出版以来、気になっていたのですが、図書館で発見!(買わなくてゴメンなさいね)
福岡伸一さんは、生物学者ですが、日曜美術館にゲストで来られていたこともあったので、きっと美術はお好きなんだ…という認識はあったのですが。
Amazonなどで見ていると、生物学関係で、一般人でも興味の持てそうな著書もたくさんあるようです。
さて、この本は、今東京の展覧会に「真珠の耳飾りの少女」が来ていて話題になっているフェルメールの作品たちを、福岡さんと写真家の小林廉宜さんが、所蔵されている世界中の美術館に直接足を運んで鑑賞するという贅沢な旅の記録。「旅×美術館」!! ここに「食」が加われば、まさに私の老後の夢だ。
福岡先生の文章はすごく抒情的でステキです。とても生物学者と思えませんが(勝手にお堅いイメージ)、実は生物学者らしさがそこここに。
まず科学者がたくさん登場します。特にフェルメールとの交流を想像し、福岡さんが熱い視線を注ぐデルフト出身のレーウェンフック。最後の仮説などは今までフェルメールを画家としてとらえていたのが、その時代のいろいろな人間関係の中に生きていた一市民であったという視野の広がりに導いてくれる気がします。
それからフェルメールの作品についての記述にも科学者ならではの表現が。
「光のつぶだち」。アインシュタインに先立つこと300年、光が粒子であることを認識し、フェルメールがキャンバスに正確に写し取ったものを福岡さんはこう表現する。それにはきっと近しい科学者の存在があったろうと。とても印象的な表現だった。
また、フェルメールの絵の中には「微分」が奇跡的に表現されている、と。「微分」…!って何だっけ?
――《微分》というのは、動いているもの、移ろいゆくものを、その一瞬だけ、とどめてみたいという願いなのです。カメラのシャッターが切り取る瞬間、絵筆のひと刷きが描く光沢。あなたのあのつややかな記憶。すべて《微分》です。人間のはかない祈りのようなものですね。微分によって、そこにとどめられたものは、凍結された時間ではなく、それがふたたび動き出そうとする、その効果なのです。――
これは福岡さんの高校の教師が言った言葉だそうです。「微分」がなんてロマンチックに思えることでしょう!!そこにアメリカに渡った野口英世のお話なども絡められ、本当に筆の運びは素晴らしいものです。
フェルメールの作品ももちろんたっぷり掲載!それも額ごと、その美術館にかかっている様子で収められているのがいいです。また海外のきれいな写真も満載、たまに福岡先生も登場してます。
読んでいるあいだ、とても幸福な気持ちになる、素敵な本だと思いました。フェルメールが旬の今、ぜひご一読を!