ですが、髪の毛のように細く、かつ迷いのない伸びやかな美しい線に、本当に目を奪われます。最初に展示されている藤田の自画像が手にしているのが、その線を実現させた極細の面相筆なんですね~。

裸婦の背景には、植物模様のタペストリーが配されていて、やや平面的に描かれた画面と細いラインで形取られた裸婦の身体の対比が際立ちます。肌の立体感の表現とか、見れば見るほど、こんな絵ってどこにもない!と感動してしまいます。当時のパリの観客たちにも、どれほどの驚きと感動をもたらしたことでしょう!

次のパートは、メキシコへの来訪を経て帰国した、藤田の戦争画が展示されています。4階に展示されていた初期の3点は、わりと明るい色彩で、「これが戦争を描いているのか?」という印象もありました。悲惨であったノモンハンの戦いを描いている「哈爾哈(はるは)河畔之戦闘」も、青い空や緑の草むらが目に付きます。人物の表現などを見ると、そこには藤田がパリでアイデンティティを打ち立てた表現はかけらもありません。描けって言われて描いた絵なんやろうな…という印象を私は受けました。

3階に降りると、色彩が一変します。とにかく「茶色い」!!

戦争画の中でも代表作と言われる「アッツ島玉砕」は恐ろしい絵画です。とにかく兵隊たちが折り重なるように描かれ、見えにくいものだから目を凝らして見ていると、あそこにもここにも兵隊の姿や顔があらわれてきて、まるで下から下から人が湧きでてくるような印象なのです。表情、身体などにも「動き」が充ちていて、背景は雪山なのに、全体に熱を充満させているような迫力があります。

この絵は、きっと描きたくて描いた絵なんだろう…と感じました。ヨーロッパの巨匠たちの作品が念頭にあったことはまちがいないでしょう。パリを離れる少し前に群像表現の壁画に挑戦していた藤田が、この日本で、当時の日本を最も体現させるテーマで、自らの表現を追求できることにある意味没頭していたのではないか、と感じました。

その後も茶色い作品が続くわけですが、解説で「暗闇の中での活躍を描く」といったことが書かれていたので、この茶色は「闇」をあらわしているのか?とも思ったのですが、黒ではないんですよ…。当時、描いた時からこんな色だったのでしょうか?とにかく、この「茶色」で描いた藤田の心情を知りたく思いました。

もうひとつの代表作「サイパン島同胞臣節を全うす」は、確かに戦争を讃歌しているようには思えませんでした。タイトルがなければ、反戦絵画にも見えるでしょう。敵軍に追い詰められた民衆の表情は、恐怖に充ちるでもなく、達観したかのような、ある意味気高くもあります。殉教をテーマにした宗教画のような様相だな、と感じました。もちろん、当時はそう見せてしまうことにも、戦意高揚の意味づけがなされたのかもしれませんが。

作品の中には、額装さえされていなかったり、へこみがあったりするものもあって、この戦争画たちが辿った道のりを改めて思わせました。

最後のパートは、藤田が日本を離れてパリで描いた作品と、藤田君代夫人から寄贈された藤田が挿画を描いた書籍などが展示されていました。また、藤田が監督した映像作品「現代日本 子供篇」の上映もありました。

全部で26点の少ない展示ではありましたが、今まで見た展覧会では、全く見ることのできなかった藤田の作品群を見ることができ、私の中の藤田嗣治がいっそうクッキリしてきました。もしかしたら二度と見ることはできない、貴重な機会だったかもしれません。

東京国立近代美術館は、久しぶりに訪れましたが、2012年にリニューアルされたとのこと、所蔵作品展は藤田以外も大変充実していました。近代から現代まで有名作家の作品がずらり!私としては、ぜひ一度見たかった古賀春江の「海」があって大満足!また、特に藤田の展示はそうだったのですが、作品解説が大変大きくて見やすく、こんなにストレスなく解説とともに楽しめたのは初めてかもしれません。

企画展も含めて、たっぷり3時間くらい楽しめました。「藤田嗣治、全所蔵作品展示。」は、12月13日(日)まで。

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『藤田』に魅かれる!

2015-10-22 | 

この秋、美術の気になるキーワードとして、ひとつは『琳派』、そして私にとってのもうひとつは『藤田』です。

藤田嗣治については、「日本を代表する画家」のひとりとして名前は知っていたものの、その人物と芸術について知り興味を持ち始めたのは、2009年に上野の森美術館で行われた「レオナール・フジタ展」を見てから。このブログでもその後、書籍展覧会の感想を取り上げました。

11月には小栗康平監督、オダギリジョー主演による映画「FOUJITA」が公開されることもあり、この機会に改めて藤田の生涯を追った著書を読んでみました。

   藤田嗣治「異邦人」の生涯 (講談社文庫)

著者の近藤史人さんは、NHKのディレクターとして藤田のドキュメンタリー番組などを制作しました。藤田の日本における不当な評価に憤りを持つ、最後の奥様である君代夫人との粘り強い交渉とインタビュー、関係者の証言、未公開資料の調査など、取材を通じて明らかになった藤田の「本当の姿」を書籍にまとめました。

2002年に単行本として出版された本書は、2006年の文庫化に際し、新たな情報による加筆訂正がなされたとのことですが、それからさらに10年、藤田を覆っていたベールは一枚また一枚とはがれ、これまで知られていなかった藤田嗣治という特異な存在である芸術家の姿が、どんどん明らかになりつつあるように感じます。

エコール・ド・パリを代表する画家として一躍時代の寵児となった藤田を、日本の画壇は全く評価しませんでした。長らく異国にあっても日本人であることにこだわっていた藤田は、第二次世界大戦中には帰国し、軍の指令により戦争画の大作を描いて、初めて日本で名声を得ます。ところが戦争終結後は、その作品の影響力故に「戦犯」扱いされ、ついに日本を離れる決心をするのです。フランスに渡った藤田は、日本国籍を捨ててフランス国籍を取得、生涯日本の地を踏むことはありませんでした。

冒頭に書いた「日本を代表する画家」というのも、実は背景が複雑すぎて全くそう言えないのです。藤田は日本人なのか?日本を代表するとは、どういう意味なのか?そして彼の胸中は…?

彼の生涯や作品を理解するにあたって、やはり「戦争画の時代」ははずせないと思うのです。撮り貯めていた番組の録画などを見て、藤田が戦争画に取り組んだ複雑な思いを垣間見ることができました。長くヨーロッパに身を置いていた彼ですから、ダヴィッドやドラクロワのような名立たる画家たちが、大画面で歴史的な戦闘の場面を描いた傑作を残していることは、もちろん強く意識していたでしょう。

藤田の戦争画の作品については、映像や写真で見ても、どうも画面全体の色が薄暗くてよくわからないな~というのが感想です。現在、東京国立近代美術館の所蔵作品展では、藤田の戦争画全14点を公開中とのこと(12/13まで)。きっと実物の作品を対峙すると感じるものがあるだろうな…。う~む、行っちゃう?

 

さて、藤田のエッセイを集めた下記の本も、近藤史人さんが編纂されています。藤田は生涯3冊の随筆集を出版しているとのことですが、うちパリ時代のエピソードを中心にまとめた2冊から主に抜粋されています。

実際に藤田の言葉で描かれた文章を読むと、臨場感が伝わってきます。第一次世界大戦中のパリの空襲の様子や、華やかでもの哀しいモデルのこと、ピカソやパスキン、モディリアーニなど20世紀の巨匠たちとの交流…。私の中の藤田のイメージがイキイキと立ち上がってくる感じ。

 腕一本・巴里の横顔 (講談社文芸文庫)

 

これに加えて、昨年、3冊目の随筆集である「地を泳ぐ」が文庫化されています。近藤さんが追った藤田の生涯にも、ここで記述されていることがかなり参照されていました。この本は昨日買ってきたところ。楽しみに読みたいと思います。

 随筆集 地を泳ぐ (平凡社ライブラリー)

 

映画、書籍、展覧会…。ますます立体的になってきた藤田嗣治。この秋は少し深く追いかけてみようと思います。

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