アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

「フェルメール 光の王国」 福岡伸一(木楽舎)

2012-07-29 | 

出版以来、気になっていたのですが、図書館で発見!(買わなくてゴメンなさいね)
福岡伸一さんは、生物学者ですが、日曜美術館にゲストで来られていたこともあったので、きっと美術はお好きなんだ…という認識はあったのですが。
Amazonなどで見ていると、生物学関係で、一般人でも興味の持てそうな著書もたくさんあるようです。

さて、この本は、今東京の展覧会に「真珠の耳飾りの少女」が来ていて話題になっているフェルメールの作品たちを、福岡さんと写真家の小林廉宜さんが、所蔵されている世界中の美術館に直接足を運んで鑑賞するという贅沢な旅の記録。「旅×美術館」!! ここに「食」が加われば、まさに私の老後の夢だ。

福岡先生の文章はすごく抒情的でステキです。とても生物学者と思えませんが(勝手にお堅いイメージ)、実は生物学者らしさがそこここに。
まず科学者がたくさん登場します。特にフェルメールとの交流を想像し、福岡さんが熱い視線を注ぐデルフト出身のレーウェンフック。最後の仮説などは今までフェルメールを画家としてとらえていたのが、その時代のいろいろな人間関係の中に生きていた一市民であったという視野の広がりに導いてくれる気がします。

それからフェルメールの作品についての記述にも科学者ならではの表現が。
「光のつぶだち」。アインシュタインに先立つこと300年、光が粒子であることを認識し、フェルメールがキャンバスに正確に写し取ったものを福岡さんはこう表現する。それにはきっと近しい科学者の存在があったろうと。とても印象的な表現だった。

また、フェルメールの絵の中には「微分」が奇跡的に表現されている、と。「微分」…!って何だっけ?

――《微分》というのは、動いているもの、移ろいゆくものを、その一瞬だけ、とどめてみたいという願いなのです。カメラのシャッターが切り取る瞬間、絵筆のひと刷きが描く光沢。あなたのあのつややかな記憶。すべて《微分》です。人間のはかない祈りのようなものですね。微分によって、そこにとどめられたものは、凍結された時間ではなく、それがふたたび動き出そうとする、その効果なのです。――

これは福岡さんの高校の教師が言った言葉だそうです。「微分」がなんてロマンチックに思えることでしょう!!そこにアメリカに渡った野口英世のお話なども絡められ、本当に筆の運びは素晴らしいものです。

フェルメールの作品ももちろんたっぷり掲載!それも額ごと、その美術館にかかっている様子で収められているのがいいです。また海外のきれいな写真も満載、たまに福岡先生も登場してます。
読んでいるあいだ、とても幸福な気持ちになる、素敵な本だと思いました。フェルメールが旬の今、ぜひご一読を!


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芸術実行犯 Chim↑Pom (朝日出版社)

2012-07-22 | 

全身コレ卵色のこの小さな本に、何という衝撃がつまっていることでしょう!!

アーティスト集団「Chim↑Pom」の名前を知ったのは、震災直後の2011年5月、渋谷駅に展示されている岡本太郎の巨大壁画「明日の神話」に今回の福島の原発事故をイメージさせる小さな絵が付け足されている!という事件(?)があったとき。
広島の原爆ドームの上空に「ピカッ」と文字が浮かんでいるのも、その写真を新聞で見た記憶があります。

私は「アートはこうあらねばらなない」という考えは一切ないので、けっこう何でも面白がることができると思っているのですが、彼らのアートには何というか、少し気持ちを「ザワザワ」させられるような、そんな思いを抱きました。

しかし、それこそ彼らのアートの在り方であったことがこの本を読むとよくわかります。
会田誠さんに触発された6人の若者が、アートで何か面白いことをやりたい!と始めた「Chim↑Pom」。これまでの彼らの衝撃的な作品が生まれたエピソードが書かれていて、彼らの真摯に社会に向き合い、その表現をさぐっていく様子には、なんだかワクワク、興奮を覚えます。

大都会でしぶとく生き抜くネズミを捕獲してピカチュウの剥製にした「スーパーラット」。
実際にカンボジアの地雷撤去の現場で作成された「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」、それに関連してアートバブルの状況を皮肉って開催されたオークションでは、地雷で爆破されたブランドバッグやエリイ(メンバーのひとり)の等身大石膏像を逆オークションにかけ、当時最も高かったアート作品126億円からスタートし、そのお金で義足何足買えるかを表示しながら、どんどん値段を下げていく。買える義足の数もどんど減り会場は気まずい空気が流れ…。
平和の当事者として探求した彼らなりの表現「広島の空をピカッとさせる」。これは大騒動を巻き起こし、結局広島での展覧会は中止。

そして3.11以降は、冒頭の「LEVEL7 feat.「明日の神話」」。そして圧巻は「REAL TIMES」、福島第一原発の事故から1ヵ月の4/11に、原発から700mの距離にある東京電力敷地内の展望台に登り、「到達困難」な場所での慣習にならい旗を立てるまでを収めた映像作品。その時の様子は読んでいてドキドキしますし、何でそこまで…!みたいに思ってしまう。
震災後に「アートは無力か?」と問われた時、彼らは未来に向けて、あるいは世界に向けて、その解答を示したのです。

第2章では、「Chim↑Pom」的な世界のアーティストが紹介されています。これは、以前の美術手帖の方が、写真も豊富で楽しめますよね。
第3章では、現在、ワタリウムで開催中の「ひっくりかえる」展のことも書かれていて、すっごいライブな感じです。彼らのアートって、どうにも美術館というハコに収まりそうにないのに、ワタリウムではいったいどんな展示が行われているのだろう??と思うとすごく興味深いです。来週29日までの開催、う~ん、見逃していいものか…とも思うのだけど。関西でもぜひやってください!!

というわけで、すっかりこのアーティスト集団に魅せられている私なのですが、でも「Chim↑Pom」こんなにわかりやすくファンを増やしていいのか?という気もするのよね。もっともっと「ザワザワ」した気持ちにさせる彼らでいてほしい…って気もするのです。
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「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」@三重県立美術館

2012-07-01 | 展覧会
行ってきました!大津から津までは、片道2時間半のちょっとした小旅行。(最安経路だったもんで…)
そんなでしたが、本当に行って良かったです!まだ半年終わったとこですが、おそらく今年1番の展覧会ではないでしょうか~?

辻惟雄先生による「奇想の画家」の中でも代表的といっていいほどの曾我蕭白。初めてそのナマ作品に接し、本当にビックリした!今まで見たことのないような絵画。面白くて面白くて、ずっと見ていたい作品ばっかり。

まず展覧会場を入ると、今回6年の歳月をかけて修復された伊勢の斎宮の旧家永島家に伝来する襖絵44面を一堂に見ることができます。いきなり「松鷹図屏風」の迫力ある松の枝ぶりに圧倒されました。鷹はすごく精巧な筆致で描かれているのに、松の枝の筆の疾走性(?)の対比がすごくて…。どんな筆でどんなスピードで筆を走らせたのでしょう??
他にも、生物を描いている作品は、鷹とか鶴とか、それ自体はすごく細かく描き込まれていて、どちらかというと作りもののよう。ところがその背景は空気が疾走し、水はグルグル渦巻き、波しぶきは触覚を延ばす…。主役は止まっているのに、背景は激しく動いているかのように感じられる。

描かれている人物はまさに「奇怪」。なんか身体全体のバランスも変だし、顔もお面つけているような変わった表情。こんな人ゼッタイいないようだし、でもどこにでもいる人のようだし…。顔もだけど、体の線は美しいのに、手の輪郭線だけがなんだかビリビリだったり、数人いる人物で、何でこれだけこんな表現?のような不思議がいっぱいで、ホント細かいところを見ていて飽きなかったです。
なんといっても「群仙図屏風」は凄かったです!!色もすごいキレイだし。描かれている人物、シチュエーション、表現、線、すべてが不思議で不思議で、あまりに面白い!特に右隻の手を上げた男の身体が風に吹かれてビリビリビリなのには、見ている人の眼が釘付け。絵の前で会話している人は必ず言及してましたよ。おもしろいよな~。

今回の展示は、襖はもちろん、軸や屏風など、けっこうハダカ展示されていたので、なんだか作品が身近に感じることができて、大変良かったです。ただ、屏風に描かれた作品が、もちろん屏風に描かれている意味があることを理解するのですが、やはり蕭白の画面全体の迫力を感じるために、できれば折らずに展示してほしかったな~と思いました。

いや~、こんなに素晴らしい作品をたくさん、あまり混んでいない(それは残念なことでもあるのだが…)会場で、ゆっくりじっくり心ゆくまで見ることができるのって、本当に至福の時間でありました!
来週(7/8)までなんだけど、ぜひたくさんの人に見ていただきたい、素晴らしい展覧会です。


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