goo blog サービス終了のお知らせ 

アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

杉本博司 ロスト・ヒューマン

2016-11-27 | 展覧会

<今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>

東京都写真美術館が2年間の休館を経て、9月にリニューアル・オープン。そのオープニングと開館20周年の記念展として、現代美術家・杉本博司が創出する「異世界」を体験できる展覧会が開催されました。(11月13日で終了)

展覧会は2フロア。まず、迷い込むのは、一見テーマパークを思わせるほど作り込まれたインスタレーション。錆び付いたトタン板や古びた木材で区切られたブースに、人間の文明が終焉を迎える33のストーリーが展開されています。このストーリーは、33人のさまざまな職業人が語るという形がとられていて、手書きのキャプションがついているのだが、これを実際に書いたのは、杉本さんが依頼した著名な方々、例えば、「理想主義者」に浅田彰さん、「古代生物者」に福岡伸一さん、「ロボット工学者」に豊竹咲甫太夫さん、「ラブラドール・アンジェ」に束芋さん等々で、そのマッチングと筆跡を見るだけでもとても興味深いです。

展示されているのは、主に杉本さんご自身が蒐集されてきたコレクションで、そのストーリーを体現するような、古代生物の化石や石器時代の土器の破片から、歴史を証言する資料類、古美術品、歌って踊るロブスター、人ゲノムの遺伝子資料、隕石、宇宙食まで、夥しい「モノ」の数々…。以前、大阪で見た展覧会でも、素晴らしい古美術品のコレクションを披露されていましたが、杉本さんは美術品に留まらず、まさに「歴史」そのものを蒐集されているんだなあと、その多様さに驚きました。

33のストーリーは、すべて「今日、世界は死んだ。もしかすると昨日かもしれない。」という言葉から始まり、現代が抱える文明の危機、例えば人口増加、環境破壊、天変地異、生殖不能、戦争、ロボットの発達など、その萌芽が暴走し、ついに文明が滅んでしまうというもの。荒唐無稽で「ハハハ」と苦笑いしてしまうけど、実はあり得ないことではないことにも、うっすら気付いている…。なぜなら、そこに「モノ」があるから。長い年月を背負い、それにまつわる数多の人の手垢にまみれた、歴史の証言者ともいえる「モノ」が無言で語る力には、すごく強く重いものがあります。展示を見ている人たちの沈鬱な表情が印象的でした。

次のフロアでは、杉本さんの写真作品、新シリーズである「廃墟劇場」が9点、暗い会場に浮かび上がっていました。これは、以前からの「劇場」シリーズの発展形で、主にアメリカの廃墟と化した映画館にスクリーンを張り直し、映画をまるまる1本投影している間、長時間露光して写し取ったもの。ボロボロの劇場の中に、白く輝くスクリーンだけが、在りし日の輝きを放っているかのよう。一瞬を切り取る写真というものに、映画の上映時間が閉じ込められているという逆説もオモシロイ。

その背後の空間には、三十三間堂の千体千手観音を撮影した「仏の海」。1000年近く前の世の中の不安が、このような数え切れないほどの仏たちを作らせたとすれば、荘厳さがありながら、上のフロアから続く悪夢の先のようでもあり…。

なんだか、すっぽり異世界にはまったような鑑賞を終え、スマホを見たら、アメリカ大統領にトランプ氏が当選していて、思わず悪夢の続きか?!思ってしまいました!33のストーリーの中に、資本主義を追求し薔薇色の未来を喧伝して世界を滅亡に導いた「政治家」の話があり、カストロ議長のポートレイトと、歴代のアメリカ大統領が表紙に掲載されたタイム誌が展示されていて、最後にクリントン氏とトランプ氏が並んでいたのを、複雑な気持ちで眺めていたからです。

この先、人間が生きる未来はどうなっていくのでしょうか。私たちの近い未来と、その先の遠い未来と。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「絵」を堪能する! ~ゴッホ、ゴーギャン、速水御舟~

2016-11-21 | 展覧会

今回のトーキョー・アート・ツアーは、「絵を見る!」ってことをひとつのテーマに。

東京都美術館で開催されている「ゴッホとゴーギャン展」、めちゃくちゃ好きってわけでもないけど、彼らの絵をたくさん見れるとなると、やはり足を運びたい。しかも南仏で共同生活を送った二人の関係性に光を当てる…となると興味深いではありませんか!

今回、改めて二人の絵画をならべて見てみると、なるほど違いがくっきりわかる気がする。やはり自ら耳を削ぎ、ピストル自殺を図ったというショッキングな最期により、ゴッホの絵の中に精神性を見てしまいがちですが、若い時からの作品を追っていくと、本当にまじめに実直に、自らの作風を追求した画家だったことが感じ取れます。非常に絵具が厚塗りのモンティセリなど、ゴッホが影響を刺激を受けていた同時代の画家の作品も展示されていて、興味深かったです。

それでも、最晩年の作品の画面全体がうねるような筆致は、確かに狂気めいたものを感じ、凄まじい迫力を感じました。この感じが、私にとってのゴッホの魅力でもあります。

対するゴーギャンの作風は、とても画面が平面的で、色彩は鮮やかなんだけれども、一見落ち着いた画風に見える。でも描かれているのは、とても現実にはない、幻想的・夢想的な場面。ゴッホの死後、「文明」を逃れてタヒチへと移り住んだゴーギャン。そこでいっそう象徴性が増した絵を描く彼の精神にも、かなりの闇があったのではないだろうかと想像する…。

二人がアルルの黄色い家で過ごした共同生活。芸術観や性格の違いから、わずか2ヵ月で破たんしたという。その最中に耳を切る事件が起きているのだから、互いへの影響力、刺激の強さは劇薬だったのかもしれないな…。

二人が互いを描いた作品として、肖像画ではなく、それぞれ「椅子」を描いた作品であることが、ドラマチックでした。ゴッホは、ゴーギャンの椅子に象徴性を示すような書物と蝋燭を描きました。ゴーギャンは、タヒチに移り住んだ後、ヨーロッパから種を取り寄せて育てたひまわりの花束をのせた肘掛け椅子を描きました。

二人の巨匠の人生、一時交わり、そして離れてもなお影響を与え合った道のりを感じ入ることのできる展覧会でした。12月18日(日)まで。

 

そして、今回どうしても見たかったのが、この速水御舟の「炎舞」。山種美術館の開館50周年を記念する「速水御舟の全貌 ―日本画の破壊と創造ー」に出品されています。

御舟といえば、細密画。マイ・ホーム・ミュージアムである滋賀県立近代美術館が所蔵する「洛北修学院村」も展示されておりました(11/20まで)。この作品は、美しい青と青緑で覆いつくされた色合いが特徴ではあるけれど、近寄って目を凝らすと、風にそよぐ木々の葉までも細密に描かれていることに驚嘆する絵なのです!今回は、ガラスケースの中に展示されていて、あまり近寄れないのは残念でした~。この時期、御舟は「群青中毒」だったそうです…。

40才で早逝した御舟は、決して長くない画業の中で、さまざまな表現に挑戦してきました。「名樹散椿」では、一面金色の屏風にやや類型化された巨大な枝ぶりの椿。バックの金地は、箔ではなく「撒きつぶし」という技法が用いられています。金の細かい粒を撒いて均一の画面を作るこの技法は、手間も材料も何倍もかかるとのことですが、マットな金色が幽玄な奥深さを感じさせ、素晴らしかったです。

そして、いよいよ別室に展示されている「炎舞」と対面!薄暗い部屋の中で、炎の怪しさが際立ちます。まるで魔法がかかったように吸い寄せられる蛾は、羽音が聞こえそうにリアルでもあり、作り物のように美しくもある…。御舟が二度と描けない、と言ったという闇の黒色、炎の赤と共鳴するかのようにこの不思議な異世界を創出させています。本当に、蛾と同じように吸い寄せられてしまう絵画。こんな絵、見たことない!すごい!すごい!

いや~、素晴らしい体験でした。行って良かったです!

展覧会は12月4日(日)まで。途中、展示替えがいくらかあります。後半は、怪作「京の舞妓」が見れますヨ。(見たかった!) 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「色の博物誌」江戸の色材を視る・読む@目黒区美術館

2016-11-13 | 展覧会

秋のアート・ツアーは、昨年に引き続き、東京へ。話題の展覧会がいっぱいで、チョイスに迷いましたが、1泊2日で5つの展覧会をめぐりました。順番にぼちぼちと紹介させていただきます。

今回、一番楽しかった展覧会、目黒美術館の「色の博物誌」。志村ふくみさんの染織作品を見ていて、自然の植物が生み出す色の不思議さに惹かれていたのですが、今回は布を染めるのではなく、紙に描く絵画作品の色材がテーマだったので、植物のほかにも鉱物のバリエーションが見られておもしろかったです。

目黒区美術館は、1992年から2004年にかけて、青・赤・白と黒・緑・黄といった色をテーマに、それぞれの色の考古・民俗・歴史・美術を横断した色彩文化史を紹介する「色の博物誌」という展覧会を開催してきました。作品をつくり上げている画面や色の原材料そのものが、美術館で取り上げられることは珍しく、斬新で意欲的な視点が興味深いです。

展覧会の導入には、めちゃくちゃ楽しい「画材と素材の引き出し」がありまして、一段一段を引いて出すと、パピルスから始まる紙の素材であるとか、色の素材のバリエーション、筆や刷毛などの画材のバリエーションがいっぱい並べられていて、一気に色と画材の不思議な魅力に惹き込まれてしまいます。

「色の博物誌」6回目の本展覧会で、江戸時代に使われていた豊富な色材を紹介するのに取り上げられているのは、「国絵図」と「浮世絵」です。

「国絵図」とは、幕府の命により、各藩が総力をあげて制作した巨大で極彩色の絵地図。展示されていたのは、備前・備中藩(今の岡山)の1600年から1700年にかけて、3度に渡って作られた、それぞれ3メートルほど四方の巨大な絵図。最初のものは、地図としての正確性より、おおらかな風景図のようだったのが、時代を経るほど地形の正確性が増し、かつ描き方が整えられていきます。藩内の地区・地域の多様さをビジュアルに示すため、使われる色材のバリエーションがどんどん増し、カラフルで美しい!

各藩がこのような美しい「国絵図」を作っていたなんて!並べて見ることができたら、壮観でしょうね~。また、自身と縁深い藩の国絵図を、ぜひ見てみたいものだと思いました。

続きまして、「浮世絵」のコーナーへ。鈴木春信が創始したとされる錦絵。使われているカラフルな色彩は、同じ赤でも辰砂(しんしゃ)、弁柄(べんがら)、丹(たん)、紅花(べにばな)など、異なる素材を用いることで、微妙な色の違いを生み出し、表現をより豊かにしています。実際の色材が展示されているのですが、植物、鉱物、貝とか、微妙な色の違いを求めて、さまざまな材料から色を取り出そうとした、先人たちの飽くなき探求心に感心してしまいます。

今回、おもしろかったのは、浮世絵の原画に加えて、紙や色材への探求から復刻を作り続けた立原位貫氏の同じ作品が並べて展示されていたこと。見比べると、原画はかなり退色していることがわかります。特に緑、紫の復刻画の鮮やかさが目を引きました。この色鮮やかな錦絵が、なるほど、江戸の民衆を、ポスターやブロマイドとして夢中にさせたということが、すごーくよくわかるような気がしました。

葛飾北斎、歌川広重などが風景画に使用した鮮やかな藍色「ベロ藍」(プルシアンブルー)は、化学合成顔料だからか、原画と復刻画にあまり色の変化がないように思いました。自然の色彩にはない、鮮やかなブルーは、きっと画家たちを夢中にさせたことでしょう。

最後に、江戸時代に編纂・刊行された画法書もたくさん展示されていました。すぐれた絵画を生み出すには、優れた色材・画材があってこそ!今回は、「国絵図」と「浮世絵」に限っていましたが、狩野派とか若冲とかの作品における色材・画材への探求なども知ることができたら、おもしろいなあ~と思います。

展覧会は、12月18日(日)まで。図録がとっても充実していて、即買い!でした。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「the radar [kyoto]」池田亮司@ロームシアター

2016-11-06 | 作品

 今、京都では国内外の舞台芸術を紹介する国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT」が開催されています。(11月13日まで)

舞台芸術ということで、あまり関心を持って見ていなかったところ、なんと、昨年の堂島リバービエンナーレで興奮の体験をもたらしてくれたアーティスト、池田亮司さんの屋外インスタレーションがロームシアター中庭でやってるって!期間限定なので、見逃さないよう出かけてきました。

日没から始まるというこのインスタレーション、ロームシアターに近づくにつれ、何やら空気を震わす音が聞こえてきます。中庭に建てられた巨大なスクリーン。そこに映し出されている無数の星・星・星…。

この「the radar」という作品は、展示される地点の緯度・経度から観測できる宇宙を膨大なデータベースを元にマッピングしたイメージの集積だそう。2012年のリオデジャネイロを皮切りに、ドイツ、フランスなど、世界各地で上映されている。今、京都のこの場所から実はこんなにも星が見られるとしたら、恐ろしいくらい。しかもリズミカルに次々と画面が塗り替わるように変化していく様子に、じっとみていると宇宙に投げ出され、包み込まれているような気がしてきます。実は、立誠シネマで園子温監督の「ひそひそ星」を見た直後だったので、まるで宇宙を漂う主人公になった気分でした。

なんというか、クールでスタイリッシュなんだけど、無限の夢を見させてくれるようなロマンがある…というと、ホンマにベタな感想なのですが、めちゃくちゃカッコよかったです!いいもん見せてもらったって気持ちがウキウキしちゃって、帰りは東山駅までダッシュしてしまいました。身体に及ぼす影響あり…?

なんと、今調べていたら、ロームシアターのホール内では、コンサート作品の上映が行われていたとのこと(こちらは有料)。以前の堂島リバービエンナーレの作品もそうだったけど、池田亮司さんの作品は、「人」とともにあるのが、尚好し!という気がする…。素晴らしかったです。行って良かった!

屋外展示およびホールでのコンサート作品上映とも、明日6日まで。貴重な機会なので、ぜひ見ていただきたいわん!写真ではあまり伝わらないと思いますが、こんな感じでした!(少し斜めからになってしまいました…) 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする