植田正治の写真を初めて見たときは、そのモダンさに驚きました!代表作の「パパとママとコドモたち」です。以来、機会があればぜひいろいろな作品を見たいと思っていました。
ただいま、東京ステーションギャラリーで、彼の生誕100年を記念し、代表作約150点による回顧展が開催されています。植田正治がどのようにつくられたか?を辿る展覧会。
今や携帯電話のカメラ機能も進化し、誰もがきれいな写真をいつでも撮れるようになりました。でも、やはり写真家をスゴイな、と思うのは、作品を見たときに、特に人物を撮っている時などに、こんな良い写真を撮るために、この人とどんな風に関係性を作り上げたのだろう?と感心するとき。その瞬間にたどりつくために、それまでにどんなプロセスがあったのだろう?と。
そういった意味では、植田正治の特徴ともいえる演出写真を見ると、もひとつさらに、そこまでに至るところをいろいろ想像してしまって、すごい物語が詰まっている気がします。設定されている虚構と、実際に撮影に至るまでの、ダブルの物語。
生まれ育った山陰を拠点とし、そこに安住を求めた植田正治。彼の作品には、砂丘のイメージがものすごく強い。バックを平面的に見せる空・海・砂…。そう言われれば強烈な色を喚起するようで、でも色味のない美しいモノクロに感覚が埋もれるような気もいたします。本当に唯一無二の、最高のマイ・スタジオを手に入れたんだなあ、と思いました。
砂丘の演出写真ばかりでなく、晩年に向かうにつれ、福山雅治とのコラボでも知られるように、ファッションブランドのイメージ写真、バンドのPV撮影などなど、さまざまな新しいチャレンジをされていた様子も紹介されていました。キャプションに記されていた技法も、ゼラチンシルバー・プリントからタイプCやインクジェットなども。1995年頃のカラーの花の写真にはビックリしました。その様子があまりにもなまめかしくて。80才も超えられて、メイプルソープ以上です!!
初めて訪れた東京ステーションギャラリー、昨年、駅舎の復元とともにリニューアルオープン。2階の展示室は、壁がすべてレンガづくり!それも元は漆喰が塗られていたそうで、レンガの表面がデコボコしていて、扉枠がむき出しの鉄だったりして、なんか本当に駅っぽくて、とても風情があります。これが植田正治の詩的なモノクロの世界にホントぴったりで、展示室を見渡したとき「うわ~っ!!」と興奮してしまいました。これは他にない素敵な空間です!(色のある絵画とかだとどうかな?とも思いますが…)
最後に展示されていた、植田正治が亡くなられたときにカメラに残されていた3点の作品には、心打たれるものがありました。常に追い求めていた詩的な空間、抒情性というものが、ギュッと凝縮されていた気がしたからです。1時間以上はたっぷりと堪能できる楽しい展覧会でした。
来年1月5日(日)まで。